第16話 『憧れの修学旅行!−ファングもついてくぞ−』7
今、拓羅はまだ蜘蛛と戦闘中だった。
「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
拓羅は、木の枝を折って攻撃していた。だが、楓の方の蜘蛛と同じでやはり硬い。その硬さ故に、半分に折れた枝はこれが四本目だ。
「くっそ・・・!倒せねぇだろこんなのっ」
役立たずになった四本目の枝を足元に捨てる。カラン、という音が、周りに何もない空間に響いた。その音で蜘蛛が一瞬ビクンとなった。本当に一瞬だったが、拓羅はそれを見逃さなかった。
「・・・そっか、なるほど・・・。なんで今まで気付かなかったんだ」
怪しく笑うと、木の枝や石を持てるだけ持ち、自ら蜘蛛に近づいていった。そして蜘蛛のすぐそばまでいくと、その場で手に持っているそれら全てを真下に落とした。
結構な音が響いた。蜘蛛がその音に驚き、警戒している隙に、拓羅は素早く後ろへまわる。後ろから蹴りや殴りなどの行為を何回も繰り返した。だが、やはり硬さは変わらない。拓羅の拳から血が出るだけだった。
「・・・チクショウ・・・駄目か!」
蹴りなどで蜘蛛は後ろに反応し、いくつもの目で拓羅を睨むと、足を延ばしてきた。足の先は意外にも尖っている。その尖った足は、彼の顔や肩などに無数の傷を付けた。
「・・・・・・チッ・・・!」
そしてヤケクソで向かってくる拓羅を、その足で払い除けるように横に飛ばした。危うくそのまま転がってしまうところだった。
地面で一回転した拓羅は足でその体の転がりを止め、体制を立て直した。寝転がってしまっては負けたも同然と言えるほどの厳しい状況だったのだ。彼の身体は、もう傷だらけになっていた。もうこれ以上ダメージを受ける事は出来ない。拓羅は懸命に考えた。
この蜘蛛にも、必ず弱点はあるはずだ。しかしそれがわからないから、今苦労している。大抵の生き物は、目を傷つけられれば致命的だ。だが、体が硬いならば目をガードしている何かもあるかもしれない。もしも目を潰す事が出来なかったら――――。
今度はもっと強い力で飛ばされ、立ち上がれなくなるかもしれない。この考えを実行するのは命懸けなのだ。
しかし、他に方法はない。
拓羅は自分の考えに賭ける事にした。覚悟を決め、一本木の枝を折った。今回は少し太めの長い枝を選んで折った。
「何回も痛くしてゴメンなっ」
そう言って木の表面をサッと撫でる。そして走って蜘蛛の目の前まで行った。そこから更に助走をつけて大きくジャンプした。そして蜘蛛の頭上まで行くと、目をめがけて枝を下に突き出した。
―――――見事命中し、辺りに鮮血が飛び散った。目を守っている物は何もなかった。拓羅は、驚いたような嬉しいような顔をしている。
「・・・蜘蛛のくせに、いっちょまえに俺らと同じ血ぃ出しやがんのかっ・・・」
自分の顔にも付いた血を手の甲で拭いながらそう言った。やはり目が弱点だとわかると、拓羅は次々枝で突き刺していく。
蜘蛛も大分弱ってきたようだ。全ての目が潰れると、その場に沈み込んだ。ピクピクと体を震わせている。
そんな敵の体を、枝で突いてみた。さっきまでの硬さが嘘のようだった。
(・・・これなら・・・いけるっ・・・!)
拓羅は血だらけの手で枝を握りなおし、蜘蛛の上から思い切り突き刺した。一瞬、蜘蛛はビクンとなったが、動かなくなった。
「・・・終わ・・・った・・・」
息を切らしながら、自分の血と蜘蛛の血がべっとりと付いた枝をその場に落とした。




