第二部
「じゃあ、また明日な!」
「またねーっ!」
夕暮れの中、全身を泥だらけにした少年達が手を振り合って別れていく。
「じゃな、フィーズ」
「おう、また」
二人もそれぞれ手にした棒切れを掲げて別々の方向に歩き出した。
結局居残りをさせられてしまったが、十分に遊ぶ時間は確保できた。日が暮れるまで棒切れを振り回す剣の稽古。仲間のうちでもフィーズとクルトは腕っ節の強いほうで、『訓練』のときはいつも二人が中心にいた。
夕焼け空。虫の飛び交う田舎道を歩く。
家の近く、ちょっとした雑木林に差し掛かったときだった。
「……?」
木々の合間に、人のシルエット。赤い逆光でよくは見えない。フィーズは近づいていって、そしてそれが少年であるということを確認した。
見知った顔だった。華奢な黒髪の、鋭い目つき。
「あ……」
その少年――ルクは顔をフィーズのほうに向けて、そのまま何も言わなかった。
「な、何してんだ。おまえ」
「……別に」
そうとだけ答えて、彼はそのままフィーズに背を向けた。手にした何かを放り投げ、徐々にその背中が遠ざかっていく。
不可解なヤツだった。いつもそうだ。
皆で遊んでいるときにはいつもいないのに、外でこうして出くわすことが少なくない。週に三回ある学校のときも、誰とも口をきかない。そのくせルクは、気付くとこちらに目を向けている。
足元に転がった棒切れを、フィーズは拾い上げた。ルクが捨てていったものだ。真っ直ぐな木の枝で、先端のあたりは皮が削れて木地が見えている。
「……」
フィーズは自分の『剣』とそれを見比べる。
同じ。
一本の木に、何度も打たれたような傷痕が残っていた。