第38話 『ボケボケ少女』
良真探しに出たファングは、まず川原を見に行った。楓と話した、あの川原だ。川原全体を見渡したが、良真は見当たらない。次にビルの隙間などを見ていく。
しかしやはり居ない。ファングにとって良真は嫌な存在だが、何故か放っておけなかった。
(あの寂しそうな目が気になるんだよなぁ・・・)
ファングに突っ掛かってきたときも、目の奥は寂しさを訴えているように見えて仕方が無かった。
だがファングの心配とは裏腹に、良真は一向に見つからない。行きそうなところの見当もつかないため、見つけ出すのは困難極まりなかった。
捜しに来てから二時間は経っている。ファングの足にも段々と負担が掛かってくる。気が付くといつの間にか、またあの川原に戻ってきていた。
「ふぅ・・・。少し休むかな」
そう言って、ファングは芝生の上に寝そべった。ため息をつき、目を閉じる。
(・・・眠いぞコノヤロウ)
睡魔に負けそうになった時、足音がした。ファングの目も一気に覚めた。
「良真!?」
思わず振り返る―――しかし、そこに居たのは、一人の少女だった。
「・・・髪生えた犬だ」
少女の第一声だ。ファングは少しムッとした。
「誰だお前?それにオレは犬じゃな・・・」
ファングは目を凝らした。よく見てみると、少女の耳は尖っている。人間には有り得ない牙も少し見えている。口を開くとその牙は完全に姿を現した。どう見ても人間の持ち物には分類されない。
「・・・・・・人間じゃあないな・・・?」
確かめるように言った。その瞬間、少女の目がギラリと光った気がした。ファングは攻撃態勢に入る。
「うん!」
返ってきたのはその二文字だった。しかも少女はヘラヘラと笑っている。
「・・・う、うんっておま・・・」
「あたしね。狼!」
「狼ぃ?じゃあ狼・・・・・・少女・・・?」
「あっ、それいいね!あたしも次からそうやって呼ぶ!」
「や、いいねぇって自分の事だろ・・・」
「おじちゃん名前は?」
ファングは「おじちゃん」と言う言葉にショックを受けた。
「おじ・・・おじちゃ・・・違う!オレはまだまだ「おにいさん」だ!」
「うん!わかった。それでおじちゃん、名前は?」
「・・・・・・もういい・・・」
小声でボソッと言い、続けた。
「名前はファングだ」
「ファング・・・。あたしみーな!あのね、狼なの。・・・じゃなくて狼少・・・」
「さっき聞いた。歳は?いくつだ?」
「えっとね・・・十ヵ月!」
こちらも良真と同様、「十ヵ月」とは犬の歳でだ。人間の歳で言えば十五歳くらいだろう。
「・・・今はどうやって人の姿になってるんだ?」
「わかんない」
「・・・・・・・・・。わかんないのに人になれるのか?」
「だって寝てただけなのにこうなってたんだもん。あのねおじちゃん、この世はね、リクツじゃない事で溢れてるんだよ」
「うるせぇ!ガ、ガキに言われんでもわかってんだよ!オレはもう三年も生きてんだ!それにお前、「リクツ」の意味も知らねぇで・・・」
「え、じゃあおじちゃん知ってるの?教えて教えて!」
「・・・え、えっとな・・・だから、その・・・リクツ・・・ってのはだな・・・。り、理由とか・・・道理とか・・・論理とか・・・」
ファングは顔をそらして切れ切れとそう言う。ドンドンとボリュームが下がっていくのが分かる。
だがみーなはわけが分かっていなかった。
「リユウ?ドウリ?ロンリ?」
「・・・そ、そうそうそう!そうだよ!ロンリーユウだ!うん。そう!リクツってのはロンリーユウで、ロンリユウ。意味わかるか?どうよどうよこれ・・・」
「おじちゃん、それを言うならオンリーユーだよ」
「・・・・・・う、うるせぇな!ギャグだよギャグ!そんくらい分かれよな!」
「いわゆる親父ギャグだね?」
「お兄ギャグだ!親父じゃねぇ!」
「でも三年も生きてりゃもうそろそろ頭の毛も抜け落ちる頃・・・」
みーながそこまで言うと、ファングは目の前の少女めがけて炎を何発も放った。
「そういう事はあと十年してから言えッ!!」
「うわっ・・・わっわっわっ・・・」
絶対に避けられないだろうと思っていた炎を、ギリギリではあったものの避けてしまった。バック転だ。
「・・・マジかよ・・・?」
それを目の前で見ていたファングは目を疑ったが、すぐにみーなの前に座った。
「お前さぁ!」
「え?あっ・・・はいっ・・・」
「オレ達の仲間になれ!」
「・・・・・・・・・え?」
みーなは顔をしかめた。




