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「と、その前に。そうじゃな・・・君らにハンデをやろう」
「ハンデだとぉ?」
ハンデの言葉に男達のトップであろう男が苛立ちを露わにする。
「そうじゃ。ここは儂らのホームじゃ、地の利もあるし、いっその事退去命令でも出せば君らなんか即退場じゃ、君らにはちと不利に過ぎる。それじゃあ面白くない、そうじゃろう?」
「そ、そうだな」
この店の中で最も軽装な者が出しているとは思えない師匠の異様な雰囲気に男達は呑まれている。
「そこでハンデじゃ。どうするかのう・・・そうじゃ、誰か空き瓶持っておらぬか?おいそこの飲んだくれ、そうじゃ、それをこっちに投げろ」
外野から投げられた茶色く長い瓶を軽く受け止める師匠。二、三度振り、感触を確かめる。
「ふむ、悪くない。・・・儂はこれで君らとやる。君らは好きな物を使えばいい。なんなら全員で掛かって来てもいい。条件はそれだけじゃ」
「舐めてんじゃねぇ!!アッパは右から、カズトロは左から、ルベルドとスカールは俺を援護、オービルは魔法で補助!!」
ボスらしく的確に指示を出している。普通にモンスターを刈るなら間違いではない指示だ。しかし相手がプレイヤー、しかも師匠ともなれば話は違う。
「はぁ!!」
アッパと呼ばれた男が師匠の腹を突こうと短剣を突きだしてくる。
「遅い」
「んなっ!?」
それを、師匠は瓶の底で受ける。しっかりと煽るセリフも添えて。
「はっ!!後ろがお留守だぜぇ!!」
ザ・噛ませ犬なセリフをカズトロが叫びながら長剣で袈裟切りに斬りかかる。
「ふん・・・これだけか?」
「まじか!?」
短剣を跳ね上げた師匠がさらに煽りながら、振りかぶってスピードが乗り切る前の剣を振り替える事無く瓶で受け止め横に流す。その過程で振り返り、強烈な右フックでカズトロを吹き飛ばす。吹き飛んだ先には男達のボスが居たが、軽く飛んで躱す。
「へっ、少しはやるじゃねーか!」
そうしているうちにアッパが体勢を立て直し、再び師匠に斬りかかる今度は男達のボスも攻撃に加わる。だが師匠はその攻撃の全てを、瓶で時には素手で、躱し、流し、いなす。
男達の攻撃は掠りもしない。そのことにイラついたボスは、仲間に指示を出す。
「オービル!!この前覚えたアレ頼む!!」
「分かった!『フェイタルアップ』!!」
『フェイタルアップ』、物理攻撃力が上昇する補助魔法だ。大体、100レベル位になった時に覚える魔法だったはずだ。補助魔法はかなり強いが、その分使い手を選ぶ。戦況に応じ、各種補助魔法を使い分ける事が出来れば一流と言われているが、それをするには大量な情報とそれを処理する能力が求められるので、真の使い手と呼べる人間は少ない。その数少ない真の使い手はウチのクランにもいるが、補助魔法使いと言うよりも撲殺魔術師と言った方があっている気がするので正直微妙だ。ローブを着て杖で魔法を唱えながら、敵をバッタバッタと薙ぎ倒している様を想像して貰いたい、ものすごく微妙な気持ちになるだろう。
それはさておき、ここでの『フェイタルアップ』は悪手だ。彼らの攻撃は一度も師匠には当たっていないのだから、いくら攻撃力が上がろうと意味がない事だからだ。ここで選ぶのは『フェイタルアップ』より、『ファストアップ』のような攻撃速度を上げる魔法の方がよかった。
「ぜっんぜんっ!あたんねぇ!!どういう事だ、チートかよ!!」
ボスの叫ぶ言葉に頷けない事もない、正直、師匠の動きはおかしい。三人に囲まれているのに、涼しい顔で猛攻撃を躱しているのだ。しかもそれを、スキルの補正無しでしているのだ。
「そろそろ、終わりにしようか」
そう師匠が呟いてからは早かった。まずアッパが膝から崩れ顎を蹴られて撃沈、次にルベルドが剣を流され、剣を持つその手を掴まれ投げられダウン、スカールはそれに巻き込まれた。
「う、うおお!!」
ボスが叫びながら、剣を振る。なかなかの剣速だ。それを、瓶を横に構えて待つ師匠。剣が瓶にぶち当たり、瓶が割れる。
「は、ははっ!!これで使えねぇな!!」
「なーに言っとるんじゃ」
「かはっ!?」
ボスが崩れ落ちる。その喉には割れたガラス瓶が突き刺さっていた。
「ガラスは割れたのを使うじゃろう、普通」
その普通をさっきまで無視してたあんたが言うな。
「さて・・・」
周りに五人の男を転がした師匠が最後の一人、補助魔法を掛けていたオービルに目を向ける。
「ひっ」
「君が最後だが・・・どうするかな?」
「・・・こ、降参します」
これが僕のSAでの大体の日常である。