第15話 『憧れの修学旅行!−ファングもついてくぞ−』6
地面に血が飛び散っている。その血の中心に、人間が立っていた。
「っうー・・・最っっっ悪!」
両手をぶるぶる振りながらそう言った。
今、楓は七匹目の蜘蛛を倒したところだった。だがまだまだ楓の目の前には蜘蛛の軍隊がいる。今倒した数は、その中のほんの一部でしかなかった。
「・・・・・・・・・もーヤダなぁ・・・・・・」
これだけの蜘蛛を見れば、それだけで気が遠くなる。それは楓の、本当に心の底から出た言葉だった。だが倒さねばならない。蜘蛛を倒すため近づこうとした時、うじゃうじゃといる蜘蛛が急に一つの塊になった。最初は丸いただの塊だったが、次第にモコモコと動き出し、ソイツは形をあらわにした。
黒い、巨大な蜘蛛だった。体は黒く、目は赤く光っている。楓はその無数の目の的となった。
その頃、拓羅の方でも同じように大きな蜘蛛が現れていた。楓の時と同じようにあの蜘蛛達が合体し、一匹の蜘蛛になったのだろう。
「なっ・・・なんじゃこりゃぁっ!」
素直な感想だ。誰だってこの蜘蛛を見ればそう思う。
「・・・ま、まぁ・・・この方が戦いやすいっちゃあ戦いやすい、よな・・・」
一人でうんうんと頷き、いざ蜘蛛の方へ向かっていった。
そして楓も、勿論蜘蛛との戦闘を強いられている。仕方なく倒そうとするが、そう簡単にはいかない。何度も何度も攻撃をするが全て防がれるため、いつの間にかムキになっていた。楓は本当に本当の負けず嫌いだ。更にそれが自分の嫌いなモノとなれば、負けたくないという思いは倍増だ。何度か攻撃をしているうちに、ようやく楓の蹴りが蜘蛛に当たった。が、その蜘蛛は物凄く硬かった。逆に楓の方がダメージを受けるくらいだった。
「いぃっ・・・・・・ったぁ!っつかスッゴイムカツクッ!生意気だし!蜘蛛のクセにこの硬さはなんだっ!第一キモイんじゃぁぁっ!」
蜘蛛に伝わるはずもない言葉を、足をおさえながら大声で怒鳴りたてる。
ようやく足の痛みも和らぎ、もう一度蜘蛛の方に向かおうとした時――――。
蜘蛛の体から糸が伸びてきた。白い。一本一本はそう太くはないようだが、何重にもされれば解くのは難しくなりそうだ。
「・・・!?」
気付いた時にはもう遅かった。その場に倒れこむ楓の体は自由を奪われていた。蜘蛛の糸が、楓の体を縛り上げたのだ。
すぐに取ろうとしたが、もがけばもがくほど糸の縛る力は強くなっていく。糸一本一本の太さがない割には凄い力だった。その力で骨がメキメキと音を立てているのがわかる。腕が痛み始めた。
このまま放っておいては完全に動けなくなる。楓はダメ元で、腕に思いっきり力を入れた。
意外だった。
プチンと音がしたのだ。
「は!?」
楓自身もわけがわかっていなかった。こんなに簡単に切れるものだとは思っていなかったからだ。しかし安心してはいられない。急いで切れ目を探した。
それでも何も対処しようとしない蜘蛛が、少し可笑しく見えた。
(相手がバカで良かった)
心の底からそう思える。そしてやっと切れ目を見つけ出した。切れた糸を中心に、中の方の糸も一本一本爪でちぎっていく。
ブチッ、という音と共に、楓の体は元気良く起き上がった。体のあちこち痛むが、もうそんな事関係なかった。近くに落ちていた石を、蜘蛛に向かって闇雲に投げた。
その中の一つが蜘蛛の目に当たった。よろめきながら、蜘蛛は後退する。そこでやっと楓は気が付いた。
そこからは目を狙って当てるだけだった。ここで石投げの実力が役に立った。石はどんどん目を潰していく。「目が弱点」と言う事以外は何も考えずに行った事だったが、これが吉とでた。全ての目に当て終わると、またも蜘蛛に近づき、蹴りを入れた。すると今度は手ごたえありだった。どうやらこの蜘蛛も空と同様、健全な身体だからこそあの硬さは保っていられたようだ。楓はニヤリと笑うと、攻撃を叩き込んだ。そして、いよいよ蜘蛛は動かなくなった。
「おっ・・・・・・とっ・・・とっ・・・?」
気が緩み、その場に倒れた。都会の空を見上げながらボケーッとしていた。太陽の光が目に差し込んでくる。眩しそうな顔で声を出した。
「・・・えーっと・・・なんだっけ・・・。あ、そーだ。タク忘れてた。どーーーなってるかなぁ・・・」
いつもの楓からは間違っても出ないようなトローンとした声で言った。




