第69話 『エンドレスバトル』2
朝になり、ようやく拓羅が戻ってきた。隣には足を引きずっているファングも居る。
怒り疲れたのか、楓は器用に眠っていた。
「楓……?」
拓羅の声で目を覚ます。寝ぼけた目もこする事が出来無いため、頭をブルブルと振った。
「悪い。忘れてた…………じゃないや。えっと……ファングの迎え行ってたら忘れて…………じゃねぇって!」
「アンタ何言ってんの」
「とにかく、悪かった。今外す」
縄と手錠を外され、楓はまず最初に床に寝そべった。
白い床とご対面してからため息をつき、拓羅を睨んだ。
「どんだけ疲れたか知ってんのかバカ拓羅!!」
「いや、マジで悪かったって」
このままだと本当に呪い殺されそうだった。
その殺気を感じ取ったのか、拓羅はその場に土下座して謝った。
「あ、それでな」
急な変わり様に、楓は更に憤慨してメドゥーサに変身した。彼女に睨まれた拓羅は一瞬にして固まる。
拓羅を見てファングは呆れた顔になり、変わりに口を開いた。
「ラングは死んだ」
「……え?」
その言葉に、楓の髪はヘビから普通の髪に戻り、拓羅も解放された。
「なに?なんで?」
「拓羅が殺った」
「そ。俺の手柄!」
楓は、隣でピースをする拓羅の首を締め、また視線をファングに戻した。
「それと……称狼様も……死んだ……」
重い口を開き、ファングは言う。楓は先程よりも更に驚いた顔になった。
そして横の拓羅を見る。沈んだ顔になり、下を向いていた。何も話したくない様子だ。
拓羅をジッと見つめ、楓は立ちあがった。
「楓?」
目の前に居るファングが少し驚く。
「ソラ……居るんだよね?」
「あ?あぁ……居るけど」
「いつまでも待たせてるわけにいかないし。……行こ」
そう言って、楓は歩き出した。
ファングも拓羅も、てっきりユキのように怒ると思っていたため、キョトンとした顔のまま座り込んでいた。
「楓!怒らないのか!?」
「え、バカじゃねぇのかお前…」
ファングは驚いた顔で拓羅を見たが、彼は楓しか見ていなかった。
仕方なく、ファングも楓の背中を見る。
「…………怒ったってしょうがないし……」
楓はいじけたような口調で言った。
「って言うか、その時に悠長に繋がれてたのは自分だし。や、元はと言えばタクのせいだけどさ、でも…………責めてさ、じゃあ自分助けられたのか、って聞かれたらそれまでだし……」
「やっぱ俺のせいか……」
「当たり前じゃん!他に誰がこのキレーな腕に手錠の跡付けやがったっての」
拓羅は眉を寄せてから、楓の腕に顔を近づけた。
「キレー……?」
楓の言葉を繰り返す。満足そうに「うんっ!」と頷く彼女を見て、拓羅はまた言った。
「キレェー??」
「拓羅さんしつこいよ」
頷いた時の笑顔は消え失せ、楓は拓羅を睨んでいた。
「悪ぃ!」
身の危険を察知したのか、拓羅は顔の前で手を合わせた。
「なぁ、楓……悲しかったり……しないのか?」
「悲しんでないように見えちゃう?」
「ハッキリ言って…………見える」
「やっぱり?あたしも自分でそう思う」
「……お前なぁっ!!」
頭を掻きながら言う楓を見て、ファングは怒鳴った。
しかし楓はそれを遮るように、言葉を被せる。
「でも悲しいのは事実だよ。……悲しいって言うか悔しいって言うか…………それとも驚愕、なのかな」
「キョーガク?」
「まさかホントに殺すつもりだったとは思ってなかったから…………」
「だよな。俺もそうだった。冗談だったと思ってた、ってワケじゃねぇけど、本気とも思ってなかった、っつーか…………」
後ろの拓羅が頷く。それにつられるように、ファングもゆっくり頷いた。
「拓羅」
「ん?」
「オレさ、お前の事スゲェって思う」
「……?なんで?」
「だって…………家族殺されて、それでも明るく振舞えるって、オレには真似出来ねぇもん」
「そうか?」
不思議そうにファングの顔を覗き込む拓羅を見て、ファングは照れ臭そうに頷いた。
「なんだよ。急に褒めるなんて。熱でもあんじゃねぇの?」
「いや。もう熱も怪我もコリゴリだから」
「ははっ!そっか」
そして拓羅は楓を向く―――が、彼女はもうその場には居なかった。遠くの方に小さな背中が見える。
「あ、おい楓!!先行ってんじゃねぇよ!!!」
追い掛けようとして、拓羅は一瞬止まった。
その背中は、微かに震えてるように見えたのだった。
「よ、っと」
二人と一匹が建物を出ていった後、建物の影に隠れていた男が顔を出した。
彼の隣には、ファルと白衣の男も立っていた。
ファルが手を差し出す。
「大丈夫ですか、ボス」
「あぁ。…………残念だったな。あのくらいで死んでたら俺はボスなんて呼ばれねぇよ」
ラングは空を見上げ、ニヤリと笑った。
ナイフで刺されたはずの背中の傷は、綺麗に無くなっていた。
「うーん。清々しい朝だねぇ」
ファルの手を払い、ゆっくりと立ち上がる。
そして朝日に向かって伸びをした―――。
これで最終話です。この話をもってendless battleは終わりにさせていただきます。
なんかこれじゃあ称狼メインっぽいとも思ったんですが……。
でもこのままズルズルと続けていくのもどうかなぁと思ったので、こんな微妙な終わり方になってしまいました。すみません。
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました!!!