第14話 『憧れの修学旅行!−ファングもついてくぞ−』5
そんな事の繰り返しで、ようやく修学旅行も五日目を迎えた。
「つっ・・・疲れた・・・」
「犬一匹連れてくだけで、こんなに疲れるとはね・・・」
今、二人はバスに乗っていた。勿論他の生徒達もだ。カバンはトランクに入れてあるため、心配要らない。二人は一番後ろの席に座っていた。前を見ると、皆盛り上がっている。しかし、次の瞬間には、違う意味で騒がしくなる事になる。そんな事は誰も予測していなかった。
バスは信号も何もない所で急停車した。そして停車して数秒後、車体が前にガクンと傾いた。前のタイヤがパンクしたようだ。車内は、一瞬静かになったと思ったら、一気にざわめき始めた。
「・・・楓、ファング大丈夫かな・・・?」
まだざわめきが止まない車内で、楓の耳元で拓羅が囁くように聞いた。
「大丈夫でしょ。アイツなら。それにただのパンク―――――」
そこまで言うと、楓は最悪の想像をしてしまった。だが、それも間違ってはいなかった。
「楓?」
拓羅の声にも耳をかさずに、楓はバスを飛び出した。パンクしたタイヤを調べてみる。前のタイヤ両方ともパンクしていた。――――だが何かおかしい。何か違和感がある。
その違和感は、パンクでできた切れ目にあった。これは破裂でできた切れ目ではない。
故意に切ってできた切れ目だ。少し青ざめた顔でタイヤを見ていると、担任が叱りに来た。しかし、そんな担任に楓は一切怯まない。逆に状況を読めずに偉そうな口を叩く担任にイライラしていた。
「楓!勝手な行動はやめ」
「先生、みんな避難させて」
低い声でそう言った。
「・・・・・・あ?」
「早くッ!」
担任の顔を睨みつけてそう怒鳴った。逆に楓の方が迫力があったくらいだ。担任はそれに負け、わけがわからないまま言われた通り他の生徒達を離れた場所へ避難させる。その生徒達の列から抜け、拓羅が楓の方に駆け寄ってきた。
「どしたんだよっ?」
「これ見て」
楓がパンクして潰れたタイヤを指差した。
「・・・あ?パンクしたタイヤだろ?」
「切れ目!」
「・・・・・・・・・切れ目?・・・あっ・・・!」
「おかしいでしょ?」
「・・・あぁ」
「ね、称狼がさ、前「三日待ってくれ」って言ってたじゃん?でも三日間称狼見てても何もない・・・。それどころか二週間くらい経ってんのにこの通り。こんなに平和」
「もしかして、これって・・・」
そう。二人とも「ボス」の仕業だと考えたのだ。タイヤを見て話し込んでいる二人の後ろに、いつの間にか何者かが立っていた。
「・・・!」
「・・・誰だお前!?」
「どうも、こんにちは。初めましてですね。カエデさんとタクラさんですか?私はラング様の使者、セルヴォと申します。どうぞお見知りおきを」
「・・・・・・・・・あぁん・・・?」
ベラベラと喋りながら楓達の方へ近づいてきた。二人は警戒している。
「さて、今日は―――」
セルヴォがそう言った瞬間、二人の間を刃物が飛んでいった。そしてバスに突き刺さる。しばらくは振動で左右に揺れていたが、数秒後、ピタッと止まるとセルヴォの手元に戻っていった。
「今日は、あなた方に死んでもらいに来ました」
にっこり笑ってそう言った。笑うセルヴォの瞳は尋常ではなかった。ギラギラと光っている。そしてその直後、どこから出したのか何十本ものナイフを二人に向かって飛ばした。
救いだったのはその時ジャージ姿だった事だ。制服よりも大分動きやすい。そのおかげか、なんとか避けられた。しかしそれだけではセルヴォの攻撃は終わらない。次は接近戦だった。凄いスピードで二人に近づくと、何メートルと距離がない所でナイフを振り回した。
楓は、それを避けながら拓羅に向かって叫んだ。
「逆方向行ってッ!」
「・・・あ!?」
最初は意味がわからなかったが、楓が歩道へ向かって走ったところでわかった。拓羅も逆方向の歩道へと走る。一人の相手だったら固まらない方が良い。そう思ったからだ。
ただ、それはセルヴォが一人だったら、の話だ。
「あはははははははははははははははッ」
セルヴォは、車道の真ん中で顔を上に向け、急に大声で笑い出した。そして続ける。
「・・・私が一人で来たとでもお思いですか?」
そう言うと腕を突き上げ、指を鳴らした。すると建物の影から大きな蜘蛛が出てきた。何匹も何匹も、うじゃうじゃ出てくる。
「げっ・・・・・・・・・」
歩道の二人は、同時に顔をしかめた。だがじっと固まってなんていられない。一刻も早く他の生徒達から蜘蛛を引き離さねば、何をするかわからない。丁度幸運な事に、楓も拓羅も考えている事は同じだった。事前に打ち合わせをしていたかのように、同じタイミングで二手に別れた。
しかしこの時、二人は蜘蛛のことで頭がいっぱいになり重大な事を忘れていた。一番の要注意人物だ。
他の生徒達にも危険が迫ってきていた。




