第5話 『称狼』3
(回想)
(くそっ・・・!)
空き地での出来事だった。
三人程の男子が、一人の男子を囲んでいる。
囲まれているのは称狼だった。
「弱ぇな、お前!」
「もう行こうぜ」
三人の男子は称狼を地面に叩きつけ、バカにした笑いを見せて去ろうとした。
その時だった。
「コラッ!何度言ったらわかんの!?称狼いじめんなっつってんでしょ!」
突然、称狼の前に人が立ちはだかった。
楓だ。
「げっ・・・鬼ババ・・・」
三人の男子のうち、一人が声をあげた。その一言で、楓の逆鱗に触れてしまった。楓がそばにあった石を掴み、思いっきり投げると「鬼ババ」と言った男子の背中に直撃した。
「いでぇっ!」
顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら帰ろうとすると、次は三人の前に男が立った。
これが拓羅だ。
「お前らな、人の弟殴るだけ殴って帰ろうだなんて虫が良すぎるんじゃねぇのか?あァンッ!」
わざと「コワイ顔」をしてビビらせると、三人は悲鳴をあげて一目散に逃げていった。そして称狼のそばに行き、手を差し伸べた。称狼は顔を伏せてその手を掴む。腕を引き、立ち上がらせると、拓羅が真剣な顔で言った。
「やられたらやり返せ。いつまでも甘えてられると思うなよ」
「・・・・・・ごめん・・・」
兄弟のやり取りに、楓は口出ししなかった。ただ横で見ているだけだ。拓羅はあえて称狼に厳しく接しているのだ。
そして三人で帰っていく。これがいつもの光景だった――――。
「・・・ってわけ」
称狼が横を見た。今、ここは北海道、札幌だ。横には、拓羅、楓、ファング、坤が居た。
「俺も結構兄貴達に助けられてたんだよなぁ・・・」
遠い目をして思い出に耽る称狼の横で、楓と拓羅は内緒話をしている。
「思い出した。何度も助けてたわ・・・。て事は何?これぞ恩を仇で返してんじゃないのよ。なんなのよそれ。最低じゃない?理不尽じゃない?」
「そうだよな、完璧に思い出したぜ。昔はあんなにチンチクリンの弱虫だったのに・・・。なんであんな子に・・・。そうか!楓、お前の教育方針がいけないんだ!」
「あたしかぃ!」
話していると言うより、愚痴をこぼしている二人の間に称狼が割って入ってきた。
「ま、キミ達、疲れてるだろ?休んでてくれよ」
それを聞いたとき、楓と拓羅は同じことを思った。
(疲れさせた張本人のクセに何抜かしとんじゃコイツ)
だがまあそんな事を思っても仕方がない。疲れているのは事実だった。休もうと思ったその時、後ろからドシドシと音がしてきた。
「称狼様ーッ!」
太く低い声で叫びながら走ってきたのは岩の塊にも見える「ゴーレム」だった。恐らく、最初の時に雪山に楓たちを放り投げた者だろう。その証拠に、ゴツゴツした手だ。
「なんだ?ゴーレム。どうした?」
「ボスが・・・称狼はまだか、とお怒りです!」
この「ボス」とは、二度目の洞穴でファングが言っていた「称狼の後ろに居る人物」だ。
「そっか・・・すっかり忘れてたな・・・」
少し頭を抱えて悩んだが、すぐにゴーレムの顔の前で三本指を突き立てた。
「三日だ。あと三日待ってほしいと言ってくれ」
「わかりました」
ゴーレムが去った後、拓羅は称狼の方を向いて言った。
「なんだよ称狼。ボスってなんだ?俺達どーなんだよ?」
「アンタらはとにかく休んでおけばいい」
称狼はそう言ったが、それでは拓羅も納得できない。
「どーなってんのかちゃんと説明しろよッ!」
「休めっつってんだろ。ぐーすか寝てりゃいいんだ!」
その言葉の後、拓羅の鳩尾に硬い物がめり込んだ。それは称狼の拳だった。勿論手加減はしてあるが、気絶させるには十分な強さだった。
「タクッ・・・!称狼説明しなさ・・・」
そこまでしか言えなかった。
楓の鳩尾にも、拓羅と同じように拳がめり込んだのだ。そのまま、その場に崩れ落ちる。
二人の体は、ゴーレムによって建物内に移された。




