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『十三章 吸血鬼と神』

あれから走り回ったがユナの姿はなし、それに手掛かりもない状態である。


「くっ・・・どうする・・・」


「お困りのようだな」


背後から声がする、この声は―――


「やっぱり、海、お前か」


「フフフ・・・あの吸血鬼を追い掛けてお前の家を尋ねたときもこんな夜だったな」


「なっ・・・あれ、お前だったのか!?」


「気づかなかっただろ?それより何か捜していたようだが?」


「ああ、そうだ。ユナがいないんだ!」


「ユナ?ああ、あの吸血鬼か。腹が減れば戻ってくるんじゃないのか?」


「飯は今さっき食った。それになんかヤバそうな奴に連れ去られたみたいで・・・」


「ほう、ヤバそうな奴・・・それはここ最近この辺りを怖がらせている吸血鬼事件の犯人ではないかな?」


「知っているのか!?」


「いや、知らない。が臭うんだ。血の、何人もの血が混じった臭いが」


スンスンと空気の臭いを嗅ぐ海、何も臭わないが。そして臭いのするほうへ歩いていく、俺はそれに着いていった。


「俺は妖怪だ、鼻は効くさ」


「そうそう、何の妖怪なんだ」


「河童」


思わずポカンとした、河童?河童と言えばなんか鱗付いた半魚人見たいな―――


「それは人の勝手な想像だ龍之介って河童の師でな・・・と言っても知らないか、着いた。この辺りから臭う」


そこはごく普通の一軒家、本当にここから臭うのだろうか。


「血の臭いしかしないな、どんな危険があろうとも耐えて見せるんだな」


そう言うと海は夜の闇に消えた。家に入ろうか悩んでいると向こうから狼が二匹こちらに近づいてくるではないか。何故こんなところに狼が!すぐそばにあった箒に手を掛ける、すると一匹の狼がこちらに飛びかかってきた!


「ひいぃ!」


箒で撃退も出来ず、尻餅をつく、その上に狼は乗り、口を開けた。恐怖に目を閉じ、食われる!そう思ったときだ。


「キャハハハハ!本気で怖がってる!」


どこかで聞いた声だ、目を開けてみると目の前にはネラプシがいた。


「フフ・・・まさか・・・あそこまでビビるなんて・・・ククッ」


後ろにはユリックが笑いを堪えている。


「というか狼は」


「もしかして知らない?吸血鬼は狼にも化けるのよ?」


「言ってたじゃない」


ああ、あの時か。聞き流していた。


「私たちは狼に化けてみたの、するととてつもない血の臭い!それを辿ってたらここに着いたってわけ」


「でもただの一軒家ね」


「でも早く行きましょ!あいつはヤバイわ!」


「待て、咲也は!?」


「知らない!先に行ってるんじゃない?」


そう言うと問答無用にドアを開けるネラプシ、鍵掛かってないのか。


家に入ると真っ暗で誰もいないように思えた、だが。


「なんだこの臭い・・・」


むせかえるような血の臭い・・・気持ち悪くなりそうだが耐え、電気を点ける。


「うわ・・・」


思わず身を引いた、そこは血にまみれた廊下が続き、地下に続くであろう階段があった。


「ここね、絶対にこの先だわ」


ネラプシがズンズンと先に進む、何も恐れない度胸が羨ましい。


ネラプシは黙々と階段を降りる、どこまで続くのか、しかし私は彼女を知っている。咲也でも勝てるか分からないような相手だ、だが仕留めなければこの街、いや、この国が危ない。


階段が終わり、また長い廊下が続く。その廊下を真っ直ぐ進むと扉があった、迷うことはない、勢いよく私はその扉を開けた!


そこは床一面、壁一面に広がる血で紅く染まった部屋だった。その部屋の中央にバスタブがあり、一人の女性がワイングラス片手に浴槽に浸かっている、だが浴槽には湯ではなく血が溜められている。


「あら、ハロー、よくここが分かったわね」


と彼女はワイングラスに注がれた血を飲み干す、天井からは血が滝のように流れ落ちており、彼女は血の滝にワイングラスを傾けた。


「会いたかったわ・・・ユナはどこ!?」


「・・・ユナ・・・ねぇ、処女の血を求めて偶然捕まえた吸血鬼のことね?安心しなさい、彼女はデザート、お楽しみよ」


「おい、なんだよあいつは・・・」


輝也が聞いてくる。


「彼女は最狂の吸血鬼と呼ばれている《バートリー》・・・処女の血を求めて何百もの人間を殺してきた化け物よ」


「あら、化け物だなんて。同じ吸血鬼なんだからさぁ」


とワイングラスに注がれた血をくいと飲む。


「吸血鬼の血もまた美味しいものね」


と言うと指を鳴らす、すると天井から縛られた咲也が現れたではないか、体からは血が溢れている。


「咲也ぁ!」


またバートリーは指を鳴らすと咲也は血に染まった天井へ吸い込まれていった。


「バートリー!ユナはどこよ!」


ユリックは言う、バートリーはふぅと溜め息を吐き。


「だから安心しなよ、彼女はデザートだからさ」


パチンと指を鳴らす、すると今度は地面から鉄の筒が現れる、そのなかにはユナが縛られていた。


「彼女はこの《アイアンメイデン》でじっくり料理してあげる、だから安心しなさいな」


「ネラプシ!ユリック!ユナと咲也を助けるぞ!」


輝也がそう呼び掛ける、だがネラプシは震えていた。


「どうしたんだ、いつもの強きはどうした!」


「咲也が咲也が・・・」


「くっ、行くぞ!ユリック!」


腕に黒い影を纏う。ユリックは怒りに任せバートリーに突っ込む。が、床一面に広がった血が一人でに動きだし、巨大な拳となってユリックを吹き飛ばした。


「あらあら、私とやりあうつもりね?」


手で浴槽の血を掬い、うっとりと眺める。浴槽の血が一人でに動きだし、バートリーを浴槽から出す、そして血はバートリーの体を包み込み、紅いドレスへと姿を変えた。


「っ・・・!」


ネラプシはバートリーを睨み付けた、だがネラプシの前に血の壁が現れる。


「無駄よ、あなたの眼で私は殺せない」


ネラプシは何度も試すがその度に血の壁が邪魔をする。


「お前が圭也の家族を・・・」


「圭也・・・?ああ、あの時の少年かしら?ほんとは彼の妹に用があったんだけどね、邪魔だったからみんな殺したわ」


「そうか、なら友人に代わって敵討ちと行こうか!」


拳を地面に叩きつける、そこから黒い影がバートリー目掛けて噴き出される。バートリーは微動だにしなかった、黒い影は血の壁によって塞がれ、影は消えた。


「神の力を持ったとしても所詮は人間、ね」


バートリーは腕をドリルのように変形させ、こちらに突っ込む。その早さはまさに一瞬だった、黒い影が身を守ったが僅かにドリルの先端が腹に刺さる。


「ぐぅ・・・まだだ!」


体から黒い影を呼び出す、黒い影は針のように尖り、バートリーを次々突き刺す、だがそれは全て血の壁によって防がれた。


「悪あがきは済んだかしら?」


今度は腕を獣の口のように変形させ、ガバァと人一人分丸飲み出来るぐらいに開く。しかし、黒い影がバートリーの腕を貫いた。獣の口は消え、腕からは血が滴り落ちる。バートリーはそれをただ見ていた。


「ふぅん、やるじゃん」


バートリーは黒い影を掴むと枝を折るかのように容易く折ってみせた。


バートリーは飛び退くと手を広げ空を仰ぐ、すると部屋中の血は煮えたぎり、紅い湯気が部屋を覆う。視界が悪い、周りは紅く何も見えない。


ヒュッ


何かがこちらに向かってくる音がした、それは紅い血だった。紅い血は縄のように輝也の体を縛る。そして腕をドリルに変化させたバートリーがこちらに歩いてくる。これはまずい、何とかして縄を切らねば、と影を操って縄を切ろうと試みるが全く切れない。ここまでか・・・と諦めかけた時だ。


「よくもやってくれたわね」


「輝也は殺させないよ」


ユリックとネラプシがバートリーに殴りかかる、バートリーはもろに拳を受け、吹き飛ばされる。やはり、あの血の壁はバートリーの意思で現れるものであり不意を突かれれば対処仕切れないようだ。


「全く、吸血鬼は目がいいから困る」


口を拭い、ゆっくりと立ち上がり、パチンと指を鳴らした。


ザバァ


すると血の床から鉄の筒、アイアンメイデンが現れた、それは縛られた輝也を挟むように開く、なかには鋭い棘が敷き詰められている。


「まずい!」


ユリックがアイアンメイデンを破壊しようとしたが


「死ね、人間」


バートリーが腕を降ろすのが早かった、アイアンメイデンは閉じ、なかの輝也を貫く。


「ぐあああああ!!」


中から輝也の悲痛な声が聞こえる。


「あーはっはっはっ!!愚かな人間!貴様らは所詮は食糧に過ぎないんだよ!」


高らかにバートリーは笑う、ネラプシは再び眼を使った、だが床から血が飛び出し眼を封じる。


「ぐぅ・・・眼が・・・」


拭き取るも拭き取れない、こびりついているように。


「くっ!バートリー!」


ユリックはバートリーに駆け寄ろうとしたが、床から腕が現れユリックの足を掴む。ユリックは転け、地に伏せる。


「そろそろ最狂じゃなくて最強を名乗ろうかしら?オホホホ!」


バートリーはユリックの頭を踏みつけ笑う、ユリックはそのバートリーを睨むことしか出来なかった。


ゾクリ


バートリーは嫌な汗が伝うのを感じた。恐ろしい殺気、これはアイアンメイデンからする。まさか、まだ死んでいないと言うのか?


ボコン!


アイアンメイデンになかから拳を叩きつけたような突起が。するとギギ・・・と僅かにアイアンメイデンが開いた、その隙間に指が入り、中からこじ開け始めた、中からは血塗れの輝也が現れる。


「人間っ!しぶとい奴め!」


一瞬で輝也の元に駆け寄り、腕をドリルに変化させ貫こうとする。だが輝也はドリルを掴んだ、そして


「ぐああああ!?」


焼けつくような音と共にドリルは溶け、腕の部分を包んでいた血は無くなった。


「・・・神ガ負ケル・・・?笑止!」


「人間・・・いえ、今の貴方は・・・」


黒い影が輝也を包み始める、全身を包み込んだ黒い影はまさに人影だった。


「神・・・我ガ名ハ、大禍津日神・・・貴様ニ災厄ヲ見セテクレヨウ」


ガシッと輝也、いや大禍津日神はバートリーの首を掴み持ち上げる、そしてそのまま地面へ叩きつけた。床に溜まる血は噴水のように飛び散り、床にクレーターを作った。


「己ガ起コシタ愚行・・・死ヲ持ッテ後悔セヨ・・・」


腕を退けてみるとそこにはバートリーがいた、まだ息はしているだが体を纏っていた血のドレスは吹き飛びどう見ても戦える状態ではない。


「・・・何故殺サヌ、アノ女二危害ヲ及ボス者二ハ容赦ハシナイ筈デハ無カッタノカ?」


大禍津日神は自分の右腕に問いかける、すると右腕は自分の顔を殴ったではないか。


「・・・成程、貴様ハ慈愛二溢レテイル、ダガソレガ甘エデモアル」


黒い影は霧散し、輝也は元に戻ると床に倒れた。腕の拘束が無くなったユリックは輝也に駆け寄る、まだ息はある。


ネラプシも眼に付いた血が取れ、輝也に駆け寄る、すると床からアイアンメイデンが現れた、中にはユナが。そして天井からは咲也が落ちる。


「咲也!咲也!」


「・・・ん・・・ネラプシ?」


「よかった・・・生きてた・・・」


ネラプシは咲也を抱き締めた、咲也はネラプシを撫でてあげた。


「よかった、生きてるわねみんな」


ユナと輝也を抱えたユリックが言う、ネラプシは咲也に肩を貸し、この恐ろしい場所から帰ることにした。


――――――――――――――



















「やれやれ、参ったわね。あんなところで本気だなんて」


暗闇の中、バートリーは逃げるように家を後にしていた。この島国では信仰が絶え絶えになっているから神を恐れることはないと聞いたが嘘だ。酷い目にあった


「あーあ、次はどこで血を吸おうかしら。それとももう隠居しちゃおうかな」


なんて呟いていると。


「―――その前に俺から痛い目に遭うのはどうだ?」


一人の男がバートリーに言う、暗くて顔はよく見えない。


「あら、痛い目見るのはどちらかしら?人間」


男はフッと笑うと手の平に球体を出した、その光は辺りを明るくした。


「!!貴方は!」


バートリーは知っていた、男は誰なのかを。そしてバートリーの視界は白い光に包まれた。

誤字、脱字があればご報告お願いします。感想等もどんどんお願いしますね。

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