第22話 『事情:楓vs拓羅【ラウンド1】』
「来れっかなぁー、楓の奴・・・」
今日、拓羅は珍しく自分の家に居た。と言っても楓の家と隣同士なのでそう変わった感じはしない。今彼は凄く悩んでいた。彼の親は中国に居る。その親に、高校卒業する前に一度顔を見せに戻って来い、と言われたのは中学一年生の時だ。拓羅の親は、本当の親よりも楓に優しかった。拓羅が帰ってくる時も楓を連れて来いと言われていた。彼自身は中国に帰る事に何も反対しないが、問題は楓だった。
「中国に行こう」と率直に言って簡単に行ってくれるとは思えない。彼女にとって中国は嫌な場所だった。出来る事なら二度と戻りたくはないだろう。だが拓羅にも親との約束があった。その約束は、楓に一度も話した事が無い。それも心配だった。
二人の意見が食い違っているために、彼は悩んでいるのだ。
しかし聞いてみないとわからない。しばらく考え、決心した。顔をあげて玄関へ向かう。ドアを開けようとした時、そのドアがバンバンと音を出した。外から誰かが叩いているようだ。そして声がした。
「タクーッ」
「おい、何も音しねぇけど大丈夫かお前?」
それは紛れもなく楓とファングの声だった。拓羅は少し迷ったが、緊張しながらもドアを開けた。
「あ、出てきた。どしたの?自分家居るなんて」
「ん・・・だって・・・・・・なんつーか・・・自分家だしッ・・・!」
「・・・はい?」
拓羅の発した言葉は、彼自身でもわかるくらい変な返事の仕方だった。拓羅は言った後で、しまった、という顔をした。
楓はこういう事にとことん鋭い。恋愛系は本当に鈍いが、こういう事はとにかくとことん鋭い。それで拓羅の嘘がバレた回数は数知れない。やはり今回も、楓の目の奥がギラリと光った。獲物を狙う肉食動物のような目になった。
睨まれた草食動物は鼓動を速めながらその目を見た。しばらくは睨み合いの状態が続いたが、やっと終わった。耐え切れなくなって拓羅が顔をそらしてしまったのだ。それを合図のように、楓も拓羅に向けたロックオンを解除した。
「今日はタクん家上がらせてもらうよー」
そう言って拓羅の横を通って玄関で靴を脱ぎ、中に入っていった。楓が行った後も、拓羅の心臓は速く動いているままだった。
(・・・ヤ・・・ヤベェ、寿命が縮む・・・!)
ため息をついて拓羅も中に入った。そして楓を椅子に座らせると、これからが本番だった。
しかし中々言い出せない。ひたすらゴソゴソしているだけだ。楓は自分の家で挙動不審になっている変な男を凝視するだけだった。




