第27話 『事情:川原にGO!1』
次の日、楓はいつものように家中を歩き回って家事をしていた。その変わりように、ファングは目を丸くしていた。瞬きを繰り返して楓を見る。バタバタと動き回っていた。
「かっ・・・楓・・・?」
「あ、ファング。おはよ」
今やっとファングに気付いたようだ。顔を上げ、ファング用の皿を持つ。中にはもうドッグフードが入っていた。
「どうしたんだお前・・・大丈夫なのか・・・?」
「は?何が?はい、ご飯」
「え?あ、あ・・・どうも・・・」
しかしファングには忙しさで気を紛らわしているように見えた。その証拠に、椅子に座ると途端に顔が変わる。何かを深く考え込むような、そんな顔だ。
(・・・まあそりゃ暇な時なら考え事くらいするだろうけど・・・。でもなんとなく違う気がすんだよなぁ・・・)
ドッグフードをボリボリかじりながらファングは考えた。
(楓を悩ませてんのは・・・昨日のオレの発言か・・・?)
言うまでもないが、楓が悩んでいる原因は拓羅の「中国に帰ろう」発言だった。あれからまた少し話したが、やはり拓羅の意見は変わらなかった。ボーッとしている楓の顔を、ファングが覗きこんだ。
「お前、本当に大丈夫か?」
「・・・ん?あ・・・うん。・・・・・・ってかファングさっきからそればっかだよ」
そう言って、楓は笑う。
「そうだったか?・・・まあいいじゃん」
笑った楓を見て、ファングも照れたような安心したような、そんな笑いを見せた。そしてまた皿に顔を突っ込んでドッグフードを食べる。楓も、しばらくはファングを見ていた。
「・・・・・・あ!そうだ!」
急に手を叩くと、さっさと朝食を口の中に放り込んで席を立つ。そして自分の部屋に入っていった。ファングはその様子をポカンと見ていた。
「・・・・・・何だアイツ?また閉じこもる気かな・・・」
口いっぱいにドッグフードを詰め込み、モゴモゴと呟く。そして最後の一粒も食べ終わり、皿を銜えて流し台の下に置いた。
その時丁度、楓が出てきた。上着を着ている。
「ファング!遊び行こっ!」
「あ?」
「気分転換!ファングもあんま動いてないっしょ?」
「あぁ・・・。そういえばそうだな・・・」
そう言っている間に、ドアが閉まる音がした。ファングが顔を上げると、もうそこには楓の姿は無かった。
「あっ!ちょっと・・・おい!」
急いで追いかける。少し走って、階段のところで追いついた。そして一人と一匹はマンションを出た。楓がファングを連れていった場所は川原だった。ファングは川原を見るのは初めてだ。目が輝いている。
「・・・・・・広いな・・・」
草もあって川もある。ファングは、「走りたい」という衝動に駆られた。それを察して楓が小さく川原を指差し、言った。
「ほら、走ってきていいよ」
「・・・おうっ!」
嬉しそうな声で返事をすると、すぐに下りていった。凄いスピードで走り回っている。
「・・・・・・やっぱこの辺は犬だわな」
楓は少し笑って芝生の上に座った。




