第13話 『憧れの修学旅行!−ファングもついてくぞ−』4
午後九時。
今、高校生一行は今日泊まるホテルに向かっていた。拓羅も、相変わらず重い荷物を持って向かっていた。ホテルに着くと、担任の話を聞いてから部屋のキーを渡される。
二人部屋だ。男子は四階、女子は五階だった。
(・・・五階まで持っていかなきゃなんねえのか)
拓羅は大きな深いため息をついた。
一方、こちらは楓達の部屋だ。
「うっわーベッドふかふかぁ!スッゴイ!ねぇ楓っ、ふかふかじゃない?」
「・・・はいはい・・・」
今日、楓はすぐにでも寝たかった。しかし拓羅がカバンを持ってくるのを待たねばならない。それに隣のベッドでやかましく中継されてしまっては、寝られるはずも無い。
そんな真逆の事をしている二人の部屋のドアがノックされた。楓はドアを開ける前に、小声で確認した。
「・・・タク?」
「おう」
ドアを開けたすぐの所にファングの入ったカバンを持った拓羅が立っていた。
「楓、これマジ疲れっから!」
そんなことは楓も重々承知だった。
「うん・・・。わかってる・・・」
二人のため息は、もう合い言葉のようになっていた。拓羅が帰っていった後、楓は自分の部屋にカバンを入れるため、持ち上げようとした。・・・が、持ち上げようとした時に動きが止まった。
重い。
物凄く重い。
ファングの体重は五十キロは確実にある。楓がこの歳でなければ、完璧にぎっくり腰になっていただろう。
「・・・・・・・・・えーーーーーーと・・・・・・?」
ブリッジのような体制のまま、しばらく天井を見上げ、仕方なく引きずって入れる事にした。
しかし、問題はここからだ。今日の風呂は大浴場だ。入浴中はずっとカバンから離れている事になる。その間にカバンがひとりでに動きでもしたら―――――。
嫌な映像が楓の頭の中をよぎった。一気に顔色が悪くなった。
「楓?お風呂行かないの?・・・ってどうしたの?なんか顔青ざめてるよ?」
友人にそう言われ、一瞬ビクッとなった。
「いっ・・・いいいい行く行く行く!大丈夫大丈夫!」
友人は少し怪しい者を見る目で見たが、すぐに元に戻った。
そうだ。起こってもいない事を悩んだところでどうしようもない。とりあえずは入る事にした。それに部屋を離れる時は鍵をかう。少なくとも部屋から出る事は無いだろう。大丈夫、と自分に言い聞かせながら風呂場へ向かった。
「広ぉぉぉぉい!ね、ね、楓!広いねぇっ!」
「そーだねぇ・・・」
「・・・何?テンション低いよ?」
「低くない低くない」
「なーんか声も低いし!」
「低くない低くない」
「・・・不機嫌なの?なんか怒ってる・・・?」
「怒ってない怒ってない」
テンションが低いのはあったが、不機嫌なわけでも怒っているわけでもない。ただ不安なだけだ。新幹線内の拓羅と同じく、カバンの事が気になって気になって、会話に集中できない。そのため、友人に誤解されてしまう事も時々あった。
折角の大浴場、しかも温泉なのに、ゆっくり入る事が出来ないまま部屋へ戻る。恐る恐る部屋のドアを開けた。開けたらすぐにカバンを確かめる。置いた位置から動いていない。
チャックも開いていなかった。一応小声で中に居るか調べてみた。確かに声はした。これで中にちゃんと居ると確信できた。ホッとして、ベッドに倒れこむ。隣のベッドではまたも友人が楓に向かって話しかけていたが、全く耳に入らなかった。




