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endless battle  作者:
39/69

第39話 『ママを尋ねて皆殺し』

「ただいまッ」

 ファングが楓の家のドアを開けた。中の部屋から楓が顔を出す。

「あ、おか――――」

 良真が居ないかわりに、耳の尖った少女が立っている。当然のごとく楓は驚いた顔をしている。ファングとその少女の顔を交互に見た。

「・・・・・・・え、と・・・。誰?・・・っていうか良真は?」

「あっ!良真忘れてたッ!・・・あ、えっと、コイツはみーな。十ヵ月だってさ」

「フーーン・・・」

「あたし、狼少女!このおじちゃんに仲間になれって言われたからなりました!」

「お兄さんだっつの!」

 後ろからファングが言った。そして言った後、耳がピクリと動き、ドアの外を見て真剣な顔になった。

「・・・・・・今、音がしなかったか?」

「音・・・?」

 今度はハッキリと全員の耳に、その音は入った。音はどんどんとマンションへと近づいてくる。

「・・・なんなんだ・・・?」

「わからねぇ・・・。とにかく行ってみようぜッ!」

 しかし全員で行ってもそれぞれが邪魔になるだけだ。とりあえずは拓羅とファングで行く事になった。急いで階段を降り、マンションの外に出て辺りを見回す。

 東の方にソイツは居た。巨大な――――犬のようだ。

 目が三つある。頭には角が生えていた。

「なんだ、アイツ?」

「ストラント族!」

「・・・あ?ストラ・・・?」

「拓羅、戻ってろ」

「は?」

「いいから!」

「なんでだよッ!俺だって・・・」

「アイツはあれでもまだ子犬だ。今の状態でも物凄く危険なんだ。暴走しちまったら・・・」

 ファングの頭の中に、嫌な光景が広がった。だがそんな心配をよそに、拓羅は叫んだ。

「子犬ぅ!?」

「・・・ああ。とにかく戻れ!戻って作戦考えとけ」

 ファングを見つめて、拓羅はしぶしぶ頷いた。

「・・・わかった。でもじゃあ、三十分経っても帰ってこなかったら行く、そんでいいか?」

「おう・・・」

 拓羅はファングの後姿を見て、心配そうな顔をしながらも戻っていった。マンションの階段を上がっていく拓羅を見届けると、ファングは再度ストラント族の方を見た。

「さて、と」

 もうまん前まで来ていた。やはり近くで見ると更に迫力があった。

「話終わるまで待ってるなんて余裕じゃねぇか」

 ファングがそう言うと、敵は不服そうな顔をした。

「よく言うよ。隙があればいつでも攻撃してやろうと思ってたのに」

「ほおー。ガキのクセになかなかだな」

「ガキって言うな!」

 敵は勢いよくファングに飛びかかった。


 その頃、拓羅は家の中で待っていた他の者達に状況を説明していた。

「・・・三十分待つ?」

 楓が怪訝そうな顔をして言った。

「ファング、今戦ってんだ。・・・アイツがめちゃくちゃに頼んでくるから・・・」

「どんな奴やったん?」

 ユキが楓の横から顔を出し、訊ねた。拓羅は敵の事を全て話した。その話を聞いていると、次第にユキの顔色が変わった。

「ストラント族か・・・。アイツ、あほやなぁ・・・。アカンで。ファングじゃ勝ち目あらへん。ま、あたしもやけど」

「えっ、なんで?」

 楓と拓羅は同時にユキを見た。

「ストラント族はな、魔力を喰うねん」

「・・・・・・は?」


 ユキの言った通り、敵はファングの放った炎を喰っていた。そして自分の体力にする。ファングの攻撃は敵を強くしてしまうだけなのだ。

「チクショォ!」

 悔しそうに歯軋りして、攻撃を避ける。しかし足の攻撃は避けたが、直後、角が伸び、ファングを襲った。その角に後足を攻撃され、その場に倒れ込む。

「うおっ・・・・・・」

 見ると、足には穴が開いていた。そこから血がドクドクと流れ出る。ヨタヨタと立ち上がろうとするが、上から敵に押さえつけられた。

「ぐ・・・・・・」

 背中からメキメキと音が聞こえた。歯を食いしばり、痛みに耐える。敵はそんなファングを見下ろしながら不敵に笑った。


「・・・・・・三十分だ・・・」

 拓羅は時計を見ながら呟いた。そして立ち上がる。

 その時、彼の左腕に切り傷ができた。

「・・・!」

 振り返ると、そこには外で見たあの敵が居た。角を伸ばして攻撃したのだ。

「な・・・なんで・・・・・・ファングは・・・」

「ファング・・・。ああ、それってコレの事?」

 そう言うと、拓羅の目の前にファングを放り投げた。

「・・・・・・!ファングッ!」

 傷だらけだった。拓羅はファングの体をそっと撫でると、的を睨んだ。それを見て、思わず敵も後退る。

「・・・ガキだからって容赦しねぇからな・・・」

 物凄く低い声で言った。そして拳を握りしめ、敵の方へジャンプしながら構えた。

「うおあああああぁぁッ!!」

 足を思い切り殴った。ボキッ、と言う音が響く。

 しかし敵はニヤリと笑うだけだった。

「折れたね。お前なんかには僕の体に傷なんてつけられないよ」

「・・・・・・!」

 拓羅は右腕を押さえてその場にうずくまった。全体が震えている。猛烈な吐き気を覚えた。

 やっとの思いで顔を上げる。だが、目の前にいたのは敵ではなくみーなだった。みーなは(おもむろ)に敵の足を掴むと、手に力を入れた。足は見る見る変な方向へ曲がっていく。仕舞いには、引きちぎる始末となった。

 敵は嫌な音と共に悲鳴をあげた。しかしみーなの顔は全く変わる事が無い。ずっと敵の顔を睨んだままだ。

「・・・おっ・・・お前なんかに殺られてたまるか・・・。僕は生きてママの許に戻らなきゃ・・・」

「アンタの事情なんてどうでもいい」

 冷たい声で言い放つ。敵が唖然としている中、みーなは更に続けた。

「・・・「生きてママの許に戻らなきゃ」?」

 口だけでフッと笑うと、そのまま敵の腹を蹴りつけた。

「死ぬ覚悟も無く来てんじゃねぇよッ!」

 怒りのオーラを放っているみーなの後ろで、楓は目をパチクリさせていた。開いた口が塞がらない様子だ。

「・・・・・・あんな・・・男口調、なワケ・・・?」

 みーなを見て言う楓の横で、拓羅が「お前も負けてねぇから安心しろ」とボソリと言った。楓は前を向いたまま拓羅にストレートパンチをくらわせた。

「っていうか腕は?大丈夫なの?」

「殴った後に言うなよ、お前・・・」

 頬を押さえながら言った。そして右腕の袖を捲くった。手首が明らかに変な方向に曲がっている。

「・・・・・・痛くない・・・ワケないな」

「うん。痛ぇ」

「はい、病院レッツゴー。いってらっしゃーい」

 楓はマンションの外を指差し、笑顔で手を振った。

「え、一緒に行ってくんねぇの?」

 楓を見て、拓羅はわざと寂しそうな顔で言う。しかし楓は「何言ってんの、ガキじゃあるまいし」と冷たく言った。仕方なく、拓羅は一人で病院へと向かった。

 そんな事をしている間にも、みーなは圧倒的に敵を押していた。ヨロヨロと向かってくる敵の顔を、爪で引っ掻いた。そしてそれに続け、顔を思い切り蹴りあげる。敵はそのまま倒れ込んだ。

「ファング!」

 みーなはファングの方へと駆け寄る。楓が「生きてる、生きてる」と言うと、安心したようにため息をついた。だが、そんな時間も束の間だった。敵は起き上がるとみーなの腕に噛み付いた。

「・・・・・・!」

 みーなはそのまま後ろへ投げ飛ばされる。壁に叩きつけられた。

「・・・帰んなきゃなんないんだ・・・・・・。ママのとこに・・・」

 その目はセルヴォのようだった。みーなを睨みつける。

「そのためには・・・・・・倒すんだ・・・!」

 切れ切れにそう言うと、角をみーなに向け、走り出した。

「・・・みーなッ!」

 その時、敵の後ろから声がした。直後、敵はその場に沈み込む。

「大丈夫か・・・?」

 みーなの前に立ったのはファングだった。瞬きを繰り返してファングを見つめ、やっと頷く。

「・・・・・・うん・・・。ファングも・・・」

「あ?何だよ?・・・・・・ホラ、早く立て」

 その後ろで、敵が立ち上がる。振り返り、ファングが面倒臭そうに言った。

「・・・しぶといな・・・。オレお前の弱点見つけちまったんだよなぁ」

「・・・・・・え・・・」

 不安そうな顔をしている敵を無視して、ファングはみーなにコッソリと耳打ちした。話し終わったのか、みーなは力強く頷いた。


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