『十五章 吸血鬼と幽霊船』
ある日、咲也から一通のメールが着た。
『連休を利用して私の持ってる島に遊びに行かないか』
なんで俺の周りには金持ちしかいないのか、まぁ興味もあるので行くが。集合場所を見るとある港のようだ、船は誰持ちなのか。
そして例の港に辿り着いたわけだ、寂れた港で嫌な静けさが怖く感じる。ユナは海を眺めているが怖いのか余り近づこうとはしない。ユリックには留守番を頼んだ、あいつは出掛けるよりゲームだそうだ。
何もない港で暫く待っていると一隻の船がこちらに向かってきて港に停まった、結構デカイ客船である。船のデッキから誰かが手を振っている。
「おーい!君が輝也君だね!?咲也が待ってますよ!」
「だそうだ、行くよ、ユナ」
カモメにつつかれているユナを引っ張り、船へ入る。中はとても綺麗で軽やかなジャズが流れている。
「やや、御待ちしておりました!ささ、御部屋はこちらです」
デッキにいた男が部屋まで案内する、ドアが沢山並ぶ廊下に出る、何だか遠くで人の声が聞こえる、俺たち以外にも誰かいるようだ。
「ここが御部屋になります。これが鍵で御座います」
男は鍵を渡すと礼をして立ち去った、早速ドアを開けてみればなかなか綺麗な部屋、気に入った。
早速咲也と合流しようと携帯電話を取り出した時だ。
ピリリリ
着信音が鳴る、咲也からだ、手早く携帯電話を開きボタンをプッシュする。
「もしもし、咲也?今船だよ」
『はぁ?まだ来てないでしょ?』
「ハハハ、何を言ってるんだよ、立派な客船じゃないか」
『客船・・・?ちょっと輝也!その船なんて名前!?』
「名前?ちょっと待って」
辺りを見渡す、大抵パンフレットが―――あった。
「えーとね、《イワンワシリー号》?だってさ」
英語だが何となくは読めた。
『イワンワシリー号?とにかくそれは私の船じゃないわね、早く降りなさい!』
「むぅ、そうだな。そうするよ」
通話を終え、部屋から出ようとした、そこで一つのことに引っ掛かる。
あの男、デッキにいた男は何と言っていた?ああ、確か『咲也が待っている』と――――
『イワンワシリー号、出航します』
無機質なアナウンスが流れる、マズイ!このままでは!
しかし遅かった、船はゆっくりと動き出し、港から離れていく。待てよ?港の場所は間違っていないはずだ、なら何故咲也はこの船に気づかない?
「ユナ、厄介なことになった」
「なぁに?」
ユナはベッドの上でうとうとしていた、いや確かに気持ち良さそうなベッドだが。
「乗る船を間違えた、それに俺たちを案内した男を覚えているか?あいつは嘘を言っていた、咲也はここにはいないそれに奴は咲也と俺の名前を知っている」
これはどういうことか、ただ分かることは奴は俺たちの敵。そして最も怖いのは―――
ギリッと奥歯を軋らせる。ここは船、一つの牢獄である、恐らくここには敵しかいない。逃げ道もない。
「クソッ!やられた!」
ドンッとテーブルを叩く、窓を見れば辺りは霧に包まれどっちがどっちなのか分からない状況だった。
どうする?このまま部屋に籠るか?いや、マスターキーやらで開けられてはお仕舞いだ、だが外に出ればまさに四面楚歌、いつ殺されるか。それにこの船は何処へ向かっているのか、霧のせいで進んでいるのか分からない。
「くっ・・・咲也・・・」
携帯電話を開く、だが圏外になっていた。じっとしていも仕方ない、部屋を出てみよう。
廊下に出ると人の騒ぎ声が聞こえる、部屋に鍵を掛けるとそちらへ向かった。
すると両開きのドアがあり、開けてみるとワッと一気に声が大きくなる、ホールのようだ、大勢の人たちが話し合っている。
「おや、輝也様、どうなさいましたか?」
デッキの男だ。
「この船はどこへ向かっているんですか?」
「この船は―――へ向かっております」
周りの声がうるさくて聞き取れなかった、もう一度聞こうとしたが。
「あ、咲也様をお呼びいたしますね」
男はホールをあとにする、暫くして―――
「あ、ここにいたんだ!」
そこには咲也がいた。これはどういうことか、咲也は確か、いや、これは偽者か?しかし瓜二つである。
「どうしたの?ボーってして」
「あ、いや、何でも」
おかしい、もしかすると電話の相手が偽者?いやそれだと電話をする意味がない。
「ねぇ!デッキに行かない?いい景色だよ!」
バカな、窓の外は霧だったはず。俺は咲也に連れられデッキまで行く、するとどうだろうか、あの霧は嘘のように消えていた。
「これは・・・一体・・・」
唖然としていると。
「そうだ、ねぇ。輝也のマガツチの力を見せてよ」
何を言っているのか。
「何言ってる、あれはユナを守るための―――」
「ユナ・・・?」
確信した、こいつは偽者だ!俺は飛び退き、拳を構える。咲也は首を傾げている。
「なんだお前は!誰なんだ!」
するとニヤリと咲也は口元を歪める、そして体がぐにゃぐにゃとスライムのように動き―――
「バレてしまいましたか、これは私の情報不足、不覚です」
あの男だった、こいつはなんだ、妖怪か?
「何が目的だ!なんなんだお前は!」
「まぁ慌てないで下さい、私は《ポー》、貴方が持つ神の力を奪いに来ました」
「誰がそんなこと!」
「では力ずくで行きますか!」
ダッ!とポーは駆け寄る、だがその早さは常人。スッと避ける。
「貴方の力が見たい、存分に使ってくださいよ!」
腕が機械になり、殴りかかる。
しかし見え見えの攻撃、避けると拳はデッキにぶつかり、激しい衝撃とクレーターを作り上げる。
「ふむ、シェリダンの真似でもダメですか、なら――」
背中に黒い、烏の羽根が生える。そのまま空を舞い、手の平に光の玉を出す、まさか―――
「これはある少年が持つ神の力―――灼熱地獄の始まりです!」
その玉を輝也目掛けて飛ばす、だが玉は何かに打ち消される。
「何事です!?」
何かが飛んできた方向を見る、だがそこには太陽が照っているだけだった。
ドッドッ!
次にまた何かが飛んできた、それはポーの羽根を撃ち抜き、ポーを地面へ落とした。
「何が!クソッ!」
「輝也!」
デッキにユナが来る、しかし太陽があるせいでそれ以上は進めないようだ。
「おや、彼女がユナですか。ならば」
手の平に光の玉を作り出し、それをユナに向ける。
「――やめろ!」
反射的に黒い影が現れ、それは棘となり、ポーを貫く。死んだようにぐったりとしていたが
「これが、マガツチの力・・・!素晴らしい!」
ニヤリと笑い輝也を見る。
「実にいい力です!是非コピーしたいところでしたが―――」
ゴフッと血を吐く、もう時間はないようだ。
「残念です、当たりどころが悪かった見たいですね・・・ですが!見ていて下さいましたか!?」
空に叫ぶ、誰か見ているのか?
『ああ、見ていた。お前は十分働いた』
どこかから声がする、しかしデッキに輝也とポーとユナしかいない。
「有り難き御言葉!」
『ああ、分かった。お前は休め』
ヒュッと何かが落ちてきた。
ドォン!
それはポーの真上から降り、ポーを貫いた。
巨大な棒、いや槍だ。
「マガツチの力を持つ者よ――」
その槍のてっぺんに男が一人、立っていた。
「何故お前は神の力を持ち、妖怪を守る?」
「何を・・・言って・・・」
「神と妖怪は相容れぬ、どうしてもな」
「何を言って・・・というか仲間をなんで殺した!」
「仲間?知らぬ、ただ勝手に着いてきた愚者よ」
「テメェ!あんなに慕ってたじゃねぇか!」
「だからどうした。という話だ」
輝也が男に向かおうとしたときだ、何か黒い影が動いたかと思えばユナが男に殴りかかっていた。男は平然と拳を受け止めた。
「小娘が・・・調子に乗るな」
そのままデッキへと叩きつける、男は槍を抜くとユナへ向けた。
「貴様の墓標はここだ、永遠の命をここで終えろ」
しかし黒い影が男の腕を掴む、男は黒い影を見ると諦めたのか槍を消し、何処かへ立ち去ろうとする。
「まぁいい、またいずれ会おう」
「おい、お前はなんて名だ?」
「・・・俺か?《ポリドリ》だ。ではまたいつか」
スッと霧のように消える、船はゴゴゴと音を立てると方向を変え始めた。
「輝也、大丈夫?」
「大丈夫、それよりユナ!何であんな危ないことを」
「うう・・・ごめんなさい。でも私も何かしなくちゃいけないと思って」
「・・・・・・そうか、ありがとな。部屋に戻ろうか」
―――――――
部屋に帰ると急激な眠気に襲われた、抵抗出来ず眠ってしまう。
――也!―――也!―――輝也!
ハッと名前を呼ぶ声で目が覚める、そこには咲也がいた。
「よかったー、生きてた」
「ここは・・・港・・・?」
「何があったの!?」
「い、いや。確か」
あの船であったことを伝えた、すると咲也は顎に手を添え考え始めた。
「ポーにポリドリ・・・今度はユナじゃなく貴方を狙う奴が出てきたのね」
「ああ、そうみたいだ」
「なんで嬉しそうなのよ」
「いや、俺が狙われるならユナの危険が減るなって」
「・・・呆れた、ユナの為なら死んでも構わないってことね、バカじゃないの?いやバカね」
「ああ、バカさ」
「はぁ、まぁいいわ。なるようになれば。ネラプシ、こいつらを船に連れてって」
「はーい」
とネラプシはユナを担ぐと港に停まっている小さな船へ運ぶ、輝也はそのあとに着いていく。
「・・・何故助けたの?貴方」
太陽が照る空に言う、日傘が邪魔だが。
「なんて言っても答えないか、何が企みか知らないけど、いいの?貴方は人から確実に離れている」
『ああ、構わないさ。今更何を失うか』
何処かから声がする、何故出てこないかは言わないが。
「そう、でもね。神に近づいても神に成ることは出来ないわよ」
『いや、俺は現人神と成る』
「ふぅん、ま、止めはしないけど」
そう言うと咲也は船へ向かった。カモメの代わりに烏がギャアギャアと空を飛んでいた。
誤字脱字等の御報告や感想お待ちしております。そのうちキャラの元ネタ解説とか―――いらないか