時坂悠哉の場合
さっきの藍那、泣きそうな顔してたな…。
心配そうな藍空の隣、ジョッキを煽る。
昔から俺は自慢じゃないが何でも出来て。
それ故に、本気になるという事が出来なかった。
「(好きになった女にも、大抵フラれてばっかだし…)」
顔は良い方だから、モテない訳じゃない。
けど、俺が好きになった相手は、俺の事を好きにはならない。
「…あーもう!!」
俺も行ってくる、と、藍空に告げて席を立つ。
何でこんな気になるんだよ…。
まだ全然酔ってねぇっつーの。
店を出て、辺りを見回す。
脇道の陰に藍那を追いかけた遥香が見えて、俺は少しホッとしながら、遥香と一緒にいるであろう藍那の元へ向かった。
「藍…」
「分かってるのよ。
アイツに他意はないって。
でも、どうしても我慢出来なかった。
アイツは何も知らないのに、最低よね、私…」
思わず足を止める。
アイツとは、俺の事だろう。
「悠哉は気にしてないよ。
戻ろう藍那」
「そうね…。
ありがとう遥香、お陰で落ち着けたわ。
…私も、何であんな奴好きになっちゃったのかしら」
「…でもやっぱり、悠哉の事が好きなのよね」
ヒュッと喉の奥で音がすると同時に、脇道から出て来た藍那と目が合った。