第1章 彼女
皆んな〜♫ 元気かなぁ〜♫
夏だよ〜♫ 納涼だよ〜♫
怪談話だょ〜〜ッ♫
これは…実話です。
29歳の初夏…友人に誘われるまま、お見合いパーティに参加しました。当時、元カノと別れたばかりの私は、ムシャクシャしていたのもあり、初参加だったので、社会勉強くらいの気持ちで、参加しました。
まだ、別れた彼女に未練たっぷりの私は、参加したはいいものの、まったく、テンション上がらず、1人…惚けていました。
そんな時、…となり、いいですか?…と、1人の女性が、声を掛けてきました。
話を聞くと、どうやら、彼女も前の彼氏と別れたばかりで、落ち込んでる所を、見かねた友人から、気分転換に誘われたんだとか。
私と同じ、初参加で、…友達は、さっさとペアを作ってるし、どうしていいか、わからず、ウロウロしていたら、同じような惚けた私を見つけて、つい、声を掛けたらしいのです。
同じような、境遇の2人が付き合うようになるまで、たいして時間はかかりませんでした。
…、ところが、この彼女…すこし…変なんです。
苗字は、明かせませんが、名前は、京子といいます。
2人とも、仕事が忙しく、会うのは、だいたいが、週末の夜でした。
当時、私は、大阪でバイク便の雇われ社長をしていました。仕事の終わる時間が遅かったので、いつも彼女が、職場まで来て、車で実家まで、送って帰るといった、アッシー君のような付き合い方でした。
彼女の実家は、兵庫県の宝塚というところにあり、大阪の職場から、車で40分くらいのところでした。…付き合い始めて間がない私は…まだ、元カノへの未練があって、のめり込むような付き合い方は、到底出来なかったのです。
ある晩、彼女からデートに誘われました。
…でも、デートスポットが…ちょっと…変わってるんです。
初デート…、宝塚市の山奥にある、零戦墓地というところ。…昔、戦争で、撃墜された、零戦が、今でも、樹に引っ掛かっています。墓地と言うだけあって、無数のロウソクと木札(塔婆)が、所狭しと、並んでいます。
京子)…ねぇ、凄いでしょ!
始めて見る光景に息を呑みました。
私)…凄い!
樹に引っかかる本物の零戦を下から見上げ、思わず声を上げました。
その日は、僕をビックリさせようと、思って、わざわざ、サプライズを用意していたのかなぁ…ってくらいの感じでした。
…でも、次のデート…真夜中のキリスト教、幼稚園でした。幼稚園の真ん中に大きなマリア像が建っています。真っ暗な幼稚園の真ん中に白くぼんやり見えるマリア像は、不気味でした。
京子)…ねぇ、一緒にお祈りしましょう。
わたし、昔、ココで、先生をしていたの、懐かしいわぁ♫…、さあ、手を合わせて。
言われるままに、マリア像の前で祈るポーズ…。
その次のデート…ようやく、初の昼間のデート…でも、彼女の選んだ場所は、また、宝塚の山奥にある大木の前…。
京子)…ねぇ、大きな木でしょ〜♫…この木に抱きついてると、パワーをもらえるんだよ。ねぇ、あなたもやってみて?…
言われるままに、両手を広げて、木に抱きついて。
私)…う、うん、なんか、元気をもらえたような気がする。。
…ようやく、ここで、気づく。。
私)京子ちゃん、今度は、もっと、こう…遊園地とか、水族館とか、デートらしい場所に行かない?
京子)…別にいいけど…そうね、あなたは、いつも仕事終わりが遅いから、今度は、綺麗な夜景を見に行きましょう。
…この、夜景デートが、わたしが生きてきた人生の中で、最大の恐怖と異次元の体験をする事になるとは、…この時、考えもしませんでした。
いつものように、仕事の終わる時間に彼女は、会社に来ました。
私)…あ、お待たせ。
彼女を車に乗せて、いつも通り、自宅の方に向いました。
京子)…ねぇ、今日は、天気が良くて、よかったね。すっごく、夜景の綺麗な所に行きましょ。
彼女は、上機嫌で、道案内を始めました。
彼女の自宅からほど近い場所に、甲山という、関西では、知られた山があります。この甲山に向かうように促されました。
5差路の交差点に差し掛かると、いちばん細い道に入るように、促されました。…すると、そこから、いっきに峠道へと景色が変わり辺りは、真っ暗な道が続きます。
京子)…そこよ。
彼女が指さす方向に駐車場がありました。
もちろん、誰も停まっていません。
街路灯の近くに駐車しようとして…
京子)…そこじゃあ、入り口から遠いから、もっと近くに停めましょ。
私は、言われるままに、暗がりの場所に車を停めました。
京子)…さぁ、行きましょ。
彼女は、そそくさと車から降りると、私をエスコートするように歩き出しました。
私)…あ、ちょ…ちょっと…待って。ココって、お寺か何か?
彼女の行き先に、大きな石造りの鳥居を見つけて、思わず、訪ねました。
京子)そうよ。
彼女は、上機嫌で答えます。
え?…内心、またかよっと、思いながら。
私)…ちょっと…夜景を見るんじゃ?…無かったの?
京子)そうよ…ここの境内から見える夜景は、すっごく綺麗だよ、ついて来て。
彼女は、鳥居をくぐると、どんどん先へ歩いていきます。
私)…ちょっと…京子ちゃん?…怖くないの?
夜の鳥居を抜けると真っ暗な闇が拡がり、そのいちばん暗い場所に向かって、彼女は、歩いて行きます。
京子)え?…なんで?…ちょっと暗いけど、この階段を登ったら、すっごく綺麗な夜景が見えるから大丈夫だよ。
相変わらず、上機嫌で答えます。
…元カレと来たのか?…軽い嫉妬心がありましたが、それ以上に、胸騒ぎが止まりません。
私は、霊感が強く、霊体験をする前に必ず前兆がありました。
それは…雨でも無いのに、首筋のあたりに、水滴が落ちるような感覚に襲われるのです。
…この日も、鳥居をくぐった瞬間…ぴちょん。
…首筋に水滴が。
彼女は、すでに階段の中腹あたりまで、進んでいます。
京子)ねぇ、早く来て。
私は、意を決して、階段を登り始めました。
…い…いる…人の気配を感じます。
階段を1段登る度に、私の歩調に合わせて、両脇の草むらに人の気配を感じます。私は、草むらに気配を探します。
1段…2段…3段…階段を登る度に気配は増えていきます。
4段…5段…6段…あ?…あれ?…か、からだが、動きません。…まるで見えないバリアにぶつかって、両足を掴まれているように、足が動きません。…恐怖を感じ始めていました。
私)…ちょっと…京子ちゃん?
彼女が、見当たりません。
どうしても、足が前に動きません。
私は、そのままの姿勢で、ゆっくりと、階段を下り始めました。
1段…2段…3段…4段…、ようやく体が少し軽くなったので、振り返って、階段を下りました。
…京子ちゃん、大丈夫かなぁ?…不安が襲って来ました。
?…ふと、鳥居の横でフワフワした白いモノが目に入りました。
…あれ?…なんだろ?
私は、その白いモノに近づいて行きました。
それは…真っ白な布旗でした。
布旗には、こう…書かれていました。
「弘法大師千年祭・神呪寺」
…このお寺…神呪寺っていうのか…かんのうじって、読むのかなぁ、なんか怖い名前だな。
そんなことを考えていると、彼女が、怒った様子で、階段を下りて来ました。
京子)…どうしたの?
私)あ、いや、今日は、ここのお寺で神聖な儀式のあった日のようだから、遊び半分で、境内に行くのは、辞めようよ。
彼女は、納得しません。
京子)…え?…どうして?…せっかく、ここまで来たんだから…夜景、すっごく綺麗だよ。
私)え?…京子ちゃん、もう見てきたの?
京子)…ううん、階段を登りきって、振り返ったら、全く姿が見えないから、慌てて降りてきたのよ。早く、行こうよ。
説得できる自信が無かったので。
私)…京子ちゃん、ゴメン。
…なんか、急にお腹が痛くなって、気分が悪いんだよ。ほんと、ゴメン。また、今後で、お願いします。
京子)え?…大丈夫?…わかったわ、今日は、戻りましょ。
…ありがたい、アッサリと引き下がってくれました。
鳥居を抜けると、真っ直ぐに車に戻ります。
…また、首筋に…ぴちょん…背筋のゾクゾクがとまりません。彼女が車に乗り込みます。
ルームランプが、車の窓ガラスを照らしています。
…あれ?…これ、なんだろ?
窓ガラスにカラスの足跡のようなモノがついています。窓ガラスから天井まで…カラスの足跡?
…でも…ちょっと待てよ、だいたい、カラスが窓ガラスを垂直に歩くことなんて出来ないよな?
京子)ねぇ?…どうしたの?
不思議そうに私を見る彼女に。
私)あ、いや、ちょっと車の汚れが気になっただけ、京子ちゃんは、音楽でも聴いといて。
そう言って、懐中電灯を取り出して、照らしてみます。
うっ…。
…カラスの足跡と思っていた汚れは、無数の子供の手跡でした。赤ちゃんの大きさから小学生くらいまでの手跡が、後部座席の窓ガラスから天井までびっしりと付いています。
私は、慌てて、運転席に飛び乗り、駐車場を離れました。
京子)どうしたの?まっ青よ、顔色が悪いわ、どこかで休んで行く?
彼女の言葉に返事が出来ないくらい気分が悪い…一刻も早くココを離れたい…。
京子)ねぇ、ココを左に曲がると近道よ。
近道という言葉に反応しました。
私)ありがと、ゴメンね。
そう言うと、私は、ハンドルを左に切りました。
私)あ!…あれ?
目の前にバリケードが現れました。
私)京子ちゃん、土日は、通行禁止だって。
京子)あれ?…おかしいなぁ…いつも通ってる道なのに…。
ブォーン!
すると、後ろから、パッシングしながら、スポーツタイプの車が1台、私達の車を追い抜いて行きました。
バリケードにぶつかる!
…そう、思った時、バリケードのわずかな隙間を縫って、走り去って行きました。
…わずかに1台分隙間が空いています。
京子)ねぇ、行けそうだよ。
私)あ、あぁ、行けそうだね。
街路灯も無く、真っ暗な、峠道を下るのは、怖かったのですが、まだ、先を走る車のヘッドライトが、見えています。…今のうちに、あの車についていこう。…そう思い、いっきに走り出しました。
しかし、こちらは、4ドアセダン車…向こうは、スポーツタイプ車…みるみるうちに、離されて、カーブを3つも抜けると、全く姿が見えなくなりました。
私は、車のライトをハイビームにして、ゆっくりと下山する事にしました。
あれ?…なんだろ?…先のカーブに霧が立ちこめています。ハイビームだと益々見えないので、ロービームに切り替えます。
京子)あれ?…バイク。
彼女の視線の先を見ると、バイクを押してあがってくる男性が見えました。
私)ガソリン切れかなぁ。
少し、びっこを引いているようでした。
こんな、真っ暗闇で、霧の中、怖いだろうに…。バイクの男性を横目で見ながら、通り過ぎます。
…。
私)ねぇ、京子ちゃん、さっきのバイク…助けてあげたいんだけど…いいかな?
京子)え⁈…具合、悪いんじゃ無いの?…大丈夫?…あなたが、平気なら、私は、全然構わないよ。
私は、バイク便を経営していましたから、こんな時の為に、バイク用の工具と、車からバイクにガソリンを入れる事のできるポンプを常備していました。
私)…でも、こんな峠道じゃ、Uターン出来ないなぁ…。
京子)この先に自動販売機のある、小さなパーキングエリアがあるから、そこでUターンすればいいよ。
言われるまま、走ると、真っ暗な道沿いに、明るく照らされた自動販売機を見つけました。
私)京子ちゃん、悪いけど…運転代わってくれないかなぁ?
京子)いいけど…どうして?
私)運転席からだと、側道を押しているバイクの男性に声が掛けづらいから、助手席から、話し掛けようと思ってね。
京子)OK、わかったわ。
そう言うと、彼女は、運転席に乗り込みました。
京子)ゆっくり走るよ。
しばらく走ると、こちらのヘッドライトに照らされて、暗闇にぼんやりとバイクの反射板が光ります。
私)あ!…居た居た。まだ若い子みたいだ。
あと…100m。
…おかしいな?…違和感を感じました。
普通は、バイクを押す時、進行方向に向かって、バイクの左側に立ちます。彼は、右に立って押しています。
あと…50m。
…ん?…また、違和感を感じました。
10年以上前に生産を終了した、スズキのラブスリーというスクーターです…が…新車のように綺麗に見えます。
あと…30m。
あ…京子ちゃん、もう少し、路肩に寄ってくれる。
窓を開けて、身を乗り出します。
あと…10m。
声を掛けようと、息を吸い込みます。
あと…3m。
男性が、私に気づいて、振り向きました。
……絶句しました。
ありません。…彼の左目あたりから上半分…頭がありません。しかも、私を突き刺すように睨む右目は、真っ赤でした。
一瞬で、悟りました。
…この世の人では…無いと。
車から身を乗り出していた私は、慌てて、助手席に張り付くように、ヘナヘナと座り込み、必死で、パワーウィンドウを閉めていました。
京子)あれ?…声…掛けないの?
彼女からは、死角で、見えなかったようです。
車を停めようと減速します。
私)行って!…行って!…はやく。。
声にならない声を振り絞って、彼女に伝えます。
京子)?…どうしたの?
私)いいから、とにかく、走って!
彼の怒気が、まだ、ビリビリ伝わってきます。
…ヤバイ…はやく…逃げないと。
彼女は、何がなんだかわからず、困惑しながら運転していました。
さっき、突破したバリケードを抜けると、鳥居の横の駐車場に車を停めました。
私は、彼女と運転を変わると、猛スピードで、走り出しました。
彼女は、びっくりしています。
京子)そんなにスピード出したら、怖い!…チョット停まってよ!
パニックでした。
京子)停まってって!…聞こえないの‼️
ようやく、ストップします。
先ほどから、あきらかにおかしな、私の行動に業を煮やし、彼女が詰め寄りました。
京子)一体全体どうしたの?…今日のあなたは変よ?!…おかしすぎる。私と居るのが、そんなに嫌なら、もうイイよ!…私、ココから歩いて帰るから。
そう言うと、彼女は、車から降りてしまいました。
私)ち、違うよ、京子ちゃんは、悪くないよ。
…もう、話すしか…ありません。
ここまでの出来事を彼女に話しました。…階段での出来事、手跡、さっきのバイク。
すると彼女は、恐る恐る、窓ガラスを確認します。…無数の子供の手跡…。
彼女は、助手席にうずくまって、座布団を顔に押し当てたまま、わんわん、泣き始めてしまいました。
彼女が、パニックになると、なんだか冷静になってきました。
…なぜか?…だんだんと…腹が立ってきました。
私)ちくしょう!…こんなに怖がらせやがって…ちくしょう。
私)よしっ!…京子ちゃん!
もう一度戻ろう!
一瞬で彼女は、泣き止み?…いや、絶句しました。
京子)私は、いかない。
…ひどく、怯えています。
私)さっきのバイクの男の子は、僕の見間違えかもしれない。それに、この手跡も、たくさん樹木が植えてあったから、落ち葉のイタズラかもしれない。…このまま、怯えて帰ったら、もう2度と来れないよ。
…私は、今…なんてことを言ってるんだろう…。
…心の中で、死ぬ程、後悔していました。
でも、まだ、直接何かされたわけでもありません。…このまま、怖がらせられたまま、帰りたくなかったのです。
バイクの男の子と遭遇してから、まだ5分程しか経っていません。あのまま、バイクを押し続けいるとしても、山頂のバリケードまでは、10分以上は、掛かります。
私)今ならまだ、バイクの男の子に会える。
…私は、何を言ってるんだ?
怒りが、私の心を支えているようです。
車をUターンさせます。
…彼女は、また、号泣します。
京子)イヤ!…怖い、怖い、怖い!
…泣きながら、訴えます。
私)…わかった。…じゃあ、お寺の駐車場に車を停めるから、京子ちゃんは、車で待ってて。…歩いて見てくるから。
駐車場が見えました。
京子)わかったわ。一緒に行くから、車から降りないで!
…泣いていますが、少し、落ち着いたようです。
私)京子ちゃん、ありがとう。
目の前に、バリケードが見えます。
私は、ヘッドライトをハイビームに切り替えて、ゆっくり、前進しました。
1つ目のカーブ
…ん?…いないなぁ。
2つ目のカーブ
…いない。
3つ目のカーブ
…やっぱり、いない。
6つ目のカーブあたりから、霧が立ち込めてきたのですが、今は、霧も出ていません。
私)あれ?…おかしいな?
バイクの男の子の姿が、ありません。
ふと、助手席をみると、座布団を頭から被った彼女がガチガチと震えています。
9つ目のカーブ
彼と遭遇した場所です。
…やはり、居ません。
私は、この先にあったパーキングで、Uターンすると、今来た道をもう一度登り始めました。
確か、次のカーブのところで、あの霊体に会ったんだ。…そう思った瞬間でした。
目の前を煙のようなものが横切りました。
キーィッ!…思わず急ブレーキを掛けました。
…なぜか、呼ばれているような気がして…車を降りました。手には、懐中電灯を持っています。
そこに、さっき感じた、怒気は無く、痛い、辛いといった悲しげな気が伝わってきます。私は、ガードレールに近づくと、辺りを懐中電灯で照らしてみました。
……ありました。ガードレールの奥…2mくらいのところに、ボロボロのラブスリーが、ころがっていました。あの男の子は、きっと、このカーブを曲がりきれずに、亡くなったのでしょう。…私は、深々と頭を下げて、手を合わせました。
私)そっか、ココで亡くなったんだね。成仏して下さい。
私は、車に戻り、彼女の家に向かって、車を走らせます。
しばらく走ると、街路灯が明るい国道に戻ってきました。ようやく、彼女も落ち着いたのか、顔を上げて、こちらを見ています。
京子)…どう、なったの?
…ずっと、座布団に顔を押し当てて、うずくまっていたので、私が何をしていたのか知らないようです。
私)お盆に死者が帰るって、ホントみたいだね。
…私は、思った事の一部始終を彼女に伝えました。オカルトっぽい話と軽蔑されるかも…っと、思いましたが、どうやら、彼女は、信用してくれたようです。
無事、彼女を送り届け、自宅に向かいました。
なんだか、謎が解けたような気分で、結構スッキリした気持ちで帰宅しました。
…でも、本当の恐怖は、ここからでした。
昨日は、土曜日だったので、今日は、日曜日です。晴れたいい天気です。
子供の手跡が、気になっていたので、洗車に行こうと思い、駐車場へ向かいました。
え⁈…なんで!?
車を見て、びっくりしました。
天井は、キズだらけ…ボンネットに至っては、自転車のようなもので、何回も叩きつけたように、ベコベコです。…寒気が走りました。
駐車場は、私の家と背中合わせにあり、路地から、周ったところにあるのですが、普段は、閑静な住宅街なので、そんな大きな音が聞こえるとすぐにわかるような場所です。
確かに、昨晩は、いろいろあって、疲れていたかもしれませんが、近所の人が全員気づかずに、これだけの破壊行為をするのは、不可能に近いのです。念のため、警察を呼んで、状況写真を撮ってもらいました。
警察も私と同じ見解でした。…自転車のようなもので、何度も叩きつけたようだと…。
なにか…得体の知れないものに見初められたんじゃないのだろうか?…いい知れない不安に襲われました。
翌日…月曜日。
…不安は、現実になりました。
夕方6時頃…ガソリンスタンドに向かおうと車を走らせます。近所の駅前は、この時間…いつも、渋滞します。
私)ハァ、…また、渋滞かょ。
ふと、ルームミラーに目がいきます。
ん?…後を走る車…結構なスピードで突っ込んできます。
私)わーーっ!
キキーーッ!…ドッカーン!!
後の車が突っ込んで来ました。
体は、なんともなかったので、直ぐに車を降りました。
私)あ〜あ〜ッ!
…リアのトランクが、ベッコリへこんでいます。青いスポーツカー、運転しているのは、二十代後半くらいの青年でした。
私)おいっ!…車を寄せて、降りてこいよ!…え?…ちょっと、おいっ!
窓ガラスを叩いて静止を促しましたが、私と目も合わさず、渋滞をかいくぐって、走り去りました。…当て逃げです。
私は、色も、車種もナンバーも記憶していたので、3時間後に彼は、警察に逮捕されました。
夜の11時…警察署から、電話を受けた私は、出頭しました。
そこには、ガタガタと震えてうずくまる加害者の青年がいました。警察の聴取を終えて、加害者と加害者の家族が謝罪をしたいと、私を待っていました。
青年の父親)この度は、本当に申し訳ありませんでした。
…本人は、謝らない…私は、ムッとしました。
私)あ、あなたねぇ、なんで逃げたの?
青年)ご…ごめんなさい。
…ガタガタと震える声で、顔面蒼白です。
私)逃げても、絶対につかまるんだから、逃げちゃダメでしょ。何?…よそ見してたの?
青年)…ったんです。
私)え?…なに?
青年)…えなかったんです。…本当に…見えなかったんです!
…震える声を振り絞って、そう言われました。
青年)気づいた時には、当たっていて…怖くて…怖くて…。
また、ガタガタと震えだしました。
私の車が見えなかったんだ…。
恐怖しました。
私は、彼の車の動きを当たるまで、ルームミラーで見ていました。…だから…彼が、嘘をついていないと確信できました。
…もし、これが、バスや大型トラックだったら、今、ココに私は居ない。。
やはり、あの時から、霊体に引っ張られている…そう、思えました。
次の日…修理工場をキャンセルして、車を廃車しました。
しばらくして、彼女とも、別れました。
なんでも、彼女の家は、エホバの会という宗教の強信者で、例え、自分の子供でも輸血を禁止している宗教らしく、結婚して、子供が出来て…もし、子供が輸血を必要とするような、大怪我にみまわれても、子供の天命として、諦めるといった思想を持っていました。
結局、子供が出来ても、見捨てる…見捨てない…で、口論となり、別れてしまいました。
20代…最期の…奇妙な体験でした。