第20話 『事情』
一大イベントの修学旅行も終わり、ここ何ヵ月はイベントというイベントが無かった。しかし楓達三年生は、もうすぐ卒業だ。だがそこまで楽しいものでもない。
その証拠に、二人はこんな会話をしている。
「卒業式なんてやんないでもいいのにねぇー」
「なんでだ?」
「だって練習とか面倒くさいしハッキリ言ってウザったいし。パパッと集まってパパッと卒業証書渡してパパッと終了!これでよくない?」
「・・・確かにな。歌とかがあっから変に長引くんだよなァ」
「そうそうっ!学校ってやたら余計なもんやりたがるんだよねぇ。生徒としてはいい迷惑だよ」
「うむうむ・・・・・・お?」
廊下に座り込んで喋っている二人の前に、もう一人の足が見えた。恐る恐る上を見ると、今の会話を一番聞かれたくない人物、担任が居た。顔全体にしわを寄せ、二人を睨んでいる。その顔から目をそらし、拓羅が焦って言い訳をした。
「・・・せっ・・・先生、ごきげんようでございますですね!あの・・・い・・・今のはですね!・・・そう!空耳!空耳です!・・・あの、えっと・・・あ!あれですよ!ね?先生、あれ!あの・・・どっかの誰かがまるで俺らが言ってるかのようにイタズラしてるんじゃないですか?困るなぁ本当に・・・あはははははっ!」
一生懸命笑った。しかしどこからどう見てもわざとらしい笑いだ。拓羅が懸命に笑っても、担任が笑うことはなかった。
「ほう。そのどっかの誰かとはどこに居るんだ?」
「・・・あ・・・あっち!」
拓羅は隣の校舎を指差した。
無論、そんな事を信じるほど馬鹿な担任ではない。
「お前らはぁ・・・ったく!職員室に来い!」
そして二人は連れていかれる。また大声で怒鳴り散らされるのだ。だが、もうそれには慣れっこだった。今回も含めて二回目だったが、よく怒鳴る教師ほど恐がられる日数は少ない。
楓の頭の中の面積は、恐いという感情よりも、
(よく喉枯れないなぁ・・・)
という感心の方が多く陣取っていた。
この教師の説教は、「全くお前らは―――――」から始まり、「――――だ。違うかっ?」で終わる。そしてそこからは楓の反撃の時間だった。
「先生!私達が先生の居ないところで話していた事は悪いと思います。反省してます、でも私達が詫びるべき所はそこしかないと思うのですが。それに今の世の中生徒と教師でクラスを作り上げるのも必要だと思うんですよ。なのでたまには生徒の意見も聞き入れたほうが良いのではないでしょうか。あ、その前に、一つ質問してもいいですか?いいですよね?」
「・・・お、おう・・・」
「なんで卒業式では歌を歌ったりする必要があるんですか?その必要性がわからない限りは歌う気なんて出ません」
「う・・・歌う必要性・・・?そんな物校長に聞け!」
「先生がわからないんじゃあ生徒にも伝わるはずありませんよね?と言うか伝えようがないですよね。皆が納得した上で歌うからこそ感動があるんじゃないんですか?ねぇ拓羅くん?」
「え・・・あ、・・・そっ・・・そうですよ!」
「歌う意味がないんなら歌う必要ないじゃないですか。必要最低限の事するだけでいいじゃないですか。嫌々歌わせたんじゃ感動もクソもありませんよ―――――」
と、こんな具合で近くの人達も巻き込んで三十分も一時間もベラベラと喋り続けるため、担任のほうが先に折れてしまう。そして極力早口で話すため、相手に言葉の意味を考えさせる時間を与えないのも彼女の得意技だった。
楓の言ってる事があってるか間違ってるかは関係なく、とにかく拓羅は助かっている。内容はどうでもいい。担任が参ればそれでいいのだ。楓もそうだろう。




