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何番煎じかはもう分からない、でも、むしゃくしゃして書いた。反省はしてない。
「よし、これで百匹。クエスト達成っと」
ズルリ、とレッドドラゴンの額から剣を引き抜く。それと同時にレッドドラゴンは光の粒子となり宙に溶けてゆく。
「おっ、ちょっ、うわっと」
自分を支える足場が消えたためバランスを崩し落ちそうになったものの、体制を立て直し着地する。いくらゲームの中と言えど、高い所から落ちたら怪我をしてしまう。ゲーム風に言うなら落下ダメージを負うという事になるか。着地した僕は血糊を振り払い剣を鞘に納める。まぁこの剣はどのみち使い物にはならないだろうが。
「まぁ予備はいっぱいあるしね。さて、ドロップドロップ。ふーむ、鱗に、肉に、骨、あと革か。レアは無いか、まぁ使わないけど」
ドロップ品をポーチにポイポイと入れてゆく、ゲームらしく同じものは99個までワンセットとして入れる事の出来る優れものだ。初めのクエストクリアで誰でも貰える初心者から上級者までお馴染みのアイテムでもある。高級品であればあるほどその容量が増えるが、僕はあまり必要性を感じていない。
「帰るか」
僕はポーチからそれを砕くことで拠点までワープできるアイテム帰還石を取出し、握り砕く。途端、光が僕を包み込む。光が収まった後には、大量の折れた剣が散らばった空間だけが残っていた。
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VRMMO「Second Age」はVR界の王道とも呼ばれるゲームだ。
SAと略されるこのゲームのキャッチコピーは、「誰でも強くなれる」というもので、どんな職を選んだとしてもしっかりと育てていけば絶対に強くなれるのだ。もちろん、生産職は戦闘職の様にはなれないし、下位の職業は上位の職業の様にはなれない。レベル上限は200このレベルとは別に、職業ごとのスキルレベルがあり、レベルアップ毎に5pt貰うか、特定のクエストをこなすことで貰えるスキルポイントを振り分ける事でレベルアップしていく。スキルは習得すれば自分が今どんな職業であっても使える。スキルによっては条件があり使えなかったり、威力が弱まってしまう場合もある。僕はスキルをほとんど持っていないのであまり詳しい事は分からないがそういう事らしい。
そのSAのプレイヤーが初めて来る街でもあり、一番人が多い街でもあるアスペンのメイン広場にある水晶噴水前に僕は降り立った。雑談している人たちや、待ち合わせで待ち惚けているのであろう人の横を通り過ぎメインストリートへ向かう。
メインストリートを進んでいくと、一際大きな建物が目に入る。ギルド会館だ。ギルド会館は、冒険者をはじめとした各種ギルドの本部だ。ギルドは国がそれぞれ管理していて、国や国民からの依頼をギルドに登録したプレイヤーたちが達成していくという方式で成り立っている。国が管理しているために、所属している国によって依頼の内容が変わってくるらしい。その国が戦争などになると召集される事もあるようだ。言い忘れていたが、依頼はギルドで受けるのが全てではなく、NPCに直接頼まれる様な、例えば門番の誰々にお弁当を届けて欲しいなどと言った個人的な物もある。むしろ個人的なモノの方がレアアイテムゲットのチャンスであったり、レアスキルゲットのチャンスであったり、特殊な職業への転職の足掛かりであったりするため侮りがたい。どこにどんな切っ掛けが転がっているか分からないのもこのSAの特徴でもある。
それはさておき、扉を開け中に入る。冒険者ギルドのカウンターは入口から右に行って直ぐの所にある。ちなみに、他ギルドとの掛け持ちも可能だ。冒険者ギルドは基本的なクエストを扱っていて、初心者から上級者まで皆がお世話になる。その為、受付も大きく係員の配置も多い、人も多いが。依頼達成の印が魔法によって浮かび上がった依頼書を握りしめ列に並ぶ。時間的な面もあり、それほど混んでいない。直ぐに僕の番になるだろう。
しばらくして、「次の方どうぞ」と呼ばれる。なかなかに凝ったもので、受付に行った時間、日によって、受付嬢のNPCは変わる。時々だが、プレイヤーの人も居るようだ、おそらくクエストだろう。物好きな人も居たもので日がな一日受付嬢を眺めていた人が居たようで、どうやらシフトの様な物が組まれているらしい。更に言うと、受付にそのNPCが居ない時、街で見かけたという目撃情報があったりする。彼らも生活をしているという事だろう。ちなみに、昼は女性が多く、夜は男性が多く受付をしている。
「はい、依頼を達成したのでその報告に来ました」
「はい、報告ですね」
インプットされた言葉とはいえ流暢なものだ。NPC(プレイヤー以外の動くもの全て)にはAIが搭載されている。まだまだ、成長段階の技術とはいえ僕たち一般人には考えも及ばない程に進歩している。今では、小学校一年生程の思考力が備わっているらしい。そのAIの研究にSAは一役買っているらしく、様々なプレイヤーやAIと触れ合う事で更なる技術の発展を狙っているそうだ。いくつかの研究機関がこの実験に参加しているらしく、AIにもいくつかの種類があるらしい。例えば軍事産業であれば、兵士やモンスターにAIを搭載していたり、日本の一企業は屋敷で働くメイドにAIを搭載している。そんな様々な企業や機関の思惑が重なり合いこのゲームは成り立っている。少々きな臭い気もするが、僕らプレイヤーとしては彼らのお陰でこのゲームを安くプレイすることが出来るので大歓迎だ。
「確かに、こちらが報酬です」
ドサリ、と報酬の詰まった袋が渡される。僕はそれをポーチにしまい、受付の前からはける。「次の方どうぞ」と僕の後ろにいた人が案内されていた。その人は体が鱗でおおわれ爬虫類の目をしていた。珍しいな、リザードマンのプレイヤーか。プレイヤーは様々な人やエルフ、ドワーフをはじめ、様々な種族を選択することが出来る。最も平均的なのは人で、種族毎に様々な特徴がある。代表的な例をあげるとすれば、エルフは精霊と親和性が高く魔法に長けているだとか、ドワーフは小柄だが筋肉に覆われた体形をしていて力が強く鍛冶をはじめ細工が得意だとか、獣族はその動物の特徴に合わせた特殊な力を持っているだとかそういうものだ。ちなみに、種族は僕が今出したモノよりもはるか多く存在する。吸血鬼などのアンデッドや、機械で出来た体を持つ機構族なんてのも居る。種族によってはなれない職もあれば、その種族にしかなれない職も存在するため、種族選びは慎重にしなくえてはならない。
そんな事を考えていたら、リザードマンの人が声を掛けて来た。どうやら男性のようだ。リザードマンは見分けがつかなくて困る。ついでに言うと、性別は偽れないようになっている。その他の声や容姿などは幾らか弄れるようになっている。流石に種族の枠を越えた見た目の変更は出来ないが。
「なぁ、お前って初心者だろう?何でそんなに報酬貰ってんだ?」
初心者、それを見分けるのは簡単だ。初心者は種族問わず同じ装備を初めに渡され、それを装備しているからだ。革鎧とポーチと鉄の剣、それが初心者セットである。そんな格好をした僕が装備に見合わぬ報酬を貰っていたから不思議に思ったのだろう。
「実は初心者じゃないっていうのがその答えですね」
「へぇ、ちなみに何やって来たんだ?」
「レッドドラゴン討伐100体」
「うへぇ!?あのクエストやる人居たのかよ。もちろんパーティでだよな?」
「そうですね。殆どはクランメンバーとパーティで行って、残りは・・・」
「ソロで!?まさか、その装備で行ったとか言わないよな?」
「そうですけど?まぁ、ポーションもこれ(鉄の剣)も大量に持って行きましたけどね」
「ちなみに職は?」
「初心者」
「嘘だろ、オイ。失礼なのは分かっていて聞くが、レベルはいくつなんだ?」
「196」
「おいおいマジかよ。ってことは・・・もしかしてお前って、あの『オプサラス』のメンバーか?」
「うん」
SAではプレイヤー同士でクランを組むことが出来る。有名所を上げるとすれば、最大規模を誇る『赤羽旅団』、女性限定の『戦華』、そしてウチの『オプサラス』。『オプサラス』は廃人か変人とチートしかいないという事で有名になったクランだ。僕は廃人じゃないけど。
「やっぱりか、スゲェなぁ。トップランカーの巣窟じゃねぇか、そこに初心者装備で行ってんのか、ぶっ飛んでんなぁ」
「はは、よく言われるよ」
「なぁ、ダメ元で聞いてみるが・・・その、『オプサラス』の加入条件ってのは何なんだ?」
「ごめんね。それは言えないんだ」
もう一つ『オプサラス』が有名になった原因がある。それは、加入条件が謎であることだった。一応、あるにはあるけどそれを一切公表していないのだ。だから、僕からもいう訳にはいかない。
「そうか。・・・じゃあ最後にもう一つ聞いていいか?」
「何?」
「俺と『決闘』してくれないか?」
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『決闘』システム。VRとはいえ人と人が関係し合うこのゲーム、当然揉め事は多々ある。それを解決するために(というのは名目とのこと)作られたシステムだ。両人の了承が前提となるこのシステムでは、試合条件の設定はもちろん、武器や防具などのアイテム、お金等もかけることが出来る。『決闘』とは言うものの、両人が認めさえすれば個対多、多対多も出来てしまう。まぁなんにせよ『決闘』はある意味最終手段であるため、そう多くの人は使用しない。対人戦がしたいのならば、普通に闘技場に行けば済む話だからだ。
「なんで?」
だからこそ、この人がいう事には何か理由があるはずだ。あまりにもしょうも無い理由であれば断ればいいだけの話だし、聞くだけならタダだ。
「最近、限界を感じてるんだ」
「ふーん?レベルを上げたら?」
事実、自分の戦い方もこのレベルであるから出来るようなものだ。
「いや分かってる。分かってるさ、そんな事。でも、それじゃあレベルが200になった時、まぁ当分先だろうが、そこで自分の成長は止まってしまう。しかもその時になれば、周りも皆200レベルに到達しているだろう。打ち止めだ。それ以上強くなることは無いだろう、それが俺は嫌なんだ。折角面白いゲームをプレイしてるんだ、最強になりたいと思うのは別におかしなことじゃないだろう?」
世界には『最強』が溢れている。最強の柔道家、最強の短距離走者、最強のレスラー、最強の・・・。しかし、最強の称号を得られるのはほんの一握りのみ。これはこのゲームでも言える事だが、このゲームはキャッチコピーでも言っている通り、「だれでも強くなる」ことが出来る。それは、ステータス的な意味だけではない。数多くの武器、スキルがあれど、それを使うのはあくまでも人間であるプレイヤーだ。人間の動きは数値化できない、もし数値化できるとすればそれはもうノーベル賞ものだ。それを狙ってAIを投入していたりするが・・・今は関係ない。その数値化できない動き、つまるところプレイヤースキルというものをリザードマンの彼は求めているのだろう。
「そうだね。うん、いいよ。しようよ『決闘』」
非常に面白い。こんな人と会えるからこそ、このゲームは止められない。