第21話 『事情』2
「いやぁー今日も楓さんはいい舌さばきでしたねぇ!」
今は帰り道だ。いつも通り、夕日に照った商店街を歩いている。拓羅がニコニコと笑って楓を褒め称えた。しかし、楓にとってはそんなものどうでもよかった。
「何よその舌さばきって・・・」
「よくあんなにも言って一度も噛まないな。コツ教えてくれよ」
「はぁ?」
二人がマンションに着いた時、中からはファングが走り回る音がしていた。そして楓がドアを開けようとした時、今度は勝手に開いた。
「わっ」
ギリギリのところで右に避けた。するとドアの攻撃は、楓の後ろに居た拓羅の方へいった。
「ぶっ・・・」
拓羅も避けようとしたが、惜しくも避けられず。顔面強打だ。そんな暴れん坊のドアも静かになり、家の中からファングが顔を出した。満面の笑みで出迎えた。自分の開けたドアが拓羅に当たった事はわかっていないのだろう。
「楓!拓羅!おかえりぃ!」
「・・・ファング・・・テメェ・・・・・・ッ!」
「!なっ・・・なんだ?何怒ってるんだ?あ、その鼻から出てる血はなんだ?」
自分で自分の首を締めてしまった。
「テメェのせいだろうがよぉ!あぁッ!おん前急にドア開けんじゃねぇよ!前は勝手に閉まったしよぉ!どんだけやったら気が済むんだよ!」
「苦し・・・。いや・・・オレか?気付かなかった!スマン拓羅!」
「いーや、許さねぇぞ!今日こそ息の根止めてやる!」
拓羅の手がファングの首に伸びてきた。拓羅の握力は凄い程ある。そんなので締められたらいくら首が丈夫なファングでもたまらない。
「かっ・・・かかか楓ぇ!助けてくれっ!」
「うるさいな、自業自得だそんなもんッ」
「えぇっ・・・そんな・・・」
「ふぁぁぁぁんんんんぐぅぅぅぅッ!このクソ犬!似非ケルベロス!」
こうなったらファングももう開き直るしかない。
「たっ・・・拓羅がノロマなのが悪いんだぞ!それにオレちゃんと謝った!なのに似非ケルベロスとは何だ!っていうか「似非」って何だ!」
「謝ればいいって問題じゃねぇんだよっ!容量悪ぃクソ犬!」
そして一人と一匹の喧嘩が始まる。楓は呆れて、耳を塞ぎながら家の中に入っていった。
「タクも喧嘩なら自分家ですりゃいーのに・・・」
ブツクサ言いながら私服に着替えた。
「あッ!」
楓が着替え終わった時、拓羅が急に大声をあげた。目の前に居たファングは、案の定驚きだ。
「なっなんだ・・・?」
「そいえば俺・・・」
「あ?何?」
ファングの質問に答えないまま、拓羅は独り言を言いながら入っていった。
「・・・な・・・なんだアイツ・・・?」
玄関に取り残されたファングは、拓羅の後姿を見ながら首を傾げた。
(楓連れて・・・行かねぇと・・・中国に)




