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主人公の名前が出せぬぅ・・・。あ、考えてない訳じゃないですよ?本当ですよ?
リアルでの夕食後、再びログインした僕はクランの拠点に戻ってきた。ドラゴン狩りにホームを出てから実に一日ぶりである。ホームには様々な施設があるが、その施設を造るにあたって木工系の延長である大工系の『スキル』と、算術士系の延長にある建築士系の『スキル』が必要となってくる。あいにく、それらを修めている人材はウチのクランにはいなかったので、フリー(どこのクランにも属していない)でそのどちらの『スキル』も極めているという人物に高い料金を払うことで建ててもらった。こちらの要望を全て飲んだ上で最高のものを建ててもらったので、僕たちは非常に感謝している。その人とは今でもいい関係にあり、時々ウチにお茶を飲みに来ている。
「ただいまーっと」
「おかえりー」
ウチのホームは地上二階地下二階の四階建てで、地上一階部分の半分は、調理系『スキル』を極めた彼女たっての希望で食堂として開放されている。一流のプレイヤーメイドの料理が食べられると話題の料理屋だ。いくつも丸い机と椅子が並べられており、壁には武器や盾が掛けられている。武器はクランメンバーしか触れないように設定してあるし、机は非破壊オブジェクトだ。カウンター奥の棚には酒と一緒にポーションが並べられ、下の棚には銃が納められている。非常時にはここで対応することもある。まぁ、そんな事にはなったことは無いが、今後ないとも言い切れない。
「ワカはどこ行ってたの?」
ワカ、万年若葉マークを略してワカ。これが僕のクランでのあだ名だ。SAを始めた際に付けた名前があるにはあるが、最近では滅多に呼ばれなくなってしまった。街の他の人もワカとか他のあだ名で呼んでくる。何故だ。
「ドラゴン狩り」
「あ、じゃあ肉頂戴、肉!!」
「そう言うと思ったよ。はい」
どん、と重量感のある音をたてて肉の塊をカウンターに置く。
「わわっ!?なんで直接置くのよ!?別にわざわざ置かなくてもウィンドウで出来るでしょ!?」
確かに彼女の言うとおりだ。が、僕はそんな野暮な真似はしたくない。一種の様式美だ。モノを直接渡すことに、意義を見出しているのだ。親父にもいつも直接手渡ししている。ちなみに、これが親父に気に入られた理由の一つでもある。
「分かってないねぇ、様式美だよ、ロマンだよ」
「私が言っているのはそういう事じゃなくて、カウンターに食材を置くなって事よ。汚いでしょ?」
「菌なんてないよ」
「ここは食べる所です。汚してはいけません!!ほら、肉汁が!!」
「・・・ごめん」
「よろしい。ほら、これで拭いて」
「はい」
クランのメンバーで彼女に頭の上がる人は居ない。リーダーでさえもだ。それゆえ、ついたあだ名がオカン。ちなみに、言ったのは僕だ。ただ、彼女にオカンと言うと怒られるが、それがオカン度を加速させているのを彼女は知らない。彼女の家は料理屋で、大学では経理を習っている。経理で習った知識をこのクランで使うことで経験を積み、家の料理屋を継ぐつもりらしい。
「みんなは?」
「ろってぃは研究室で研究、伝之助は修練場で新技の開発中、司書長は王都の図書館迷宮探索、多分一週間位帰ってこないんじゃないかな?スターズは機鋼国の天文台に・・・」
ウチのメンバーがホームにいるという事は少ない、みんな何所までも自分の道に突っ走っている人間だからだ。リーダーに至っては、帰って来るのが一か月に一度という事もある。だから、基本的にここを使用しているのは、ここで料理屋を経営している彼女、(あぁ名前を言うのを忘れていた。アルマという、みんな、オカンと呼んでいるから忘れがちだ)引きこもりのろってぃ、プレイヤースキルの鬼である伝之助、それに僕だ。こんなに大きなホームだというのに、実質使っているのは四人だ。四人だけでここを維持するのは厳しく、NPCを雇っている。メイドさんだ。メイドさんを希望したのはろってぃだ。僕も賛成した。メイドさんには料理屋の方もウェイトレスとして手伝って貰っている。その分給料も割高だが。
「あ、そろそろ夜の営業時間ね。ワカ、これからどっか行くの?」
「んにゃ、今日はもういいや」
「じゃあこっち手伝って」
「おっけー」
「ん、なら着替えて、開店を告げて来て」
「はいよー」
僕もこうして暇な時は料理屋を手伝っている。裏に入りエプロンをつける。そして、入口を開け放ち叫ぶ。
「料理屋『オプサラス』開店でーす!!」
そうして、もう一つの戦場が幕を開けた。
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