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「はい!これ三番テーブルと二番テーブルに持って行って!!」
「はい!!」
そこはまさに戦場だった。
「お待たせしました!!ドラゴンステーキ四人前です!!お待たせしました!暴れキノコのリゾットです!!」
「おう、ありがとう」
「わぁー!美味しそー」
「ワカ!!こっちビール中二つ追加!!」
「はい!!」
「おねーちゃーん!!こっちスノーキングパフェとコーヒーゼリー!!」
「畏まりました」
「お嬢さん、私と付き合っていただけませんか?」
「お断りします。ご注文をどうぞ」
「・・・あぁ、じゃあニャンニャンオムライスを」
「当店ではそのような物は扱いしておりません。ご注文をどうぞ」
「コ、コーヒーを一つ・・・」
「承りました」
僕とNPCメイドのステラさんとフローラさんはフロアを駆け回っていた。子供に人気な、小柄なお姉さんの様な見た目なのがステラさん。吹雪の様な眼つきで紳士|(他意は無い)を見つめているがフローラさん。ウチで雇っているのはもう一人、スザンナさんというのが居るが、そっちは厨房でオカn・・・・アルマさんの手伝いをしている。
忙しいが、充実した時間だ。悪くない。オカンの料理を食べて、笑顔にならない者はいない、そこにNPCもプレイヤーも関係ない。オカンが何故料理屋を継ごうとしているのかも分かる気がする。
しかし、そんな至福とも言える時間に水を差す輩もいる。ごく、稀にだが・・・。
バタン!!と乱暴に扉を開けて入って来たのは6名の男達、周りにいた客が訝しげな視線を送る。その中でも一際デカい男がぐるりと辺りを見回し口を開く。
「ここか?あの女のホームは」
危ない!!あと少しであのセリフになる所だった。そんな別の意味でも危険な香りをさせている男の部下らしき男が飢えたハイエナの様に辺りを見回しながら言う。
「そうみたいですぜ・・・あの女はここにこもりっきり、他のメンバーは殆ど出はらっているって、ルベルドが言ってやした。しっかり見張ってやしたよ」
地味に仲間を持ち上げるな。
「おう。で、あの女はどこだ?」
あの女?こもりっきり・・・?あ、ろってぃか!!え、なんで?引きこもりだよ!?ゲームなのに!!
「おいそこのお前!!知ってそうだな?」
え、僕?いやいや、どう見ても初心者な僕が知ってるわけないでしょう!!と、目線で訴えかけてみる。ついでに身振り手振りも加える。あまりの熱演っぷりに僕はオスカー賞取れるんじゃなかろうか?と思ったほどだ。
「いや知ってるだろ。エプロン」
「あ」
「あ、じゃねーよ」
くそっ、中々鋭いなコイツ!!まぁ、そんなおふざけはさて置き、とりあえず理由を聞く。
「ウチのろってぃが何か?」
「そうだ、そいつが不良品を売りつけやがった!!」
うん?確かに、いつも失敗ばかりしている彼女だが、他人に不良品を売りつけるなんてしょうもない真似はしない。不良品の処理はクラン戦で一気にするか、僕たちに押し付けるかのどっちかだ。
『って、言ってるけど・・・どう?』
クランチャット、クラン同士であれば制限なく会話が可能である。それを通して彼女に聞く。
『不良品な訳ない。多分、あいつらがちゃんと話聞いてなかっただけ、おおかた持続系のポーションを咄嗟のダメージに使って押し負けたんでしょう、どうせ。バカだから』
『なるほど』
そういうミスは割とある。僕も『アンチポイズン』と言うアイテムを『解毒剤』と同じ効果を持つものだと思って、キングタランチュラという蜘蛛型の大型モンスター討伐に大量に持って行った。しかし、思っていた効果とは全く違った。『アンチポイズン』の効果は、使用から3分間毒を無効果するというものだった。道理で高かったわけだ。別に負けた訳じゃないからいいんだけど、お金が無駄になった感が半端じゃなかった。
「――って言ってますけど・・・。どうなんです?」
「う、ううるせぇ!!黙ってあの女をだせやぁ!!」
「・・・はぁ」
何でこんな、ステレオタイプな悪党っぽいのになれるんだろうか?馬鹿だからか?あぁ、馬鹿だからか!!納得。
「なんじゃ?騒々しい」
男達との騒ぎに注がれていた視線が逆、男達が入ってきた入口とは逆、つまり奥の扉、関係者以外立ち入り禁止の扉から入って来た人物に注がれる。
「ん?なんじゃ?」
おおよそこの場に相応しくない見た目の人物が現れたからであろう。
狐面に甚平に団扇、夏の風物詩を思わせる風貌だが、このゲームではそんな軽装は有り得ない。生産職ですら、最低でも革鎧程度の防具をつけているのだから。防御力の欠片も感じさせない狐面の男はつかつかと此方に歩み寄ってくる。そして、僕に聞こえる程度の声で聴いてくる。
「なんじゃ?どうしたんじゃ?」
「聞いてなかったんですか師匠?」
あだ名は師匠。実際に武術の道場を持っているらしく、そこの流派の師範代として教えを説いていたが、病気を理由に引退、満足に動かせない体に不満を持ち、VRをするための機材を購入、接続や設定を全て自分で行いこのSAをプレイするに至る。と言うのが、彼の語る設定で嘘だ。武術の道場を持っているのと、引退したのは本当だが、実際は病気などではなく、武術家としての体力の低下を理由の引退らしい、普通に暮らす分は全く問題ない。SAは弟子でもある孫とその友人らと一緒に始めたそうだ。実にアクティブな爺さんである。
「聞いとらん」
「いつ何があるか分からないからクランチャットはいつも切らないで下さいって言ってるじゃないですか」
「別に、儂になんか出来る程度の事じゃったら、お主らでなんとかできるじゃろ」
「そういうことを言ってるんじゃないですよ」
「分かった。分かったわい、儂の負けじゃ。罰としてここは儂がおさめる。それでよいな?」
よいな?とは言っているものの、有無を言わせぬ態度で師匠は僕を見つめる。狐面で隠れてはいるが、その目は獲物を見つけた肉食獣のそれだ。
「んだよ爺さん」
「そうじゃのう、あえて言うなら・・・ここより先、通りたければ私を倒して見せろ!!・・・と言う奴じゃな」
地味に声を変えながら言っている辺り、この爺さんノリノリである。その爺さんの声と共に机が引かれ、即席のリングと奥の扉を塞ぐバリケードが出来上がる。メイドさんズと、ここの常連の皆さんの連携プレーである。
「さぁ、全力でかかって来るがいい!!」
今まで出て来た人物、リザードマン、オカン、ノリノリ爺、初心者|(笑)、頑固ドワーフ、ホビット少年、金髪少女|(鍛冶見習い以下)、なんというか・・・自分でも変な感じがする。