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僕は『決闘』後アスペンの街に戻ってきていた。ドラゴン百匹抜きと『決闘』でもうアイテムが尽きかけている。それを補充しなくてはならない。故に僕は行きつけの武器屋に来ていた。


「こんにちはー」

「はい、こんにちは」

「あれ?親父さんは?」


いつも店番をしているのはドワーフ族の親父だ。NPCにもそれぞれ性格があるようで、親父はいかにも鍛冶屋な感じで寡黙で頑固だ。その彼ではなく、ホビット族の少年が店番をしている。彼もまたNPCだ。親父の弟子の一人で、力が無くあまり鍛冶は得意ではないらしいが、細工の腕は親父が認めるほどに高い。この店で売られている、おしゃれ目的の派手な剣の鞘はおおかた彼が作っているそうだ。そこそこ売れているらしい、まぁ、僕には余り要は無い。最悪、鞘も武器として使うし。


「親方なら奥で新人を鍛えてますよ」

「新人?」

「何でも最近こっちに来たばっかの旅人らしくて、街を見て回っていてこの武器屋に入った時に見た親父の剣に惚れたらしいみたいですよ」

「へぇ」


「最近こっちに来たばっかの旅人」、これはSAを初めてはじめる際に与えられる僕たちプレイヤーの設定だ。つまり、この奥に居るのはプレイヤーという事だ。少し、気になる。


「親方に用事ですか?なんなら奥行きます?」

「え、いいんですか?鍛冶場は聖域でしょ?」

「まぁそうですけど。あなたにはいつも御贔屓にしてもらってますし。こちらへどうぞ」


とカウンターの机を跳ね上げる。


「こちらこそお世話になってます。あ、お邪魔しまーす」

「ここで一礼してください。なんといっても聖域ですから」

「はい。お邪魔いたします」

「どうぞ」


店内も暖かかったが、そことは比べ物にもならない熱気が押し寄せる。真っ赤に燃える炉の前には金床があり、二つの人影がある。一つは一心不乱に赤く燃える鉄を叩いており、もう一つはどっしりと腕を組みその叩く動作を黙ってみている。


「親方!親方!!」

「・・・どうした?」

「親方にお客さんです」

「・・・あんたか。なんか用か?」


親父はいつも言葉足らずだ。そのせいで、愛想が無いとかさんざん言われている。親父もそれを気にしてはいるが、なおす気は無いらしい。


「いえ、いつも通りです。今日はレッドドラゴンの素材が沢山手に入ったので、親父さんにと」

「ありがたい。・・・・これを持ってみてくれ」


と、一本の剣を渡される。うん、これは親父が打った物ではないな。親父のそれは親父の性格が表されるが如く真っ直ぐだ。かと言って、他の弟子が打った物でもない。ここの弟子が作った物はたとえ、それこそ重心がずれていたとしても武器としての使用には耐えうるはずだ。しかし、これはどうだ。そんなものは、欠片もない。これは、ただ剣の形をした鉄の棒だ。傘の骨を石で叩いた物とそう変わりない。


「・・・ダメですね。これじゃあ一回振っただけで折れてしまう」

「っ!!」


今まで鎚を振るっていた人影が息を飲み、動きが止まる。


「・・・だそうだ。どうだ?それでも続けるか?」

「くっ!」


おい、何故こっちを見る。何故睨む。僕は正当な評価を下したまでだぞ。


「私と同じ初心者の癖に!!何が分かるっていうのよ!?」


私?女性だったのか、珍しい。しかもエルフか。ドワーフがエルフの嫌いあっているという設定はSAでもあり、エルフの国とドワーフの国は戦争状態にある。親父はそういうのは無いが、この街に住んでいるエルフとドワーフが喧嘩しているのはよく見かける。


「そいつは違うな、嬢ちゃん」


親父の厳しい声が、エルフの女性を止める。


「え?」

「そいつは、初心者なんかじゃあ、決してない。すくなくとも、お前たち旅人の言う、うん?なんだぁ?べーたてすと?の時から俺の店に来ている。それにこいつは、俺の剣を何本も折って来た男だ。何本か分かるか?お前、言ってやれ」

「すいません、覚えてません」


今までに食べたパン位は、流石に折ってはいないはずだ。


「972本だ。分かるか?」

「あ、親父62本追加で」


今日折った分くらいは分かる。ストックから引いた数だし。


「・・・1034本だ。分かるか?こいつはそれだけの戦いを積んでいるという事だ。まだ二、三本剣を打った程度の嬢ちゃんよりよっぽど剣の事を分かっている。こいつに口ごたえできるほどの力は、今の嬢ちゃんにはない。鍛えて出直せ」

「っ!!く!」


だから何故睨む。エルフの女性は持っていた鎚を置き、立ちあがる。そして僕に指を突きつける。


「覚えてなさい!!顔は覚えたわよ!!」


そして、捨て台詞を吐いて店から飛び出して行った。


「はぁ。良いんですか親方?」

「いい。あれくらいで来なくなるような奴はどうやっても無駄だ」

「無駄な事はしないのはドワーフ流か。厳しいですね。厳しいといえば思い出しましたよ、初めて僕が剣を打った日の事、あの時も確か・・・」


そうして語り始めたホビットの少年と談笑し、親父とは素材の値段交渉をして時を過ごした。樽売りの剣、弟子たちが日々の鍛練で作った剣を樽ごと買い、店を出たころには空は夕日がかっていた。夕日というものは、こちらもあちらも変わらずいいものだ。




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