ゴリラ☆ゴリラ☆ゴリラ
女主人公はゴリラです。本物のゴリラです。
私のお母さまは世界を代表する美人モデル。お父様は有名大企業の社長。
まるで絵に描いたようなセレブな私の家族。当然、私はお金持ちのお嬢様という立場になるはずなのだが……
「沙耶お嬢様、今日もお美しく……」
「ああ、沙耶お嬢様。なんて愛らしい……」
「御機嫌よう、沙耶お嬢様……」
赤いふかふかの絨毯を堂々と歩く幼女――いや、ゴリラだ。
そう、お金持ちのお嬢様である私はゴリラなのである。ゴリラにフリルが沢山付いたエプロンドレスを着せ、頭にはピンクのリボンがヒラヒラと揺れている。腕は毛深すぎて地肌なんて見えるはずがない。
間違いなく裸でいれば、すぐさま確保され、動物園行きだろう。
なのに、周囲のメイドや付き添い人達は、沙耶をこぞって褒める。
その目は真剣そのもので決して馬鹿にしたものではない。お母様もお父様と、私の可愛い沙耶!と嬉しさを隠さない顔で私を抱きしめる。この世界は変だ。実に変だ。なんで人間からゴリラが生まれんだ。
なぜか前世の記憶がある沙耶は幼少の頃から、何で私はゴリラなんだと悩み続けた。
お母様の趣味が獣姦だったのかもしれない。美人モデルで何でも器用にこなすお母様に複雑な視線を、ゴリラに寝取られたお父様には同情の眼差しを。さすがに六年もゴリラで生きていれば慣れた。
周囲の人々も幸い、あ、ゴリラだ!なんて言わないし、見守るような優しい眼差しで私を見てくれている。
しかしだ。
「おい!ゴリラ!なんで動物園から逃げ出してんだよ!」
「失礼ですよ!おぼっちゃま!」
沙耶と同い年の幼児の男の子。金髪で整った顔つき、将来はイケメンを約束されたようなハンサムボーイ。沙耶の許婚であったりもする。早乙女レン。こいつだけは何故だか、私が正常にゴリラに見えているらしい。初めて出会ったパーティでは、ゴリラがいる!と泣き喚かれたのが記憶に新しい。
そんなゴリラが将来の結婚相手だと両親に言われた時の衝撃はいかほどなものだろうか。
沙耶がレンに近づくと、レンはわかりやすいくらいに怯えたが、震えながらも沙耶を必死に睨みつけている。沙耶がレンの襟首を片手で持つと、レンの体は軽々と宙に浮いた。最早レンは涙目だ。必死に背後に居るレンのお付きのメイドに目で助けを求めている。しかし彼女は、あらあら、微笑ましいという風に私達を見守っている。沙耶はレンの耳元に口を近付けた。
「おい、黙れ。食い殺すぞ」
「ご、ごめんなしゃい……」
じゃーっ、と失禁したレン。死にそうな程、顔から血の気が引いている。彼を下すと、メイドさんが大変!とレンを抱き上げ、私に丁寧にお辞儀をすると、慌てて去っていった。レンの大きな泣き声が廊下中に響き渡る。やれやれ、と沙耶は首を横に振った。
毎度、泣かせているのに飽きずに突っかかって来るレンを褒めてやりたいくらいだ。
あれから十年。私達は高校生になった。相変わらず、レンとは許婚という関係だ。
私立フロマンジュ学園に通う事になった私達は早朝、共に通学している。
颯爽と自転車に乗るレンは金色の美しい髪を靡かせ、ペダルを漕ぐ足は長く、身長も大分伸びた。
勿論、顔は想像した通り、爽やかで俺様系のイケメンへと成長している。
自転車を走らすレンのま横で沙耶は走っていた。
知っているか?ゴリラは瞬間的に時速六十九キロくらい出るらしいんだ。
車すら破壊出来る握力を持ち、運動会での短距離走、長距離走など優勝を総なめしている沙耶に最早レンは突っ込みすらしなくなった。ただ、同じトラックで走る同級生が可哀そうだ、と一言語るだけである。
学園に付くなり、駐輪場に止め、私達は昇降口まで向かう。
並んで歩くとレンの身長の高さがわかる。確か百八十センチあったはずだ。
沙耶は百五十センチしかない。因みに体重は百キロある。これでも痩せた方だ。
しかし、未だに許婚という立場であるレンを不思議に思う。レンは非常にモテる。バレンタインデーなんかチョコの入れ食いだ。沙耶は実家が金持ちなのでこの先結婚しなくても良いと考えている。
だからレンの将来がはっきり言って心配だ。前にも無理しないで、許婚を破棄してもいい、と言った沙耶にレンは癇癪を起し、お前みたいなゴリ、じゃなくて女、俺以外に誰が嫁に貰うんだよ!と怒鳴られたのだった。うるさかったので片手で持ち上げようとしたらすぐに土下座したので許した。
だが、意地でも破棄したくないらしい。実家のコネ目当てだろうか?因みに私もモテる。
毎日、隣の席の男子からバナナを貰い、アピールされ続けている。ラブレターも週に三度くらいの頻度で貰う。この前は体育館裏に呼び出されて告白されたが、断った。この世界の男の頭はおかしい。
でも、私はこの世界を嫌いではない。ゴリラな私にも可愛い親友がいる。
なんだかんだで世話焼きで、面倒見の良い許婚の幼馴染もいる。
それに実家が金持ちだ。もう一度言おう。実家が金持ちだ。もうゴリラでいい。
沙耶は白い歯をこぼして笑うのであった。
ゴリラな女の子のお話が書きたくなり、書きました。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。