その名は炎龍7
落ちた仮面を踏みつぶし、陽炎は笑みを浮かべた。
表現できない程の殺気にハヤトが額の汗を拭う。
隠し持っている作戦があるとすれば、今までの戦いは遊びに過ぎないのだろうと誰しもが思った。
どう出て来るのかと気配を探っていた炎龍は、ふと後ろを振り返る。
「なんだと!?」
陽炎が二体に増えていた。
腕を組んで笑みを浮かべる姿に戸惑いを隠せない。
「ふふふ、ふはははははははは……」
更に増え、笑い声も増えてく。
「はははははははは……」
「っ、ハヤト!」
対抗策を考えるもどんどん増えていく状況に手に汗を握る。
何か無いのか。
考えろと自分に言い聞かせ、設計図を思い出した。
まだだ、まだあれがある。
ハヤトは拳を握って囲まれている炎龍に向かって叫ぶ。
「飛べ、炎龍!」
背中から薄い八枚のウィングパーツが現れ、空中へ回避する。
舌打ちをしたマサヤも指示を出す。
「おい、飛べるのはお前だけじゃない」
漆黒の翼が陽炎の背中に生え、浮遊する。
分身も宙を浮かび、刀を構えた。
目にも止まらぬ速さで次々と刀で攻撃をされ、剣で防ぐも亀裂が入り始め苦戦を強いられている。
ウィングパーツを使って回避をするが間に合わない。
「これで最後だ!」
陽炎の声と同時に分身が襲い掛かって来る。
リノとユウキは不安げな表情を見せた。
「ハヤト……ハヤトォォォォォォォォッ!」
思い切り叫ぶとハヤトは笑みを浮かべ、隠し技を使う事を決める。
分身に何かが突き刺さり消えて行く。
マサヤが驚いた表情で状況を理解しようとしていた。
背中のウィングパーツが鋭い刃となって反撃をしている。
それも武器だったのか。
回避に成功した陽炎は拳を剣にぶつける。
剣は砕け、刃が地面に突き刺さっていた。
あとは拳しか武器が無い。
分身を倒しても、状況は変わらずにいた。
『陽炎、いいぞ』
「ふん、俺の上に立つなど……片腹痛いわ」
ハヤトの顔は絶望の色を見せる事をせず、むしろ楽しんでいるように見える。
ここまで追い込まれてもまだ折れないかとマサヤは顔を顰めた。
「どうした?もう、武器は無いだろ……諦めろ」
「へっ、まだあるさ!」
他に武器などあるのかと炎龍の姿に視線を向ける。
装着されている武器なんて存在しない。
ハッタリだろうと鼻で笑い、攻撃をしかける。
刀が流れるように軽やかに振るわれ、炎龍は身を引く。
やはり、出任せかとマサヤは勝利を確信した。
「止めだ!」
鋭く光る刃。
金属音が響き、リノとユウキは目を閉じる。
止める事は出来なかったのか。
ハヤトが動揺した眼差しで両手を台に付く。
「ははははははっ!やっぱりな、やっぱりハッタリだったか!」
「……」
何も言わずに目を閉じる。
笑い声だけが会場に響いていた。
「……マサヤっ!」
陽炎の声にマサヤは笑うのを止める。
目に映る光景に信じられないという表情でハヤトに視線を向けていた。
刀は、受け止められ炎龍は傷一つない状態で立っており手には剣が握られている。
何処から出したのかと確認するとウィングパーツが一枚足りない。