第9話 『死』2
押した後、ゴーレムはゆっくりとファングの方へ向かった。ファングには、ゴーレムが何を押したのかはわかっていないようだ。
「ヤベッ・・・!」
坤が駆け出した。ゴーレムの横から周り、ファングのすぐ近くに来た。そしてそこから思いっきりジャンプする。ファングに体当たりするようにして避けさせた。
間一髪だった。
今まで、ついさっきまでファングが居た所で爆発が起こった。
「・・・自爆ボタン・・・だったのか・・・?危なかった。坤、さんきゅ・・・」
次の瞬間、ファングは凍りついた。坤の姿が見当たらない。
「まさかっ・・・!」
ファングの頭の中には、坤の姿が無い二つの理由が飛び出てきた。
一つは、寸前で別方向に逃げたのか。
そしてもう一つは――――爆発に巻き込まれたか。
勿論ファングとしては前者を強く望んだが、いくら辺りを見回してもそれらしき姿はどこにも見当たらなかった。
「・・・こっ・・・坤・・・?」
震えた声で呼んだ。だが、返事は無い。いよいよ爆発の起こった場所へ行った。ガレキの山がいくつもあった。やはりゴーレムは自爆したようだ。片足だけが黒焦げになってそこに転がっていた。
しかし、ファングの視界にそんな物は入っていなかった。今は坤を見つけ出すので精一杯だった。
「・・・坤・・・?」
もう一度呼んでみる。すると、すぐそこで声がした。ファングの顔が一気に明るくなる。
「坤?・・・坤ッ?」
その場で何度も名前を呼んだ。何回目かでようやく再度声がした。
「・・・・・・・・・ファング・・・・・・?」
その声はかすれていた。坤はファングの目の前に居た。ガレキの山から顔だけを出して。
顔は血まみれだった。口から、目から、赤黒い血を出している。そんな親友の変わり果てた姿を見て一瞬絶句したが、ファングはすぐに声を出した。
「・・・こ・・・坤!大丈夫か・・・?待ってろ、今すぐ助けるから!」
さっきよりも更に震えた声で叫ぶファングを見て、坤はフッと笑った。
「さんきゅ・・・でも、もうダメなんだ。足はブッちぎれてるし・・・口ん中は血の味でいっぱいだし・・・」
「何言ってんだよぉっ!諦めんなよ!絶対助け」
「いんだよッ!」
そう叫ぶと、坤は口から大量の血を吐き出した。それでもまだ続ける。
「このガレキ・・・オレでかろうじて止められてんだ・・・。オレ抜いたら・・・崩れ落ちる・・・。お前まで死ぬぞ・・・」
「だけどっ」
「お前は、こんなとこでくたばっちゃダメなんだ・・・・・・。無駄死にすんなっ・・・。んなことしたら・・・絶対許さねぇからな・・・!」
そう言って歯を見せて笑った。ファングも震えるのをこらえて笑う。それが坤との最後の会話だった。もうそれ以上、坤の口から言葉が出る事は無い。そう考えた途端、ファングの目から涙がドンドン流れ出てきた。
「・・・坤ッ・・・!」
その後、わかっていても何度も名前を呼んだ。無論、そのファングの震える声に応えることは無かった。




