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捌幕 化物もどきはバケモノにはなれない 弐

いつもと同じように、紫織の仏壇に手を合わせてから家を後にする。


「……さて、と」


 なんだか、今日は家が変わって見える。それは、僕の目が変わったからだけではないように思える。


「……『なんとか、平和に終わらせないと』」


 言霊で呟き、駅とは逆のほうへと歩き出す。この時間なら、里奈さんはもう駅にいるころだ。双葉は方角が違うし、礼尾は大学近くに住んでいる。先輩も同じくだ。顔見知りと会うことはないだろう。

 だけど、なぜだろう。僕は途中で顔見知りにあって、一緒に学校に行きたいような気がする。


「……弱音、だな」


 狐子の様子からして、出会うなり戦いが始まるということすらあり得るかもしれない。だから、僕はわざわざ言霊にした言葉すら実現させる自信がない。

 そんなことでは、実現できるものすらできなくなるというのに……本当に、僕は心が弱い。そういう危険な状況だからこそ、僕は僕の力を信じて、何とか平和的におさめるべきなのに。

 その思いから思わずため息をつく。それと一緒に僕から弱音を吐き出すつもりで……それなのに、僕の心はますます弱くなっていく。もしも狐子がピエラータを殺してしまったら? その逆は?

 前者ならカレンにとって、後者なら僕にとって最悪で、最低で、絶望的な結末。少なくとも、後者が起きた時、僕は冷静でいる自信がない。その気持ちは前者が起きた時のカレンも同じだろう。

 冷静でなくなった人間がどんな行動をするか。それは予想が難しいけれど……仇をとる、というのは十分ありうる。相手との実力差が分かっていても、だ。そうなったら、僕はピエラータに殺されるだろうし、カレンは狐子に殺される。そこまでは、想像できる。


「……弱気になるな。それでも化物か」


 頬を両手で軽く叩き、想像を消し去ろうとする。それは成功したとも失敗したとも言えない程度にくだらない思考から現実へと意識を引っ張ってくれた。

 僕は、なんとしてもピエラータと狐子を戦わせない、という目的を達成しなければいけない。だから、成功した時のことを考えよう。

 でも、成功した後、カレンとピエラータはどうなるのだろう。禊を受けるという約束を果たしてくれるのなら、ピエラータはカレンのことを………愛する相手のことを、一つ残さず忘れてしまう。忘れたという事実にすら気づけなくなってしまう。ピエラータは、それに耐えられるのだろうか……カレンも、愛する相手に自分を忘れられることを、受け入れられるのだろうか。

 でも、それを耐えてもらわないと、受け入れてもらわないと狐子は引きさがってくれないだろう。狐子は悪の字をつけられたものに対して過剰反応するところがある。だから、悪の字を消すための禊を受けてもらうしかないのだ。それが、二人にとってどれだけ残酷で、むごいことであっても、二人に生きていてもらうには、それしかない……!

 そう、生きてさえいれば、カレンがピエラータを覚えていれば、再会することもあり得るのだから。それが起きるのは、これ以上ないほどの奇跡的な確率なのかもしれないけれど、ゼロじゃない。

 あとは、僕の思いをいかにうまく話し、受け入れてもらうか。そこが重要だ。

 そう決意し、歩くこと数十分。僕はピエラータたちのショーが行われる小さな遊園地にたどり着いた。

 街中ではない、だからと言って外れのほうにあるとも言い難い場所に作られたそれは、建っている場所同様人気も中途半端だと聞く。潰れるほど人気がないわけではない。だからと言って栄えていると言えるほど人が来るわけでもない。

 そんな場所だから、最近地元で話題のマジシャンを呼んで盛り上げよう、というところだろうか。そのマジシャンが悪魔だと知ったら、どれだけ驚くかわからないけど。

 まあ、この場所ならば人を巻き込む可能性もある。狐子も無茶はしないでくれるかもしれない。


「待たせたか? ぬしよ」


 遊園地前で数分待つと、後ろからそんな声が聞こえた。

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