『十九章 吸血鬼と帰宅』
あれから、皆大騒ぎ、俺を生き返らせるために呼ばれた吸血鬼たちは帰り、咲夜は祝いと言うわけでワインを持ってきた。どこにあったんだ。
「1000年以上ほったらかしのワインよ!」
いやワインは寝かせたほうが美味しいと聞くが限度があるだろう・・・
さっそくワインを開けた咲也はグラスに注ぎ、呑み始める。ネラプシも先にズルいと言いながらグラスを棚から取り出して呑む。
輝也もグラスにワインを注ぐとクイと呑んだ。
それからだ、そこから記憶が残っていない。
朝、自然に輝也は目を覚ます。辺りを見渡すと散々に荒れていた。どうやら居間で寝ていたようだ。
「やれやれ…」
痛む頭を抑え、体を起こす、その時、体に違和感を覚える。何かと見ると服を着ていなかった。
「なっ!」
それで目が醒め辺りをもう一度見渡す、すると床には同じく服を着ていない咲也とネラプシ、そしてユナがいた。
真っ先に行き着いた考えはあれしかない。輝也は悶えた。
まさか記憶がない間に童貞を卒業!?いやいやいや!これは夢だ!頬をつねれば…痛い!夢じゃない!初体験が三人同時に相手とはハードな…俺はなんて高レベルなことを…
などと考えていると。
「ん…頭痛い…」
ユナが目を覚ます、輝也は急いでズボンを履く。
「…………」
ユナはぐるりと辺りを見る、そして自分が裸だということに気づく。
「あ…あ……」
ユナの顔がだんだん赤くなっていく。
「キャアアアアア!!」
その悲鳴は島を包み込んだ。
「いやその…覚えていないと言うか…自分でも訳が分からなくてその…」
輝也は悲鳴に目が覚めた咲也、ネラプシに正座をさせられ説教されていた。
「サイテー…私、男に抱かれるなんて…」
ネラプシは涙目だ。
「ま、私が脱がしたんだけどね」
咲也が衝撃発言。
「ってことは俺は冤罪!?」
「ごめん、流れで説教してた」
なんてやつだ…輝也は次に怒りの感情が沸き上がるのが分かった。
「テメー!」
殴りかかったが返り討ちに遭った、何も出来ない。
「今の貴方はただの人間よ?」
ああ、そうだ。皆が言うにはマガツチの力はポリドリに盗まれたらしい、つまり今はただの人間。無力同然。
「ま、どう取り返すか。ね、それに意味もなく盗む訳がない。何かとんでもないことをするはずよ」
「そう言えばライマーは?」
「ああ、貴方たちがぶっ倒れてから帰ったわ。何か調べるらしいし」
「そうか…いつか礼を言わないとな」
なんやかんやで彼女には助けられた、次はいつ会えるだろう。
「さ、そろそろ帰りましょ。船が来るはずよ」
それから帰る為、荷物をまとめ、館を出た。広い海を眺めていると一隻の船が見える、誰が運転しているかは知らないがそれに乗り、船に揺られ始めた。
外を眺めるとカモメではなく、烏が飛んでいた。
「ただいまー」
無事帰宅、ドアを開けると静かだ、どこかに出掛けているのだろうか?まぁいい、取り合えず部屋に戻る。
「っ――」
部屋のドアを開けた途端息を飲んだ。俺のベットにはユリックが、その隣には見覚えのない少女が裸で眠っていた。いや、見覚えはあった、彼女は自分のクラスにいる若草 楓花ではないか。
「なにやってんだ」
俺はユリックを叩き起こす。
「ん…なに…帰ってきてたの…」
「ああ、帰ってきた、そして早々に問題を持ち込むな。疲れてるんだよ」
「ん…ああ、この娘ね。なかなか気持ちよかったよ」
「そうじゃねえ!誰の部屋だと思ってやがる!」
「分かった分かった、掃除するから」
と、ユリックはティッシュであちこちを拭き始める、シーツも洗わないとな…
しかし何故クラスメイトの彼女がこんなやつに…話したことはあまりないがクラス一の美人であり、気が効く娘で男子からも人気が高い。全ての告白を拒否したらしいが。
「よし、綺麗になった」
とユリックは楓花にキスをする。
そのキスで彼女は目が覚めたようだ、トロンとした目で辺りを見渡す。
「あれ…ここ…」
「おはよう、いい朝だね」
ユリックは棒状のラムネ菓子をタバコに見立て、そんなことを言った。
「あ…確か私…」
自分が行った行為を思いだし顔を赤くする。
「気持ちよかったよ」
さらに顔を赤くする。
「あのー、そろそろ出ていってくれないかな」
「え!?輝也君!?」
なんだその顔は、ここは俺の家だ。
「え、や、キャアアア!み、見ないで!」
自分が裸だと言うことに気づきシーツで体を隠す。
「な、な、なんで輝也君がいるの!?」
「なんでっていうか、ここ俺ん家なんだが」
「ええ!そうなの!?」
まさか無理矢理連れてきたんじゃないだろうな?俺はユリックを見る、なんでドヤ顔なんだよ腹立つ。
楓花を帰らせ、ユリックにげんこつを一つ。
「ったく…うちはラブホじゃねぇってのに」
っていない。反省する気ないな。
翌朝、輝也は学校へ向かう。この短い間、俺がどんな目に遭ったかを知るものはいない。なんだか切ないような注目を浴びたい気持ちになる。
窓際の、一番後ろの席には楓花がいた。その前の席はかつての友人が座っていた。
輝也はその空いている席に座り、楓花に謝ることがあった。
「やあ、すまなかったな。昨日は、無理矢理に連れ込まれたんだろ?」
「ううん…いいの、あの人とは前から知り合いで…あの、今日放課後、屋上に来てくれませんか?」
「ああ、そうさせてもらうよ」
そういい別れた、こちらも聞きたいことがある。吸血鬼の彼女とどう知り合ったかだ。
それから時は過ぎ、放課後。日が落ちるのが早くなってきたようだ。暗くなる前に済ませよう、輝也は屋上へ急ぐ。屋上へ繋がる扉を開けると既に楓花はいた。
「遅くなったな」
「ううん、待ってませんよ」
風が強く吹く、寒いな。
「で、聞きたいことがあるんだろ?」
「はい、何故。人間が吸血鬼と暮らしているんですか?」
何を言っているのか分からなかった、何故吸血鬼と分かっている?それにお前も人間だろう。
「さぁな、成り行きだ。…それに今の言葉、まるで自分は人間ではないみたいな言い方じゃねえか。お前は何者だ?」
楓花はしまった、と顔を変え、暫く考えたあとに言った。
「私は魔女です……って信じてもらえませんよね」
「いいや、信じる。俺は他に二人の魔女に出逢った、片方になんかは殺された」
「ええ!?殺された?」
不味かったかな、どうやって生き返らせたかは知らないが。
「ああ、色々あってな、今は生きてるが」
「…まぁ深くは追求しません。心当たりはありますが…」
「しかし驚いた、まさかこんな近くに魔女がいるとはな」
「私も驚きです。吸血鬼と人間が仲良く暮らしているなんて」
楓花は顔を赤く染め、暫く黙ったあと。
「ユリックさんとは…どういう関係ですか?」
妙に低い声だ。
「いや、ただ一緒に暮らしているだけだけど?」
「そうですか…」
ビシィ!
「なっ…」
輝也の足元にスッパリと何か鋭利な物に切られた跡が残った。
「ないと思いますが忠告です。ユリックさんは私のものですよ?」
ゾクリ、背筋が凍った。その目は光が見えない、ただ暗い黒い目だった。
「あ、ああ…肝に命じておくよ」
冷や汗が出る。
「約束ですよ?破ったら飛ぶのは―――」
一瞬、強い風が吹く。その風は輝也の首に切り傷を作った。
血が滲み出る、輝也は今にでも逃げ出したかった、だがやってみろ、その背中を切るぞと言わんばかり威圧感に足がすくむ。
「―!――!」
しかし厄介者に捕まった、これは逆らえないな。
「輝也君!輝也君!」
「え、あ、はい!」
どうやら何度か呼んでいたようだ、考え事をしていて聞こえなかった。
「帰りますよ?風邪ひいちゃいます」
楓花は屋上を後にした。輝也は床に残った傷跡をどうするのか心配になったが普段使われていない屋上だ、大丈夫だろう。
自宅に帰った輝也は夕飯作りに取りかかった。
「ねぇ、何かあった?顔色悪いよ」
ユナが心配そうに見つめてくる。ああ、何かあった。恐ろしいことになった。
「ああ、ちょっとな。でも大丈夫だ」
俺はユナの頭を撫でた、ユナは嬉しいのか羽をぱたぱた動かす。
そんなユナを見て不意に抱き締めたい衝動に駆られたが耐える、味噌汁が溢れてきたので火を弱め味見をする。うん、大丈夫だ。
お椀に味噌汁をよそい、茶碗にも白飯をよそうと食卓へ並べユリックを呼ぶ、暫くしてユリックは降りてくる。椅子に座るといただきますと皆声を揃えて言い、箸を進める。
しかし、あっと言う間に色々なことがあった。確か、非日常を望んだ日から俺の日々は変わった、それに楽しいと感じる。一度死んだと言うのに何が楽しいのか。思わず苦笑いをした。
「どうしたの?何か楽しいことでもあった?」
ユリックが言う。ああ、この非日常が楽しいさ。等とは恥ずかしくて言えない。
「いや、何も。ああ、楓花に色々聞いたよ、割りと身近なところに魔女はいるんだな」
「そうかもね、みんな口にしないだけなのかも。今のご時世、私は魔女だなんて言ってたら病院行きだわ」
「ああ、楓花のことだが。なんか手を出すなと脅されてね」
「…ああー、あの娘独占欲が強いからねー」
おかずのコロッケを摘む、そうか、独占欲が強いか。しかし命を奪うと言うほど独占欲が強いとはな。
「ごちそうさまー」
三人手を合わせ言う、その後三人はそれぞれの部屋に向かった。
新キャラの若草楓花です。魔女です、見た通り使う魔法は風、好きな相手を自分のものにするならば手段を選ばないようなやつです。
誤字脱字等あればご報告ください。あと感想やレビューもよろしければ。