第23話 『事情:楓vs拓羅【ラウンド2】』
15分後、やっと口を開く。だが、先に開いたのは楓の方だった。
「ねぇ、何?」
その声に、拓羅はビクンとなり、しきりに動かしていた顔も止まる。楓の声はイライラしていた。ヤバイと思い、ゆっくりと楓の方を見る。そしてこれまたゆっくりと口を開いた。
「ちゅ・・・ちゅ、ちゅ、ちゅぅー・・・」
丁度、口もその言葉通りの形だ。楓はそんな拓羅を、「何コイツ」と言う冷めた目で見た。
「ちゅっ・・・ちゅっ・・・・・・・・・チューしよ」
「馬鹿者」
早かった。即答だった。「よ」という言葉も最後まで言えたか言えないかくらいだった。
「・・・本当は何が言いたいわけ?」
彼女の顔も言葉も声も、「怒り度」の中間まで来ていた。楓が15分待っただけでも凄い事なのだ。拓羅以外の人物だったらとっくに痺れを切らしてスタコラサッサと帰っているところだ。
「いや・・・その・・・ちゅ・・・ちゅちゅちゅ・・・」
しかし、楓ももう限界だった。机の上でトントンと鳴らしていた指を止め、ため息をついた。
「帰ります」
「ちょちょちょちょちょっ!ちょい待ちぃ!」
拓羅は焦った。楓の場合本当に帰りかねない。
椅子を後ろに引いて立ち上がろうとする楓の袖を引っ張って止めた。急に強く引っ張ったため、楓の顔は机に激突した。
「いっ・・・だーー!もー!何!?」
「頼む聞いてくれ!」
「・・・あのさぁ、だからさっきから聞いてんだけど。すっごい聞いてんだけど」
「よし。わかった・・・。い、言うぞ・・・?」
「はいはい。どうぞ」
「・・・・・・・・・ちゅ・・・中国、に、行こ・・・」
急に楓の顔色が変わった。睨むように拓羅を見た。
「・・・え・・・・・・?」
「や・・・だから・・・中国に・・・行こ・・・?」
確かめるように言ったが、返事はこなかった。楓は下を向いて黙り込んでしまった。
時間ばかりが過ぎていく。
いつもは気にならない時計の音が妙にうるさく感じた。




