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endless battle  作者:
31/69

第31話 『中国』2

―――そして再び空気が常温に戻るまでには少し掛かった。

 ゆっくりと目を開ける。最初に目に入ったのはヴェキラスだった。拓羅の目の前に巨体が立ちはだかっていた。

「・・・・・・!」

 もう一度目を閉じる。

 しかし攻撃はこなかった。動きもしない。よく見てみると氷に包まれて固まっていた。

「・・・・・・一体・・・何がどーなっちまったんだ・・・?」

 わけが分からなく呆然としている彼の横から、ふと声がした。だがそれは彼に向けての物ではない。後ろにいるファングに向けての物だった。

「アンタ何しとるん?情けないったらあらへんわ!」

 女の声、しかも大阪弁だ。一呼吸おいて、ファングが叫んだ。

「ユキ!ユキじゃねえか!」

 「ユキ」というのは白くまだった。ファングと同じく称狼の使者である。そして何故だかいつも大阪弁で話す。ファングよりも二つ、年上だった。

「んでもなんでここに居んだよ?中国だぞここ!」

「あのマヌケ・・・・・・ヴェキラスがここに向かった言う情報が入ったんや。せやから来た。そんだけのこっちゃ」

「・・・・・・ちょっと待てよ。どうやって来たんだ?白くま乗せて中国に行く飛行機なんてあったか?」

「アホ。んなもんあらへんわ!」

「じゃあどうやって・・・」

「ファング、あたしを誰と心得とるん?」

「白くま」

 ファングはためらいもせずに即言った。

「・・・・・・・・・。まあええわ。あんな?使者の下っ端にグリフォンが入ってきたんや。ソイツに送ってきてもらったんよ。ソイツあたしにめっちゃ懐きおって。「姐さん」なんて呼ぶもんやから・・・。あーもー参ってまうわぁ!あっはっは!」

 そう言ってファングをベシベシ叩いた。

「・・・なーにが「姐さん」だ。モロ大阪のオババじゃねえか」

 ファングは横を向いてボソボソと言った。

 次の瞬間には氷に包まれた者が一つ増えた。

「・・・スマン・・・オレが悪かった・・・」

「まったく!口慎みや!」

 ユキは何かを唱えた。唱え終わると、ファングを包みこんでいた氷が一瞬にして溶け、消え去った。

「何だ今の?」

「氷を溶かす呪文や!凄いやろ?アンタがおった時あたしこんなん習得しとらんかったから驚きやろ?結構苦労したねんで。これ覚えんの」

「て事はヴェキラスの氷も・・・!」

 ファングは慌てて後ろを振り返る。しかしユキは顔色一つ変えなかった。

「何言ぅとんねん。敵の氷まで溶かすんやったらアンタの氷なん一生溶かさへんわ」

「ひでぇっ!・・・あ、本当だ。溶けてねぇ。ユキやるじゃねぇか!」

「せやからそう言うとるやんか。もっと褒めてもええよ」

 ユキはフン、と鼻を鳴らした。ファングは「付け上るから」と言ってそれ以上は褒めなかった。

「・・・ケチケチしとると嫌われるで」

「うるせぇよっ」

「ほな、最後の仕上げやな!」

 凍っているヴェキラスの近くに行くと、ユキはその身体を前足の先で少し押した。ヴェキラスは凍ったまま砕け、その場に崩れ落ちた。


 午後十時。

 あれから色々とやっているうちに夜になっていた。楓達はこの時間になってようやくチェックインを済ませ、部屋に入った。動物も宿泊OKな所だ。だが人間と同じ部屋に入る事は出来ない。隔離された部屋で、一頭ずつケージに入れられる。ファングとユキもそうだった。ケージ越しに、二匹は小声で話していた。

「・・・まだようわかっとらんのやけど、あの人らは「カエデ」と「タクラ」って言うんやな?」

「おう」

 ファングは大きく頷く。

 ヴェキラスを倒した後、ユキはやっと楓達に気付き、ファングに紹介してもらっていたのだ。

「カエデにタクラか・・・。な、な、あだ名付けてもええかなぁ?」

「いんじゃね?」

「どないしよっかなぁ・・・」

 ユキは真剣に考え始めた。

 一方、こちらは楓達人間チームの部屋だ。部屋を二人分も取るほどの金が無いため、二人一部屋だった。

(明日帰んのかぁ・・・)

 そう考えているのは拓羅だった。今、彼はベッドの上に座りこんでいた。

(ま、楓は日本のがいいだろうけど)

中国は彼の母国だ。楓にとってもそうだが、彼女の場合は日本に居る方が気楽なのだ。拓羅も、楓は日本に居る方がいいと思っている。しかし、やはり一度中国に帰ってきてしまうと、そこの環境が懐かしく、日本に帰るのが気持ち的に困難になる。だが楓一人を日本に帰すのも心配でならない。

 そして、その時の楓の心境はこんな感じだ。

(明日帰れるぞっ)

 湯船に浸かりながら満面の笑みを浮かべていた。中国に居ては、またいつ自分の母親と対面してしまうかわからない。

(まあタクは中国のがいいかもしんないけど・・・)

 自分から望んで日本に来た楓でも中国の空気が懐かしく思えるくらいだ。拓羅の場合はもっとだろう。自分の家や、親など懐かしいものばかりだ。もっと色んなことを話したりもしたいはずだ。だが、いくら親が一緒だと言っても、やはり拓羅一人を中国に置いていくのも心配でならない。


 髪を拭きながら風呂場から出ると、拓羅がベッドで熟睡していた。

「風邪ひくっつの・・・・・・お?」

 何も掛けずに寝ているため、拓羅の下にある掛け布団を取ろうとした。が、ビクともしない。

「・・・・・・タクってこんなに重かったっけ・・・?」

 何気に失礼な言葉をぶっ放し、そのままにしておいた。



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