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参幕 呆然、そして 弐

 帰り道。僕らは、言葉を交わすことはなかった。だけど、それに気まずさを感じることはない。こんなに幸せな沈黙が、今までの人生であっただろうか?

 言葉を交わすまでもなく、僕らはつながっている。手のひらで。そして、心の奥底で。

 それを感じられるほど幸せな沈黙は、きっとこの世に存在しない。


「好きな人と過ごす時間って、あっという間なんですね。分かっていましたけど…今日は、普段以上にそう感じました」


 その沈黙は、里奈さんの言葉で途切れる。それは、ちょうど僕の家についたときだった。


「そうだね。僕も、できれば里奈さんとずっとこうしていたいくらいだよ」

「ずっと…永遠に?」


 そういう里奈さんは、なぜか不安そうに見えた。


「そうだね。言い方を変えれば、永遠に、かな」


 僕がそう答えると、里奈さんは儚げに笑った。


「それじゃあ…慎一さん。約束してください。私より先に死なない、って」

「わかった。約束するよ」


 里奈さんの空いているほうの手を取り、そう答える。

 でも、また戦いに身を投じようとしている僕にこの約束は守れるのだろうか。

 いや、そんな不吉な事を考えたって仕方ない。僕は僕を想ってくれる人のために生き残る。それだけの話だ。


「…ありがとうございます。それじゃあ、私たちは私が死ぬまで、ずっと一緒ですね」


 里奈さんは、そういいながら涙を浮かべていた。


「なにか…あったの? なんか、不吉な事を言って…」


 彼氏として気付いてあげるべきなのだろうけど、ここまで帰ってくる前はこんな風ではなかったし、帰ってくる途中も特に話していない。


「ごめんなさい…ずっと好きだった人と、一緒になれたからでしょうか…急に、終わりが怖くなって…」


 こらえていた涙がこぼれる。


「…っ、慎一さんが、悪いんです…! 最近の慎一さんは、怖いっ! 目を離したら、どこかに行ってしまいそうで…消えてしまいそうで! どうしてあんな顔をするんですか?」


 それと共に、激情もこぼれる。あんな、顔?

 分からない。僕の顔の何が、里奈さんをそこまで不安にしているの?


「ごめん…そんなに不安にさせていたんだね…」

「いつかいなくなってしまう…そんなの、全ての命に共通することです。でも、私は、慎一さんにだけはいなくなってほしくないんです…こんなこと、言ったら重い女だって思いますよね…でも、言わせてください…私は、慎一さんがいてくれさえすれば、他に何もいりません。だから…ずっと、私の隣にいてください…慎一さんだけは…私のそばに…」


 泣きながら里奈さんは僕に抱き付き、見上げながらそう言い続ける。


「約束する。僕は里奈さんと一緒にいる。里奈さんがそれを望むのなら、永遠にでも」


 見上げる里奈さん。その涙をそっと拭って、唇にそっと口づける。


「……!」


 驚いたように身を固める里奈さん。


「約束のキス…だよ」


 顔を離しながら言う。


「だったら…もっと、深い、約束をしてください」


 その言葉の意味は、僕にもわかった。

 再び、口づける。

 だけど、今度はそれで終わらない。


「…んっ……」


 父さんたちのいうところの“大人のキス”を、おずおずと、でも確かにした。

 その時間はきっと数秒。なのに…何分も、何時間にも感じた。


「知らなかった…キスって、こんなに気持ちいいんですね…」


 ぽーっとした顔で里奈さんはそういう。


「変なことばかり言って、すいませんでした。元気、出ました」

「悩み事があるんだったら、すぐに言ってね。空元気なんていらない。僕は里奈さんの正直な心を見たいから」

「はい。そうします…では、また」

「うん、またね」


 手を振ってその背を見送る。


「…大人のキス、しちゃったなぁ…」


 僕の口の中には、まだ里奈さんの味が残っている。きっと、一生忘れられないだろう。


「…家、入ろう」


 玄関の鍵を開け、中に入る。ただいま、と言う気分ではなかった。そして、一直線に自室へと向かう。


「……」

「狐子…やっぱり、僕の部屋にいたね。良かった…」

「………」

「…狐子? 何か怒ってる?」

「…怒ってなどおらぬ。わしには冗談でキスしようかなどというくせに、里奈にするにはずいぶん真剣なのだなと思っただけじゃ」


 え…? 見られてた? さっきのアレを!?


「男はけだものというが、本当じゃなぁ? これはわしも貞操を心配せねばならぬかのぅ?」


 いやみったらしく言う狐子。その口調に少し怒りを感じる。


「なにさ…人のことを路傍の石とか言っておいて、その石ころが人にとられそうになったら嫉妬するの?」

「嫉妬? そんな事はしておらぬよ。昨日も言ったじゃろう? 里奈と親しくなればよいと」

「だったらなんでそんな不機嫌そうなのさ?」

「さて、なんでかのぅ? 少しは自分で考えてみたらどうじゃ?」


 …わけがわからない。なんで怒ってるんだ?


「そのようなことより、重要なことがあるのではないのか? 今はそれを優先すべきじゃろう」

「…そうだね。僕の主観だけど…」


 とりあえず、僕の見たことをありのまま話していく。


「…ふむ。その入れ替えられた紙は持っておるか?」

「一応ね。はい、これ」


 紙を渡すと、狐子は眉をひそめた。


「…たしかに、穢れの残滓が感じられるな。悪魔は確かにいたらしい…じゃが、目的がさっぱりじゃな。奇術のためだけに姿を現したとは思えぬが…」

「あ、でも里奈さんがマジックの腕は本物らしい、みたいなこと言ってたかな。そういう言葉が出るあたり、何度かショーをやっているんだと思う」

「ふむ…ならば、ネットで検索すれば出てくるやもしれぬな。名前は覚えておるか?」

「うん。ピエラータって言ってた…検索してみる」


 パソコンを立ち上げ、検索ソフトにピエラータと打ち込む。


「最近この辺りでデビューしたマジシャンで…あらかじめタネを仕込んでおかなくては不可能としか思えないマジックでめきめきと頭角を現している…そんなところだね」


 ネットでざっと調べた感じでは、そのような印象だった。


「その不可能を悪魔の力で可能としているわけか…次の公演がいつかは分かるか? 実際にあって話をせねば詳しいことは分かりそうもない」


 狐子の言葉にうなずいて、公式サイトを開き、その中の公演スケジュールと書かれているリンクをクリックする。


「…明日もショッピングモールでやるみたいだ。土日続けて、ってことだね…」

「ぬしよ。明日、時間はとれるか?」

「たぶん。というか、とらないと仕方ないでしょう?」

「うむ。要請ではなく、強制じゃな」


 だよね…今日は何もしなかったとはいえ、悪魔を放っておくわけにはいかない。放っていたら何をするか分からないからだ。


「分かった。準備しておく。さて、それじゃあ…ちょっと出かけてくる」

「どこへ行くつもりじゃ?」

「小夏さんとこ。最近訓練つけてもらってなかったから、少しでも、ね」


 ついでに、ina:Reの社長が小夏さんなのかを確かめる。


「一夕でどうにかなるとは思えんが…体力は残しておけよ」

「分かってる。気分的な物だよ。それじゃ、また後で」


 部屋を後にする。


「あら、しんちゃん帰ってたのね。コートを脱いでいないということは、まだお出かけかしら?」

「うん。ちょっと散歩にね」


 階段をおりたところで母さんと会う。


「里奈ちゃんとはどこまで行ったのかしら~?」

「マジックショーだって言わなかったっけ?」

「そっちじゃなくて男女の仲の方よ~?」


 そうだろうと思ってた。分かってた。うん。

 男女の仲…さっきのキスを思いだす。


「うん、まあ…責任取らないといけないことは、したかも…しれない」


 顔が熱くなるのを感じながらそうかえす。あんなキスしたら、責任はとらないと…ね。


「あら~。ホテルによって帰ってきたのね~」

「そこまでは行ってないから」


 母さんにこんな言い方したのが間違いだった。


「Bまで行っていないということは、Aまでは行ったのね~」

「う」

「…あらあら。冗談で言ったつもりだったけど…あらあら~」

「…まあ、付き合うことになったから。母さんたちも、息子の友達じゃなくて、彼女だって扱いにはしてほしいかな」


 うわ、これ言っていて恥ずかしい…。

 でも、ちゃんと言っておかないとダメだよね。こういうことは、しっかり言わないと…。


「はいはい。元からそういう扱いをしてるから、心配はいらないわ~。それじゃあ、お散歩行ってらっしゃい」


 …周りの人は昔から分かってたのかな…まあ、教えるようなことじゃないから仕方ないけど…。

 とりあえず、外に出る。


「…はぁ。本当に寒いな」


 両手に息を吐きかけて、少しだけ寒さを紛らわす。


「…里奈さん、寒がってないかな…家まで送って行けば良かった…」


 手をつないでいれば、片手は温めてあげられた…でも、あんなキスをした後じゃ、まともに手をつないでいることすら難しそうだ。


「そういえば、前の戦いの時は一夕ではどうにもならないから戦いに向けて体力温存しておけ、とか言ってたのに…なんで今回は止めないんだろう」


 ふと疑問に感じながら、歩き出す。

 少しして、小夏さんのいる八千代神社までたどり着いた。


「こんばんはー」

「あら、慎一君。こんばんは。滅しなさい」


 小夏さんが放ってきた小さな霊矢をマダチを使って防ぐ。


「さん付けしなさいって言ってるのに何でさん付けしないの? バカなの?」

「いいじゃないですか。本人がそれを望んでないんですよ?」


 小夏さんは自分より親しくないと狐子を呼び捨てにすることを許さないと口癖のように言っている。でも、二人きりの時に狐子さんって呼んだら、小夏の言う事など聞かずとも良い、って狐子に言われるんだよね…。


「そうね…そういうことにしておいてあげるわ。で? 訓練しに来たの?」

「そうなんですけど…なんか、小夏さん動きにくそうな格好してますね」


 今日はゴシックドレス…か。

 ちなみに、普段着は巫女服を愛用している。それが九尾の狐の神である小夏さんだ。コスプレが好きらしく、常日頃からいろんな恰好で過ごしている。


「ああ、ちょっとね。でも大丈夫よ。どんな格好であろうと、慎一君程度に遅れを取るほど弱くないもの」

「分かってますよ。巫女服だって動きにくいだろうに、まともに一撃入れることすらできてませんから…」

「ふふっ、実力差、分かってきたみたいね」

「千年戦いに身を置いた存在に、二十にもなっていない僕が勝てるとは思っていませんよ。今は、ね」


 僕がそう言いながらマダチを霊弓の形にすると、小夏さんは意味深にほほ笑んだ。


「そうね…私に勝てるようになる日、楽しみにしているわよ」


 そう言いながら、小夏さんはマダチを打ち刀に変える。


「それにしても、あなたって不思議ねぇ…教えていないのに、霊力強化を使いこなせるようになってるし。狐子が教えたわけじゃないでしょう?」

「ええ。どういうことか分かりませんけど、精神世界の中で仮面の人物に教わったんです。不思議ですね…あの人も、僕のはずなのに、僕の知らないこと、できないことを次々にやってみせる」


 言いながら霊矢を作り、構える。


「ふぅん…慎一君。やっぱり、あなた面白いわ」


 にやりと笑い、小夏さんも構える。


「いきます」


 宣言と共に、矢を放つ。高速で飛んでいくそれを、小夏さんはあっさりと斬りおとす。

 けれど、それであきらめはしない。即座に矢を作りだし、再び放つ。


「慎一君。複数の矢をまとめて放つってできそう? 最後にあった時、課題としてやり方は教えたわよね?」


 その矢を斬りおとしながら小夏さんは言う。


「ええ。霊力を複数の球にしてやる、ってあれでしょう? 練習はしましたよ」

「そう」


 そう言って小夏さんは構えをとく。時間をやるからやって見せろ、ということだろう。


「まず、二本」


 手の中に二つ霊力の球を作りだし、つがえ、放つ。これくらいなら少し意識する程度でできるようになった。


「これだけ?」


 一振りで全ての矢を斬りおとし、小夏さんは挑発的に笑みを浮かべる。


「まさか…三本、まとめて行きます」


 霊矢を指の間に挟み、三本の矢をまとめて放つ。


「少しはできるようになったみたいね。でも、指で挟んでいる以上三本以上はできないかしら?」


 やはりあっさりと斬りおとし、小夏さんは言う。


「そうですね…でも、自分で工夫して、こういうこともできるようになったんです」


 できる限りの霊力を手の上に球として発生させる。


「警告しておきます。よけてくださいね」


 その球を矢へと変える。その太い矢をつがえる。


「…? 一本だけじゃない」

「それはどうですかね」


 矢を放つ。それと同時に、その矢への注意をそらす。

 すると、太い矢は散らばり、無数の矢となって小夏さんへと向かう。

 しかし、小夏さんはそれに動揺を見せないどころか、かわそうとすらしない。


「よけてっ!」

「甘いわよ、慎一君」


 小夏さんは無数の矢をその体に受ける。


「だ、大丈夫ですか!?」

「ええ。見てのとおり…無傷よ」


 そういう小夏さんは、傷を負った様子がない。あ…あれ?


「発想は悪くないわ。わざと霊力操作の手を抜いて、一本の矢でいられなくさせる事で霊力を散らせて、ショットガンのように無数の矢を放つ。ただ、問題は…これに威力を持たせるには今の霊力の量じゃ足りないってこと。散らばれば、その分威力は弱まるでしょう? これじゃあ、目くらまし程度にしかならないわ。霊力操作の腕をあげて意図的に散らばらせるとか、霊力を高めて散らばっても十分威力を持つまでにするとかしないとダメね」

「なるほど…」

「さて…普通に使う練習はそろそろ十分でしょう? 次は…動きながらよっ!」


 ダンッ! 小夏さんがその凄まじい脚力で、地面を蹴り、こちらへと駆け寄る。その速さは人間の限界をはるかに超えている。

 それを見て、僕は足に霊力を集中させる。

 まだだ…もう少しだけ、ひきつける。


「動かなくても…遠慮はしないわよっ!」


 小夏さんは腰の高さに打ち刀を構え、抜刀術に似た形でこちらを斬ろうとしている。よし、これならいける。


「はぁっ!」


 気合のこめられた小夏さんの声。よし、今だ!

 全力で跳躍。その高さは、小夏さんのはるか頭上。ビルで言うと、四階くらいだろう。前より跳躍力が上がっている…これは、成長のあかしと見ていいだろう。

 そして、空中で逆さになりながら、弓を構える。しかし、射法八節なしで弓を使うのもだいぶ慣れてきたな…。

 足へ集中させた霊力を今度は手中へと集める。そして、霊矢として三本まとめて放つ!


「あっまぁーい!」


 その直後、小夏さんも跳躍して矢をかわす。そして、僕へと迫る!


「それだけ跳べるようになったのは褒めてあげる。でも…空中じゃあ身動き取れないでしょう!」

「お互いにね!」


 迫りくる小夏さんへ向けて霊矢を放ち、こちらもマダチを打ち刀に変える。

 僕の跳躍はすでに頂点に達し、ここからは落下していくだけだ。その勢いも威力に変える!

 霊矢を斬り、隙ができた小夏さんへ向けて、全身全霊の一撃をくりだす!

 しかし、その一撃は小夏さんの左手で受け止められる。


「甘いのよ…神をその程度の気迫で斬れると思わないで!」


 そうか…マダチに霊力を注いで増やして、それで防いだのか!

 でも、僕だってこれで終わりじゃない! マダチから左手を離し、小さなナイフを作りだす!


「くらえぇっ!」


 しかし、その時にはすでに小夏さんも態勢を整えている。マダチを上空へと放り投げて、右手でナイフを握り止める。


「甘々よ。カルメラみたいに、くどいほど甘々なのよ! 甘々甘々…そんなので狐子を守るなんてよく言えたものだわ!」


 僕のにぎる打ち刀とナイフに力を込め、体を持ち上げ小夏さんは蹴りをくりだす! 両手がふさがっている僕はとっさに防ぐこともできず、さらに上空へと蹴り上げられる!

 あまりにも鋭い蹴りに、僕はうめき声すらあげられない。なんという、威力を持った蹴り…!

 というか…この状況、まずくないか? この高さから落ちたら、死ぬ…!

 そう思った刹那、優しく腕に抱きとめられる。


「まったく…実戦だったら死んでるわよ。こうなるからうかつに跳ばないようにね」

「はい…」


 何か言い返そうにも、こうして受け止められている時点で何も言えない…。

 ズシャァと音を立てて着地する小夏さん。その腕から降ろされる。


「さて…どうも、明日も何かあるようだし、今日はこれくらいにしておきましょう。霊力の操作、大分うまくなったわね。ほんのちょっとだけ慎一君を信じられるようになったわ」

「でも、まだまだです。僕は、もっと強くならないと…守りたい人を、守れるように…」

「それはどっちの事を言っているのかしら…狐子? それとも里奈ちゃん?」

「どちらもです。多くを追えば、達成は困難。ですが、多くを追わずして多くを得られるわけもない。家族も友達も、何だったらその場に居合わせた他人だって守りたい人に入れますよ」

「若いわねぇ。そして、年を取るにつれ自分の限界を知り、本当に大切な人が守れればいいという思考に堕ちて行くのね…」


 暗い表情で言う小夏さん。


「分かるわー…私もそうだったわー…今じゃあぶっちゃけ狐子以外どうでもいいわー…」


 …この人、本当に土地神だよな? 自分の守る地域の人すらどうでもいいと言っているの分かっているのかな?


「まあ、全部守るなんて神様の私でもできないんだから、所詮式神の慎一君はもっと限度がある、ってことだけは覚えておきなさい。いつか…何かをあきらめなければならない時が、必ず来るから」

「そんなこと、覚えたくありませんね。僕は、意地でも全てを守ります」

「はぁ…ほんっとうに若いわ。ある意味うらやましさすら感じるわね」


 明らかにあきれているけれど、小夏さんはそういう。あきれられたっていい。若いうちは高すぎる理想を抱くくらいでちょうどいいと思う。叶うのは、その理想以上にはなりえないのだから。


「とりあえず、帰す前に蹴った部分は治療しておくわね。そこそこ痛いでしょう?」

「ええ。痣にはなりそうですね」


 ん? 吹き飛ばされるような蹴りをもろに受けてダメージがこの程度って…式神になるって、僕が考えているより真人間から離れることなのかもしれない…。


「んじゃまあ…ムニャムニャポヤポヤヘロヘロヘ~!」

「真面目にやってください…って、痛みが…?」

「軽い治癒だったもの。詠唱破棄して代わりに変な言葉言ってみただけ」

「…まあ、ありがとうございます」


 この人、ふざけなければ本当はすごい神様だと思うんだけどなぁ…なんでこんなにふざけるんだろう。


「さ、ご両親が心配する前に帰りなさいな。冬は日が沈むの速いから」

「はい。ありがとうございました。これからもよろしくお願いします」

「はいはい。生きて帰ってきてくれれば、治してあげるし、訓練もつけてあげるわよ」


 そう言って笑う小夏さん。


「あ、そうだ。小夏さん…ina:Reって言う服のメーカー、知ってます? なんか、小夏さんに似た人が社長やってるみたいなんですけど」


 ふと思いだしてそんな事を口にする。


「あら、ばれちゃった? 一大メーカーになってから話して、びっくりさせようと思ったのに」

「ばれちゃった? もなにも…今日ショッピングモール内の店見たら、狐子の戦闘服みたいなの置いてありましたし…」

「さんをつけろって言ってるでしょう。里奈ちゃんとディープキスしたの、ご両親の夢枕に立ってばらすわよ?」


 脅しのつもりなら、ずいぶん甘いものだ。


「別にいいですよ。狐子にはもうばれてますし、母にもキスしたことはばれたので」

「ぐぬぬ…だったら、うちの服を着てモデルになってもらうわ!」

「残念ですが、もう着せられました。それと、男をモデルにしたら評判ガタ落ちですよ?」

「ぐぬぬぬぬ…あー、もういいわよ。狐子のこと好きに呼びなさい!」


 よし、許可がおりた。ちょろい。


「では、これで失礼します」

「はいはい! せいぜい里奈ちゃんと仲良くね! その間に狐子は私がもらう!」


 小夏さんに敵意のこもった視線で見送られて、八千代神社を後にする。

 さてと、家に帰るとするかな…念のため、背後には気をつけて。


参幕 了

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