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endless battle  作者:
45/69

第45話 『楓母ちゃん』

「ファングッ!!」

 楓が家のドアを開けた。走ってきたせいで息が荒くなっている。

「・・・・・・あれ?」

 中には誰も居なかった。それもそのはず、全員拓羅の家の方へ行っているのだ。楓は自分の家の中に入って居ないことを確認すると、鍵を閉めて隣へ向かった。

 そっと拓羅の家のドアを開けてみると、中は物凄く騒がしかった。ギャーギャー言い合う声や椅子を動かす音、仕舞いには皿を割る音まで聞こえる。

「・・・・・・なんで・・・こんなにうるさいんだ・・・?」

 首を傾げて中に入っていくと、うるささの原因はすぐに分かった。リビングで動物達が騒いでいたのだ。隣の部屋に病人が居るなんて想像がつかないくらいうるさかった。床には皿やコップの破片が散らばり、椅子もテーブルも地震が起きたかのようにバラバラの位置にあった。

 そんな部屋で動物達は寝転がったりソファに座ったり、好き勝手に過ごしていた。

「・・・ちょっとコラ!病人の家で何してんのアンタら!?」

「あっ、人間版の楓だ」

「は!?・・・っていうかねぇ、ちょっと・・・とりあえず外出な!」

 楓はファング達四匹を外につまみ出すと、再び中に入っていった。ドアの鍵を閉め、もうファング達は中に入れないようにした。

 寝室を覗くと、拓羅はベッドでぐったりとしていた。布団を被り、その中に更に枕がある。これであのうるささに耐えていたようだ。

「タク・・・?大丈夫?」

 拓羅の体をポンポンと軽く叩くと、中から赤くなった顔を出した。

「・・・・・・楓?もう帰ってきてくれたのかぁー・・・」

「ど?」

 楓は拓羅の額に手をあてた。手が冷たくなっているせいもあるのか、熱く感じた。

「・・・ちょっと熱い・・・かな?・・・んーと、とりあえずあたし着替えてくるから向こう行・・・だっ・・・いてっ」

 立ち上がろうとした時、楓の腕を拓羅がガッシリ捕まえた。バランスを崩し、その場に倒れ込む。

「・・・・・・。あたし今日頭打ってばっかじゃん・・・」

 一人天井を見ながら呟いた。その後片手を使えないながらも体を起こし、床に座ると、ベッドに顔を乗せる。

「おバカな拓羅さんはどんな夢を見てるんでしょーねー?」

 呆れ顔でそう言うと、拓羅の顔を見た。腕を掴みながら気持ち良さそうに眠る彼の額に、軽くデコピンを喰らわせた。




 それからどれだけ経っただろうか。

 楓が目を開けた。外は暗い。窓から微かに差し込む光は月によっての物だ。

 勿論部屋の中も真っ暗で、白い息が出るほど寒い。ベッドに置いていた寝ぼけた顔を起こすと、辺りをキョロキョロ見回した。目をこすり、やっと声を出す。

「・・・寒っ・・・・・・。アホだなー。なんでこんな薄着・・・」

 自分の服と、ついでに部屋の中を見て、寝ぼけた顔は一気に冴えた顔になった。片手で髪をかき上げながら携帯を取り出す。画面の明かりに対して眩しそうな顔を見せたが、次の瞬間には険しい表情となっていた。

「・・・さんじ・・・?――――三時!?うそっ!!」

 腕を握られてることも忘れて立ち上がろうとする。やはりバランスを崩した。

「またやっちった・・・・・・」

 ムクリと起き上がると拓羅の指を自分の腕から一本一本引っぺがしていき、今度こそ立ち上がると、部屋を静かに出ていった。

 行動は至って普通だったが、楓の頭の中はごちゃごちゃで混乱していた。部屋を出ると玄関のドアに向かう。自分で鍵を掛けた事も忘れてパニくるくらい重症だ。

(ちょっと待て。なんだ?あれ?看病?看病してたのか?でも看病って言うほどの事は・・・いやいやそうじゃなくて・・・・・・)

 頭を掻きながら拓羅の家を出ると、寒いのと同時に透き通った空気も感じた。

 そんな中、ファング達が楓の家の前で丸まっていた。

「・・・・・・しまった・・・」

 何を思ったのか、楓は口を開けたまま固まってしまった。

 その時ファングが目を覚ました。中央に居るファングが動いた為、他の動物達も目を覚ます。

「ぶぇっくし!!」

 ユキ以外の動物が、三匹一斉にくしゃみをした。

「なんやアンタら。風邪ひいたんか?」

「うぅ・・・。楓が鍵なんて閉めたから・・・・・・」

 ファングがそう言った。そのファングの肩をバンバン叩くユキは、寒さには物凄く強い。一匹だけ全く風邪などひいてなかった。

「楓のせいだバカヤロー!拓羅と俺らとどっちが大切なんだよー」

「ゴメンゴメン。分かったからとりあえず中入って」

「どっちだー!どっちが大切なんだバカ楓ー」

「はいはい。ファングのが大切だよー。だから早く入って。ストーブ付けて暖かくしたげるから」

「かえちゃん・・・・・・母親みたいやな・・・」

 鍵を開けて中に入ると、ファングと良真とみーなはすぐにストーブの前まで行き、三匹でくっ付いて丸まった。

「ユキは?どーする?中暑いけど」

「ほんならあたしはたっくん家行くわ」

「ほんならあたしはたっくん病院に連れてくわ」

 楓はユキを見てふざけて同じ喋り方をし、拓羅の家の中へ入った。

 「寝室には入っちゃダメだよ」と言ってユキをリビングに行かせ、寝室に向かう。

 未だ眠っている拓羅の前まで行くと、彼はノロノロと目を開けた。

「はい、熱測って」

 拓羅に体温計を渡す。ゆっくりと上半身を起こし、体温計を脇に挟んでまた横になった。

 数分後、部屋に規則正しい電子音が鳴り響いた。デジタルの数字は「39.7」と示していた。

「高っ・・・!?」

「・・・何度・・・?」

「39度7分」

「俺死ぬぅ?」

「バッカ。何子供みたいなこと言ってんの。こんなんで死んだらアンタが生きてる事自体おかしいわよ」

 楓は体温計をケースに仕舞いながらいつも通りの冷たい口調で言った。そして体温計を棚に戻すと、振り向きざまに言った。

「朝になったら病院ね」

「朝まで待つのかよぉ・・・・・・」

「救急外来行くほどでもないでしょ」

「うわぁぁ!ダメだ俺ー!死ぬんだ俺ー!死・・・」

「うるさいッ!黙って寝てろ!」

(病人にも容赦無しかよ・・・・・・)

 怒鳴られた拓羅はそう思って、心の中で涙を流した。拓羅がそんな事を思ってるとも知らず、楓は何かを探している様子だった。

「何してんだ?」

「・・・どこー?」

「何が?」

「診察券」

「あー・・・えっと・・・その棚の二段目・・・」

 拓羅は楓の隣の棚を指差した。二段目を開けると、一秒後には額に手を当てた楓の姿があった。

「ぐっちゃぐっちゃで分かんないんだけど!」

「黒いケースに入ってるヤツ」

「・・・「黒いケース」?あ、あった」

 楓はカードケースの中から診察券を取り出した。棚に戻すと、部屋を見回す。

「あのさぁタク、ちょっとは掃除しなよ」

「だって面倒臭ぇんだもん・・・」

 「面倒臭いんじゃなくてゴミ臭いよ・・・」と言いながら、楓はわざと肩を大きく落としてため息を付いた。


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