第40話 『新ママ誕生』
みーなとファングは二匹で敵を挟むような形になった。
「おりゃっ!!」
ファングが炎を放つ。だがやはり敵はそれを喰った。
「無駄だって言ってるのがわかんないのっ!?」
「バーカ」
ファングの攻撃に集中していた敵の背後には、みーなが迫っていた。みーなは拳を握り締めると、敵の角めがけて振り下ろした。
「うわっ・・・!」
しかし、敵が避けたのもあるが、角は思ったよりも硬く、なかなか傷を付けられない。みーなが着地した所を狙って、敵は角を伸ばした。
「痛っ!」
後でファングが炎を当てた。こちらを向いていなければ喰いようが無い。敵がファングの方を向いた時、もうすでにまん前まで迫っていた。
「・・・・・・!」
ファングは、伸びたままの角に思い切り噛み付いた。しかし敵は不敵な笑みを浮かべた。
「そんなんで・・・傷付けられるかっ!」
頭ごと動かしてファングを振り落とそうとする。その間にも、ファングの口からは煙がもくもくと上がっていた。
「オレが噛み付くだけだと思ったか・・・?」
「え・・・・・・」
「うおらぁッ!!!」
角に噛み付いたままの至近距離で、ファングは炎を放った。見事角は砕け、敵の顔は見る見る驚愕の色に染まっていった。
弱点の角を砕かれ、敵はその場に崩れ落ちる。ファングも飛び降りた。角からは大量の血が流れ出ている。
「・・・・・・何故ここに来た?」
息をするのがやっとの様子の敵を見下ろし、ファングが聞いた。
「・・・ボス・・・・・・」
「ボス?・・・ラングか?」
「・・・・・・退け・・・ママの所に帰らなきゃ・・・」
「無理だ。出血多量で死ぬぞ」
ファングがそう言っても、立とうと足を踏ん張ろうとする。だが踏ん張れば踏ん張るほど角血が出る。
「ちょっ・・・」
そこまで言い、ファングの視線は角へと移った。真っ二つに折れたはずの角は、どんどん元の形に戻ってきている。
(再生能力・・・!?)
「・・・よし・・・!」
「あ?」
敵は急にファングの方を向くと、角を伸ばした。
「・・・!!」
「ファングッ・・・」
みーながそう言うのと同時に、ファングの叫び声が空に響いた。敵の角はファングの腹を刺し、体ごと宙に浮かせていた。
「・・・の、ヤロォ・・・・・・!」
「仕返しだ!死んじゃえッ!!」
攻撃しようにも口も届かず、息を吸う事すら困難なので魔法も出せない。みーなも敵に攻撃するが、やはり効いてない様子だ。
「くぉらッ!!」
その時、後から声がした。拓羅と楓の声だ。振り向くと、拓羅はコワイ顔を見せ、楓は自分の後ろに当たり前のように居る拓羅を、「あれ?」と言う顔で見ていた。
「・・・・・・いつ帰ってきた・・・!?」
「ついさっき!」
拓羅は前を向きながら答えた。二人のやり取りに緊張感を無くした敵が下を向くと、ファングの腹から角が抜けた。
地面に落とされる寸前に、みーなが体を受け止める。そしてそれと同時に楓と拓羅は敵に向かって走り出した。
「ママの所に帰るんだっ!退けよ!みんな死んじゃえ!!」
「もう居ねぇよ」
拓羅が攻撃を止めて言った。敵の動きも止まる。
「・・・なん・・・で・・・?」
「なぁ、「ママ」ってこれの事?」
後に称狼が立ち、何かを掴んでいる。掴んでいたのは敵と同じストラント族だった。もう生きてはいないようだが、多分母親だろう。
「! ママッ!!」
「なん・・・なん、なんであんなん持ってんの!?」
楓は眉をしかめて称狼を見た。称狼はケロッとした顔で、「そこに転がってたんですよ」と言った。そこに拓羅が割り込んできた。
「アイツ殺ったのって・・・・・・」
拓羅は楓の耳元でコソコソと話した。
「・・・・・・何なんそれ?なんでよ?」
「知らねぇよ。急に出てきていとも簡単に・・・」
「・・・何?何話してんだよ?俺もまぜてよ。・・・なぁってば」
真剣な顔で話す二人の後ろで、称狼がピョコタンピョコタン跳ねている。
「なぁ!何話してん・・・」
「称狼!!黙って」
「称狼!!黙れ」
同時に二人にそう言われ、飛び跳ねていた称狼はショックを受けた顔でしゃがみ込んだ。しかしそんな称狼を無視し、二人は話を続けた。
「やってる事が矛盾しまくりじゃん」
「そうなんだよなぁ。マジで何が目的なんだろ・・・?」
「でも見たんでしょ?」
「おう」
「・・・っていうかさ、「それ」やった後どこ行ったの?」
「左!」
「もういいです」
「・・・お前らが・・・・・・」
二人の後ろで、敵がノソリと動いた。
「お前らが殺したんだなッ!!?」
「ちょっと待て。違うぞ。話聞け?」
「うるさい!!お前らが殺したんだ!!ママはお前らに殺されたんだッ!!!」
「お前のがうるせぇよ・・・――――!?」
敵の角が拓羅を攻撃した。幸い腕に軽く刺さっただけだった。
「・・・いってぇな、テメェ!!何すん・・・」
「ママの仇だ!!死んじゃえッ!!みんな死ねェッ!!!」
もう一度角を伸ばそうとした時、敵の頬に殴られた痕が付いた。
「・・・・・・!?」
「ふざけんな、バカ。勝手な事ばっか言ってんじゃないわよ」
「!! ・・・かかか楓ッ!なんでお前はそうおいしいトコばっか取って・・・」
顔だけ起こし、ファングは泣きそうな顔で楓を見た。だがそんなファングを無視して、今度は敵が泣きそうな顔で楓を見つめた。
「ママ・・・」
「・・・・・・あん?」
「ママだぁぁぁっ!!ママの口調だぁぁっ!!会いたかったよママぁぁぁっ!」
急に楓を見て涙を流し、そのまま突進してきた。
「・・・あれ?うそ?・・・まぢ、で・・・・・・?」
瞬きを繰り返してそう言ってるうちに、楓は敵にのしかかられ、下敷きとなった。
「うわぁぁっ!楓!!大丈夫かっ!!」
「・・・・・・うおっ・・・背中がっ・・・いて・・・いてて・・・」
這い出てきた楓は、背中を押さえた後、何事も無かったかのように体のホコリを払い落とした。
敵と本人以外の誰もがその姿を怪訝な顔で見つめた。
「・・・・・・何なんだ?お前大丈夫なのか・・・?」
「ママ!これから僕はママに付いていきます!!」
「・・・いや、困る」
「ありがとう!絶対離れないよ、ママ!」
「ちょっと待て!日本語理解して!」
「分かってるよ。ママってばいつからそんなに照れ屋さんになったの?」
「分かってねぇだろ、お前」
「楓、男口調になるな。今のコイツにゃ何言ったって無駄だろ。目の前に転がってる肉親の死体だって目に入ってねぇんだ」
「あー・・・。そだねぇ」
「それにお前んとこの空も入れりゃデカイ犬二匹だろ?何かと役に立つんじゃね?・・・おいお前、名前は?」
(・・・しまった。空忘れてた・・・・・・)
敵に向かって名前を聞く拓羅の横で、楓の顔には大きくそう書かれていた。
「僕ね、僕ジーク!ママ名前忘れたの!?」
「ジークか。ジークな・・・・・・おい楓?」
「かえちゃんなら「空ゴメン」って叫びながらどっか行ったで?」
「・・・あ、そ」
その後、楓は一週間程空のご機嫌をとりながら過ごした。しかしそれでもしばらくは空の機嫌が直ることは無かった。




