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捌幕 化物もどきはバケモノにはなれない 伍

 そう叫ぶと同時に、マダチを刃のついていない短刀二振りに作り替え、二人の間に割って入る。

 二人の驚いた顔。それを冷静に見るだけの余裕が、今の僕にはある。

 そして、僕は二人の攻撃を受け止めた短刀を棒状に一気に変形させ、腹を狙って伸ばす。


「がっ!?」

「ぐっ……!」

「……二人とも。戦いをやめて。僕は、殺すのも、殺されるのも、それらをただ眺めているのもごめんだ。どうしても続けるっていうんなら、まずは僕を殺してからにして!」


 この力が、後どれだけ続くかなんてわからない。もしかしたら、一秒とたたずに力が切れて、二人になすすべもなく殺されてしまうかもしれない。

 それでも、僕はそう叫んだ。


「ぬしよ……そこまでして、悪魔をかばうか?」

「悪魔をかばうんじゃない。僕は、話し合いがしたいだけだ。殺し合いじゃない」

「ですが、話し合いはすでに不可能です。条件が合わないことは、確認できたでしょう?」

「だから何? 条件が合わないのなら、妥協点を探すのも話し合いでしょ? 僕は、目の前で妹が……大切な人が、殺されるのを見たことがある。その思いを二度もするつもりはないし、カレンにもそんな思いはさせたくない」


 僕の言葉に、ピエラータも、狐子も動きを止めた。

 無力な人間の言葉が、神に、悪魔に届いてくれたのだろうか。


「……ねぇ、狐子。こういうことにはできないかな? 今回、僕たちは、悪魔の存在になんてこれっぽっちも気づいていなかったんだ」

「ふざけるな! 悪魔を見逃せというのか? このわしに対して!!」

「だから! 見逃すも何もない。僕たちはピエラータなんてマジシャンとも、カレンなんて助手とも出会っていないんだよ。そう言う風に、できるんじゃないかな? だって、魔の力はマイナスの力、何かを奪う力……だったら、記憶を奪うことだってできるはずでしょ?」

「……私に、貴方たちの記憶の操作をしろと。そうおっしゃるので?」

「そうなるね。もしも二度目の初対面をしたら、僕はまた狐子に伝えて、狐子はまた君たちを殺そうとするかもしれない。けれど、そうならないようにすることだってできるんじゃない?」


 この交渉は、里奈さんとの記憶の一部を失うことを意味している。たとえ、里奈さんに“あのマジシャンさんはすごかった”と言われても、僕は何も思いだせなくなるのだろう。

 それでも、それは小さな問題だ。誰かの大切な人が失われることと比べれば、取るに足らないことだ。


「活動拠点を移せば……あなたたちと出会うことは、まずないでしょうね。わかりました……私は、その条件をのみます」

「ありがとう。狐子、話はまとまったよ」

「……わしは、その条件をのむとは言っておらぬぞ」

「狐子……」

「ああ、仮にあの子との出会いもなかったのならば、その条件を是としたことだろう。けれど、わたしはあの子と出会っている。あの子の最期を知っている」


 あの子……? 一体、誰の事だ? そう疑問に思うと同時に、狐子の力が増すのを感じた。


「だから、わたしはその条件に否と告げる! 悪魔の言葉に耳を貸し、同情するような人間もまた咎人(とがびと)とみなす!」

「狐子? 落ちつ――」

「たとえ、堕つるとしても……オンゾウライカホウ!」


 その言葉と同時に、狐子の姿は消えた。

 いや、消えたんじゃない。近づいたから、身長差で見えなくなっただけだ。

 そう気づくと同時に、僕の体は大きく吹き飛ばされた。

 そして、胸からは大量の出血。そこはもちろんのこと、腹まで痛む。

 おそらく、狐子は僕に対して木刀を突き刺し、腹のあたりを蹴り飛ばして、突き刺された僕の体を蹴り飛ばしたのだろう。

 妙にゆっくりに感じる時間。それは周囲のコンクリート製の壁が崩れる音と同時に終わりを迎える。


「か……はっ!」


 ああ、血を吐いたんだなと、口の中の鉄臭い匂いが僕に教えてくれる。それはそうだ。コンクリートが壊れるくらいの勢いでたたきつけられれば、人間なんて普通死んでいる。

 それでも生きているのは、さっきの言葉の力なのか、式神だから死ににくくなっているのかなんて区別はつかない。

 ただ、これ以上はどうしようもない。それだけは、はっきりと感じ取れた。

 心臓を貫かれるのは、二度目か。それじゃあ、死んでも仕方ないな。

 薄れゆく意識。そのくせして、ピエラータの背後で冷酷に木刀をふるおうとしている狐子の顔だけははっきりと見て取れた。


捌幕 了

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