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endless battle  作者:
42/69

第42話 『真っ白』


 良真も無事見つかり、平和なまま一週間が過ぎようとしていた。

 十二月も終わる頃。真冬だ。その日、朝早くに楓が目を覚ました。

「・・・さぶっ・・・!」

 一度布団から出たが、あまりの寒さに、巻き戻しでも行ったようにもう一度布団の中に潜り込んだ。

「・・・・・・でもやっぱ起きないとなぁ・・・」

 しぶしぶ布団をはがす。楓は高速で起きて高速で着替えた。

(今日も空のご機嫌取りか・・・)

 上着を着ながら憂鬱だった。上着のチャックを閉めながらドアを開けると、中とは比べ物にならないくらい寒かった。一度開けたドアはすぐに閉められた。

(寒っ!なにこれ!寒っ!?)

「手袋とマフラーは必需品だ!」

 そう言って楓は中に戻っていった。そして五秒後にはストーブの前で丸まっていた。


「・・・もうヤバイな。空の機嫌が悪くなる・・・」

 ため息をついて手袋をはめてマフラーを首に巻き、ドアを開ける。今度こそはちゃんと外に出た。

 階段を降りると、一面雪景色だった。

「あ。雪降ったんだぁ・・・」

 手袋をしている両手を擦りあわせながら、嬉しそうな顔を見せた。そして時々「お、深い!」と言って雪と格闘しながら道を進んでいく。雪の上にはまだ一人分の足跡しか付いていない。後ろを振り返った楓は、満足そうに笑うと左の空き地に入っていった。

「空ー。おはよ・・・おおっと・・・」

 雪でバランスを崩しながらも空の許へ行く。空は懸命に怒っている自分を演じていた。本当は尻尾を振って楓に飛びつきたかった。

「雪だよ?」

「見りゃ分かる!」

 空は、健康な時なら自分の大きさを自由に変えられる。いつ大きくなってもいいように、空はこの空き地で飼われている。今は丁度大型犬くらいの大きさだった。

「遊ばないの?」

「遊ぶか!ガキじゃあるまいし!」

「・・・ふぅーん・・・。前は雪がちょっと降っただけでも大はしゃぎだったのに」

 空は鼻で大きなため息をついた。全く乗り気じゃない空を見て、楓は少しムッとした表情を見せた。

「・・・・・・いーぬは喜び庭駆け回りねーこはコタツで・・・」

「歌うなぁぁ!!」

「何よぅ。ピッタリの曲じゃんよ」

「生意気な・・・。忘れてないだろうな。お前はオレを怒らせた、オレはお前を怒ってる、OK?」

「NO!」

「なんでだよ!」

「無理しないでさぁ。遊びゃいいじゃん」

「無理なんてしてねぇよ!お前一人で遊べよ!人間が一人遊びだな!あーあー寂し!」

「・・・じゃあタクと遊ぼっと」

「へっへー!遊ぶ相手が居な・・・え・・・・・・?」

「ほんじゃあバイバイ。あ、また風邪ひくよ?ちゃんと小屋ん中入っときなよ?」

 そう言って空に向かって手を振ると、楓はマンションの方へ戻っていった。

「・・・な・・・なんだよチクショーめ!」

 空はその場でブスッとしていたが、しばらくすると素直に小屋の中に入った。


 マンションに戻った楓が拓羅の家のドアを叩くと、拓羅はもう起きていた。

「あれ?珍しいね、早起きなんて」

「雪の匂いがしたんだ!今外降ってんだろ!?」

「や、降っては無いけど積もってる」

「よっしゃぁ!」

 拓羅は飛び跳ねながら階段へと向かった。

「あ、タク!マフラーほどけるよ」

「ん?あ・・・」

 立ち止まって後を向く。楓がマフラーを巻きなおしてやった。

「へへっ!さんきゅう」

 ニカッと笑うと、階段を二段飛ばしで降りていった。楓は上着のポケットに手を突っ込んで拓羅を見ている。そんな楓の後ろに、称狼が忍び寄ってきた。

 そして後ろから覆いかぶさるようにして抱きついてきた。

 これは昔から称狼が楓にしていた事だ。

「あ、称狼」

「アニキに恋でもしました?」

「は?恋?なんで?」

「・・・・・・いや、なんでって・・・。もっと照れてくれないと・・・なんつうか・・・こ、困ったなぁ・・・」

「ダメですよ称狼様。コイツ恋愛に関してはトコトン本当に鈍いですから」

「何よそれ」

 楓は家の中から出てきたファングを睨んだ。

「事実だろ」

「・・・・・・っつかホラ!犬はさっさと遊べ!庭駆け回って遊べ!」

「オレは犬じゃねぇ!ケルベロ・・・」

「ファング。行ってこい」

「はい称狼様!」

 称狼が言うと、ファングはすぐに階段を降りていった。爽やかな顔の称狼の隣で、楓はファングを睨み続けた。

「・・・なんで称狼の言う事は聞くのに・・・・・・」

「凋婪さん苦労してますね・・・」

「・・・・・・。あっはっはっはっはっはー!」

 楓は一度称狼の方を向き、またファングの方を向いた。そしてムカツク気持ちも納得のいかない気持ちも、全て笑い飛ばしてやった。

「楓ー!雪合戦しよーぜぇ!」

 下で拓羅が呼んでいる。楓は不敵な笑いを見せると、降りていった。

「コイツに当てられたら絶対痛ぇぞ!っつか必ず命中すんだもん」

「え、なんで?」

「石投げを中国で鍛えたもんな」

「楓様をナメたらアカンべ!」

「お前どこの人だよ」

 ファングが楓にツッコミを入れ、雪合戦が始まった。と言ってもファング達は投げる事が出来ないため、拓羅と楓の二人だけだ。

 しかし雪が積もると言ってもこちらの地方での量は多寡(たか)が知れている。真っ白だった雪はすぐに灰色のシャーベットに変わった。

「あー。終わっちまった・・・」

「うわっタク汚いよ!そんなとこ寝転んだら・・・」

「冷てぇだけだ。死にそうなくらいに」

「じゃあ早く立ちゃいいじゃん・・・」

「・・・俺は真っ白よりも灰色になってる方が好きだ・・・」

「は?」

 上から楓が拓羅の顔を覗きこむ。

「・・・・・・なんか、怖いじゃん。真っ白って・・・」

「あんなにはっちゃけてたのに?」

「お前怖くないのか?」

「うん」

「拓羅もそんな風に感じることがあるんだなぁ」

 横でファングがニヤニヤと笑った。しかし真剣な顔の拓羅を見て笑うのをやめ、座りなおす。

「なんか嫌な思い出でもあんのか?」

「・・・別に・・・いや、無いわけでもねぇけど・・・」

「・・・・・・?」






「今日のタク・・・変だよね」

 部屋に戻った楓がファングに言った。

「今日の拓羅は変だなぁ」

「・・・・・・だからそう言ったっつうの・・・」

 楓が小声でボソッと言うと、ファングは今気付いたかのように振り向いた。

「ん?どうした?」

「・・・いや別に・・・」

「なんか知ってるか?拓羅が真っ白嫌な理由」

「全然。なんも知らない」

 楓は昼飯を作りながら答えた。

「くそぉ、気になる・・・!」

「別にいーじゃん。んな事・・・」

「嫌だ!オレは知りたいぞ!」

「あーはいはい。どうぞご勝手に」

「・・・なんだよその言い方・・・」

「はぁ?・・・アチッ」

 ファングの方を向いた時に手にフライパンが当たった。しかし何事も無かったように料理を続ける。

「いいもんね!じゃあ何か知っても教えてやんねー」

「はいはい。だから別にいいわよー」

「・・・・・・」

 ファングがブスッとした顔でテーブルを向くと、楓は嬉しそうな顔で近づいてきた。

「・・・スネた?スネた??ねぇねぇスネた???」

「スネた。カワイイ?」

「カワイイ!」

 ニッコリと笑ってファングの頭を撫でたかと思うと、すぐにいつもの顔に戻った。

「さぁ行ってこい。理由聞いてこい」

「はーーい」

 楓に背中を押され、ファングは隣の拓羅の家へ向かった。だが行く途中の通路で立ち止まり、「・・・あれ?利用された・・・?」と呟いた。



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