第19話 『憧れの修学旅行!−ファングもついてくぞ−』10
バスから出ている煙はまだ収まらない。
「グォッ!」
その時突然、二人の後ろから声がした。セルヴォが出した声のようだ。振り向くと、奴の背中で赤い炎が踊っていた。
「うっ・・・あ・・・!あ、あっ・・・熱い・・・!」
二人の耳にはセルヴォの叫び声など入ってこなかった。考えるので精一杯だったのだ。
(・・・まさか・・・)
そして同じ事を思っていた。しかし、どこにも姿は見当たらない。首を動かして探していると、目の前に獣の足が降りてきた。
「情けないぞお前ら」
聞き慣れた声――――ファングだった。四足を踏ん張り、フンフンと鼻を鳴らしている。
ファングの前に居る男女は、驚きのあまり言葉も出ない様子だった。
「乗客はオレが降ろした。安心しろ」
「・・・・・・あ・・・・・・?・・・え・・・」
ようやく状況が把握できてきたようだ。とにかくファングのおかげで皆助かったのだ。
「どーだっ?オレ連れてきて良かったろう?」
得意気に、また鼻を鳴らす。
「・・・・・・うん・・・・・・ありがと・・・・・・」
楓が意外と素直に礼を言ったからか、ファングは少しビックリした顔の後、照れたように横を向いて言った。
「・・・早く立てよ」
「あ・・・うん・・・・・・。あれ?そいえばセルヴォは」
「あぁ、あの変な男か?逃げてったぞ」
「弱いな、おい。・・・て事は?ファングのおかげで全てが好転した、ってわけか・・・」
「オレいい奴だろう?カッコイイだろう?だから楓、帰ったらご褒美よこせ!おやつおやつ!」
白く尖った歯を見せて笑いながら尻尾を振る。そんな無邪気なファングを見て、拓羅は少し笑いながらたずねた。
「ファング、どうだった?憧れの修学旅行は」
するとファングは振り返り、ニカッと笑って
「楽しかったぞ!」
そう言った。
その後、楓達は何事も無かったかのように観光を続け、愛知県に帰ってきた。二人負傷者は出たが、クラスメイトは全員無事に帰ってこれた。ファングのおかげだ。
――――――しかし、全てがいい方向に転がるとは限らないようだ。
まず二人は帰ってからマッサージ院などで金が殆どなくなった。怪我は東京の病院で治療し、なんとかなった。学校からの金や保険もおり、二人の金はさほど無くならなかった。だがマッサージ院は違う。一人ならまだしも二人ともなると結構な出金だ。
それだけでも痛いのに、更に「嫌な事」は二人を襲った。
バスの乗客はファングに助けられた。と言う事は、ファングの姿を見た、と言う事だ。勿論担任も―――――。
次の日学校へ行くと、下駄箱に靴を入れた瞬間二人は担任に連れて行かれた。職員室だ。そしてみっちり叱られた。
担任もファングに助けられたとは言え、やはり禁止行為は禁止行為だ。他の教師が止めに入ってやっと収まった。
その後、家に帰った二人の気分が一気に沈んだ事は言うまでもない。




