その名は炎龍9
「くそ……なんで、俺は……勝利欲しさに周りが見えてなかった……こんなの、楽しくない……」
ポタポタと涙が溢れる。
小さな頃、憧れてやっと手に入れたロボットに触れた時の喜び。
初めて掴んだ勝利。
自分の手で汚してしまっていた。
最低な行為だ。
「マサヤ、俺は正々堂々と戦いたい……だから今度もし戦う機会があったらさ、もう一度戦ってくれるか?」
ハヤトの言葉にマサヤは頷く。
壊れた陽炎を受け取って抱きしめる。
「そいつを渡してくれるか?」
炎龍はマサヤに言った。
マサヤは頷くとコンテナを降りてハヤトに渡す。
静まり返った会場。
司会者は自分の役目を思い出して口を開く。
『勝者、炎龍!』
観客は、次第に歓声を上げて盛り上がる。
マサヤが壊してしまった選手に謝って帰って行く。
「絶対、勝負の続きしような!絶対だぞ!」
大きな声で言うと片手を上げて会場を後にした。
陽炎は一目でわかる程に再起不能となっている。
死んでしまったのか。
炎龍に尋ねると、まだ生きていると答えが返って来た。
「本来のダークソルジャーは、コアを破壊すれば消滅する」
「じゃあ、コアを壊してないのか?」
「……彼は、私の友人だ邪悪な力を浄化させれば復活するだろう」
もしも、復活した時。
陽炎はどうするのだろう。
冥王星に帰るのか、それとも。
「それよりも、セリナとした話を聞きたいがいいだろうか?」
少女との会話。
あまり覚えていないが、どうして自分に話しかけて来たのが気になる。
とにかく、会場を出ようとするハヤトにリノとユウキが駆け寄って来た。
親指を立てる二人に笑顔を返す。
「やったね、ハヤト」
「いいなぁ、僕もロボット欲しくなっちゃった」
「そう言えば、スターソルジャーって炎龍だけなのか?」
炎龍に聞くとしばらく黙り、返答をする。
「それも含めて君達に話がある、いいだろうか?」
三人は頷く。
場所を移動しようと決め出口に向かう。
が、中継で見ていた取材陣が出口で待機しているのを見て立ち止まる。
今は、タイミングが悪い。
取材は受けてられないと三人はどうするか顔を見合わせる。
「おい、こっちだ」
呼ばれて振り返るとマサヤが手招きしていた。
急いで引き返し、関係者以外立ち入り禁止と書かれている扉のロックを外すと手招きをするマサヤ。
入ってもいいのか、不安になりながらも急いで入る。
「ここは、取材を受けたくない選手専用の通路だ」
バトルに参加したのだから、関係者で間違いないと言われ安心した。
もう一つの出口を目指しながらマサヤは言う。
「大会が終わってから、一人一人に謝った」
「許して貰えたか?」
「いや、まだ……でも、俺がした事は最低な行為だ簡単に許されるなんて思っていない」
「そっか」
立ち止まって振り返ると悲しそうに笑う。
それが何を意味しているのか、分からなかった。
出口用の扉の前でマサヤはカードキーを読み込ませてロックを解除する。




