表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
endless battle  作者:
37/69

第37話 『ラング』5


 次の日、まだ楓達も眠っている時間に、称狼は飛び起きた。家の中だと言うのに寒い。すぐに靴を履く。そして拓羅の家に入り、例の「アレ」を持った。拓羅の家に入った時にマフラーと手袋が目に入ったため、壁から奪い取り、装着した。そして階段を下りていく。勿論「アレ」は中身が見えないようにしてあった。

 マンションから出ると、更に寒かった。空もまだ暗い。白い息がこれでもかと言うほど出る。道は、車がたまに通るくらいで、人とは全くすれ違わなかった。

(寒ぃなチクショー・・・)

 手袋もマフラーもしているが、やはり寒い。


 信号をいくつか越え、一本、普通に歩いていたらわからないほどの細い道に入る。称狼が横歩きをしてやっと通れるくらいだ。

 冷たい壁が身体に当たり、称狼を更に震わせた。ようやく細い道を抜けると、一つの広場があった。しかし、水の止まった噴水、ツタが生い茂っているベンチなど、長年使われていない事が一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。

 噴水の向こう側には、四つほどの建物が建っている。その中で使われていると思われる物は一つだった。それがラングの棲み家だ。

 称狼はゆっくりとその家に近づき、ノックをした。扉は勝手に開いた。中に入ると、外よりも幾分か温かかった。見ると、ストーブに火が付いている。吸い込まれるような速さでストーブの近くに行き、しゃがみ込む。そして手を出した。白かった手が赤く照らされる。今まで自分の手がどれだけ冷たかったかわかる。しばらくは温度差で手がピリピリしていた。足が痺れそうなので、あぐらを掻く。ストーブのまん前にベタンと腰を下ろした。そのまま待っていると、奥からラングが出てきた。称狼を見ると、ニッコリと笑った。しかし、それは優しい笑いではなかった。

「やあ称狼。よく来たね」

 称狼はビシッと立つと、震える口を開いた。

「・・・・・・コレ、返しに来ました・・・」

 紙袋を投げ捨てる。ゴツン、と言う音がした。ラングはそれを見て、また視線を称狼に戻す。

「で、連れてきたか?」

「・・・・・・・・・今日は・・・それを返しに来ただけです・・・。あの、もうこんなことしないでくださ・・・」

「この間からお前、私をバカにしているのか?」

「え・・・」

「私を待たせていいとでも思ってるのか?いい気になるなよ。お前なんていつでも殺せる」

 笑ったままそう言った。その時称狼の背筋が凍った。今すぐにでも逃げ出したかった。だが、今日はもう一つ目的があって来たのだ。それを達成せねばならない。

「バ・・・バカになんてしてません・・・。あの・・・俺は・・・もう兄貴達の敵にはなりたくないんです・・・」

「なんだと?」

 ラングの顔から笑いが消えた。

「とにかくっ・・・も、もう来ません・・・!失礼します・・・」

 そう言うのがやっとだった。称狼はドアを乱暴に開け、外へ飛び出した。気を抜いたら豪快に転びそうなくらい膝が震えている。

 口の中が乾燥してきた。喉も乾燥して、ヒリヒリしてくる。だが立ち止まったら終わりのような気がして、マンションまではずっと走り続けた。階段を上がろうとした時、足がもつれて倒れた。

「・・・いってぇ・・・」

 やっとの思いでその言葉が出た。息を荒くしながら立ち上がる。痛いのだが、なんだかスッキリしたような、変な気持ちだった。ゆっくりと一段一段踏みしめるように階段を上がり、楓の家の前まで来た。

 時刻はいつの間にか七時をまわっていた。中から声がする。渇いた喉に必死に水分を与え、ドアノブをまわして入った。

「・・・お、称狼!」

「ただいま・・・」

 息を切らしながら言った。

「ラングに返してきたんか?」

「ああ。・・・・・・ファングは・・・?」

「なんか良真を捜してくるとかなんとか言って出てったぞ」

「・・・そか」

 深呼吸して、椅子に腰掛けた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ