第59話 『烏龍茶』
ソラを無事見つけ出し、再度出発した一行は何故かファミレスに居た。動物チームはその辺に隠れてて、と言うことで、ソラ達動物チームはその辺に隠れている。
見つかりにくいところに隠れるとなると狭いところでないといけない。ソラが普通の犬サイズになっているとは言え、やはり動物六匹押し込められては元々狭いところだ。息が出来ないほどになる。
そんな空間から顔だけ出し、ソラが呟いた。
「っつかさ、オレは追ってくる奴を倒して来いって事だったんだけどさ、なんだよアイツ等。倒してくるどころか逃げ帰ってきてさ」
「まぁしゃーないやん。ソラっちもそんなカリカリせんと。ファル言うたらめっちゃ強いで?気味悪いほど筋肉まとわりつけて。あんなのに勝てたらラングから逃げとる意味もあらへんわ」
ソラの横にユキも顔を出す。ちなみに、ユキの中でのソラは「ソラっち」だ。
怒り気味のソラをなだめるも、なかなか収まらない。
「楓め。痛い目見せてやる……」
ソラは笑ってるのか怒ってるのか分からない顔をした。
「……なんでかえちゃんだけなん?」
隣でユキが素朴な疑問をボソリと言った。
しかしソラはそれどころでは無いらしい。頭の中では色々な考えがグルグル渦巻いていた。
「楓。こんなとこでのんびりしてていいのか?」
「ダイジョブダイジョブ。ファルもラングも、まさかあたしらが、こんなトコでのらりくらりしてるなんて思うまい?きっと今頃必死で逃げてると思って捜してんじゃないの〜?」
そう言い、楓は余裕綽々で、コップの中になみなみと注いである烏龍茶を飲んだ。
拓羅も「なるほど」と呟き、こちらは温かい烏龍茶を飲んだ。自分が猫舌と言う事を忘れていたのか、一気に飲もうとしてしまい、「あべっちょーい!!」と意味不明な言葉を叫んだ。
そして案の定舌を火傷だ。
隣同士で座っていた楓と称狼はコソコソと話し始めた。
「どーにもなりませんね、あのアホアニキは」
「もうなんか一緒に座ってるこっちのが恥ずかしいよ……」
「うん、確かに」
そう思うのも無理もない。さっきの拓羅の意味不明言葉によって、座っている客全員の目は楓達の座っているテーブルに向けられているのだ。
いっそ拓羅を別のテーブルに移してやろうかとも思ったようだが、そうなると計画を立てにくい。仕方なく同じテーブルに座ったままだ。
しかし拓羅は性懲りも無くまた熱い烏龍茶に手を伸ばした。
瞬間、楓の手も伸びる。拓羅の手より少し早く楓の手がたどり着き、烏龍茶を奪い取った。
「あぁっ!何すんだよ!」
「もーダメ!アンタにあっついの飲ませるとロクな事になんないんだから!」
「でも喉渇くじゃんよぉ!」
「じゃあこっち飲んでろ!」
楓は代わりに冷たい烏龍茶を拓羅の前に出した。その時、拓羅の頬が少しピンク色に染まった。
「いいのか……?」
「…………は?何が……?って言うかなんでそんな少女漫画の主人公みたいな顔になっちゃってんの?」
楓は温かい烏龍茶を飲みながら言った。それを見た拓羅はニッコリ微笑み、
「だって間接キスになっちゃうじゃん?」
と言った。
そして彼のまん前に座っている女がした行為は決まっている。烏龍茶を噴き出した。
烏龍茶は、ニッコリと笑った男の顔に狙ったかのように降りかかった。
「ああぁぁぁっぢぃ!!テメェ何すんだっ!きったねぇな!!」
店員がすっ飛んできて濡れた布巾を手渡した。
「アンタが変な事言うから…あっスイマセン!アリガトゴザマス」
「お前カタコトになってんぞ」
「ううううるさいっ!!!早く顔拭け!!」
店内は一気に騒がしくなった。と言ってもあるテーブルだけだが。番号二十五番、この店から静けさを奪った者達が座ったテーブルの番号だ。
客全員を混乱状態にさせておきながらも、その者達は当たり前のように二時間も三時間も居座っていた。店長は彼等をブラックリストに記入するだろう。
そんな中、最悪の店内に一人命知らずが入ってきた。入って早々店員と話している。丁度店員の頭で顔は見えない。
すると店員は二十五番のテーブルに向かって歩いてきて、止まった。
「お客様」
三人に声を掛ける。
「申し訳ありませんが相席でもよろしいでしょうか?」
訳が分からないが、とりあえず頷いた。
店員が入口の方へ戻っていき、三人は近づいて話した。
「なんでだろうな?空いてる席結構あんのに……」
「究極の寂しがり屋で一人じゃ嫌とか」
「だったらここまで一人で来てること自体おかしいじゃないですか」
楓は称狼をじっと見た。
「……な、なんですか……?」
少し逃げ腰になる称狼の頭に手を伸ばし、クシャクシャと撫でた。
「あったまいーなー称狼は!誰かさんと違って」
「おい、その誰かさんって誰だ」
拓羅が言った時、客が来たようだ。三人は一斉に顔を見た。そしてまた固まった。
新種の化石第二号だ。
その客は空いている拓羅の隣にどっかと腰を下ろすと、店員に「烏龍茶」と言った。
「やぁ。まさかこんな所に居たとはね」
聞き覚えのある声だ。それもそのはず、相手はラングだ。
固まったままの三人に声を掛けるが返事がくるはずも無い。
ラングが待つこと十分ほど。またも三人の化石の中の一人が石を割って喋った。
「なんで居んの…………!!?」
「それはこっちのセリフさぁ。なんでこんなトコに居んの?」
ラングの問いには答えず、三人で会議が行われた。拓羅は迷わず楓の頭にチョップを喰らわせ、小声で怒った。
「バカヤロー!何がこんなとこでのらりくらりしてるなんて思わない、だ!完璧に読まれてんじゃねぇか!!」
「だってしょーがないじゃん!ってかなんでよりによってココに入ってくるわけ!?アンテナでも付けてんの!?」
「あ、そう言えばラングは狙った獲物には発信機を背中に取り付けて自分はアンテナ仕込むって聞いた事あります」
「嘘!?」
二人同時に称狼を見た。そしてまたも同時に自分の背中を見た。
「嘘」
次に称狼を見た時には、頭に二つのタンコブができていた。
テーブルに顎を付けて頭を撫でている称狼をさて置き、今度は二人の会議になった。
「どーすんの?このままじゃ逃げようにも逃げらんないよ……」
「くっそー。アイツやっぱ称狼が狙いだもんな。称狼渡せば俺等を助ける、とかそーゆー条件出してくんじゃねぇの?」
「なにぃ!?男ならもっと正々堂々と…」
「なぁ楓?」
急にラングが声を掛けてきた。頭の中がごっちゃごっちゃになっている時に声を掛けられたため、いつも以上に短気のようだ。凄い形相でラングを見た。
「あァん!?」
「ゴメン、これ飲んで」
「はぁ!?何言ってんだクソジジイ!!称狼渡せって言われたってね!そう簡単に……………………はい?」
「落ち着け楓。誰も称狼渡せなんて言ってないぞ」
拓羅に肩を軽く叩かれ、楓は瞬きを繰り返した。さすがに耳を疑ったようで、ラングに向けて耳を出した。
「…………何?なんて言った??」
言葉を待っていると急に耳を引っ掴まれ、ラングの方に引き寄せられた。
「ちょっ、いっ、待っ……いぃっで!!いだだだだだ痛いっつってん――――!?」
「ホラ、飲め飲め」
耳を放したと思ったら、今度は口に烏龍茶を流し込まれた。考えるよりも早く喉が動き、烏龍茶は全て腹に押し込まれた。その後、頭痛地獄に悩まされた事は言うまでも無い。
「頼むよ楓、お前までボケボケキャラにならないでくれ。誰が俺を止めてくれるんだ」
しかし、テーブルに顔を伏せて頭を押さえている楓には、何を言っても聞こえていないようだ。
ラングはニッコリ笑うと「じゃあね」と言って席を立った。
「あ、そうだ。良かったらコレ、君等も飲んでいいよ」
そう言うとどこから持ってきたのか、烏龍茶を二つテーブルに置いた。そしてオマケに伝票も置いてスタコラサッサと出ていってしまった。
「……どーすんだよコレ……?こっちも」
拓羅は烏龍茶を差してから楓を差した。称狼も首を傾げるばかりだ。だが、思い立ったように手を叩くと烏龍茶を持った。
「大丈夫です凋婪さん!苦しみは分け合わないと!ね!!」
そう言うと何を血迷ったのか、称狼まで冷たい烏龍茶を飲み干した。二人並んでテーブルに顔を伏せる。
こうなってしまうと拓羅も飲まないわけにはいかない。
「え……えぇい!こうなったらヤケクソだ!!俺だって!」
何を競い合っているのか全く分からないが、拓羅も称狼に負けじと烏龍茶を飲んだ。
今度は店の中が静かになりすぎて不気味なくらいだった。




