『十二章 吸血鬼と吸血鬼と吸血鬼と』
朝食が出来る頃、ユナが目を擦りながら起きた、そう言えばユナに血を吸われたな。しかし何ともない、これはどういうことか、あとでユリックか咲也に聞こう。
「・・・おはようございます」
あの時のことは覚えていないだろう、ライマーのときもそうだった。
「おはよう、朝食出来てるよ。そうだユリックと咲也も」
ユナは首を横に振った
「お姉ちゃんはいいわ、私が人間といるのを見たら・・・」
「ああー・・・いや、大丈夫だろ」
根拠はないが何故かそう思えた。
「その、助けてくれてありがとうございます・・・」
「いやいや、どうも。お姉ちゃんも見つかったしよかったな!」
ユナは頷くと朝食を食べ始めた、こちらも朝食を食べ終わると学校へ向かった。学校に圭也はいなかった、それもそうだ、彼はもう・・・
思い耽っていると。
「よう、あれからどうなった」
「海・・・生きていたか」
「フフッ、俺の作品に負けはない」
「あの妖怪はどうなったんだ」
「さあな、逃げた、別に殺す理由もないしな」
「そうか」
「あのあと何があったかは大体分かる、しかし圭也がな・・・」
「ああ、でも――」
俺は瓦礫で出会った八咫烏を思い出した。
「まだ生きている、そんな気がしてならないな」
「ほう、それは面白い、死んだ人間が蘇るか。それはゾンビかキョンシーか吸血鬼か」
「・・・なあ海、お前は何者なんだ?」
「・・・・・・なに、古くから人間と関わりがある者さ」
人ではないと言うか
「それに俺は元々高天原にいた身だ、あそこには妖怪や神々がウジャウジャいる。俺はその妖怪の一人の――」
そこまでいいかけたときだ、チャイムが鳴り響き、海は「まぁいい、じゃあな」と自分のクラスへと帰って行った。
「えー、最近この辺りで不審者や誘拐事件が多くなっている。みんなも気を付けるように―――」
担任がそんなことを言っている、吸血鬼事件のことだろうか、それに事件はここ周辺でしか起きていない、つまり犯人はこの近くにいる?
「―――天野、おーい、天野」
「へ、あ、はい!」
「夜須はどうしたんだ?」
「え、あ・・・休むと・・・」
「・・・そうか、分かった」
と言うと担任は出席簿に休むことを記入する。
――――――
授業が終わり、放課後となる。不審者対策とし帰宅路には職員が何人か見張りをしている、これを逆手に取れば吸血鬼事件の犯人と遭遇出来るのでは?と思った矢先。
「やめときな、危険しかない」
誰だろう、一人の少女が声をかけてきた。
「やめときなって・・・何考えてたか――」
「吸血鬼事件でしょ?それを知ってるってことは貴方・・・」
「待って、なんであんたも知っているんだ」
もしかするとコイツは敵なのかもしれない、一応警戒しなければ。
「ああ私?ちょっと呼ばれて来たのよ」
「誰に?」
「咲也って名乗ってるわね、今は」
咲也・・・?あの咲也だろうか、それにそう名乗ってるって・・・
「まあ貴方とは味方のようね、よろしく、私は《ネラプシ》わざわざ外国から来たのよ寝床を紹介してちょうだい」
「ちょっと待てなんだ突然寝床を紹介しろだなんてそんな急に言われても」
「あら、ならこの町の住人全員を私の眼で殺してもいいのね?」
ネラプシの紅い眼が嫌に目につく、仕方ないこんな恐ろしい娘、咲也に文句を言ってやる。
「仕方ねえ、俺の家に行こう、まだ咲也がいるハズだから」
ふと思った、俺が家にいないあいだユナは何をしているんだろうか。
こうして自宅に帰ると自室が騒がしい、何事かと部屋を覗いてみると。
「そらっ最後の切り札!」
「奪還!」
「何をするだー!」
ユナと咲也とユリックが大乱闘のゲームをしている、しかもなんだお菓子はジュースを並べて、誰の部屋だと。
そう呆れていると。
「面白そうじゃん!混ぜて混ぜて!」
と、ネラプシは部屋に入っていく。
「お、ネラプシじゃん。来てたの」
咲也が最初に気づき彼女を紹介する。
「彼女はネラプシ、私の友人でね、わざわざ東ヨーロッパから来てもらった」
「よろしく!」
なんだ、やけに機嫌がいいな、あいつ。あ、加わってゲームしだした。仕方がないので俺は別の部屋、もとい親父の部屋に行き本棚から適当に本を取り読むことにした。
しかし、この家がこんなに賑やかなことはあっただろうか、いや無いな。何となく嬉しい気持ちに顔をにやつかせ、本のページを開き読み始める。
「・・・・!」
「・・・・・・・・!!」
あれから数分、騒がしい、なんて騒がしいのか、女子は、いや吸血鬼どもは。
「夕飯はニンニク料理オンリーにしてやろうか・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
静かになった。デビルイヤーは地獄耳か。
「とりゃー!!」
「あ、そこスカーレットデビル」
「マジ!?繋がるのそれ!」
「ネプラシとユナも仲良くなれてよかったわね」
ユリックと咲也は二人仲良くゲームする姿を見守っていた。
「おーい、夕飯出来たぞ!」
下から輝也が呼ぶ声がする、吸血鬼たちはゲームを止め、一階の食卓へ向かった。
食卓にはハンバーグが並べられており、みんなはテーブルを囲むように椅子に座り、「いただきまーす!」と元気よく―――
「ちょっと待て、なんで当たり前のように咲也たちがいるんだよ」
「あら、いいじゃない。別に」
「よかねーよ、お前は自分の家があるだろーが」
「まあ、ケチね、私は今起きたばかりよ?」
「何気に全員の分用意してるじゃん」
ネラプシがそう言う、なんか癖で作ったんだよ!言わせんな恥ずかしい。
「まぁまぁ、ご飯ぐらい楽しくさ、ね?」
ユリックがその場をなだめる、確かにそうだ、だがこのままだと付け上がりそうでな。
「うめぇ、やべぇ、うめぇ」
静かに食えんのか、咲也は。そういや咲也に聞きたいことが。
「なぁ、あの時俺はユナに血を吸われたよな。何ともないんだが」
「ああ、それ・・・はね・・・・・・・・・ゲホッゲホッ!この米いいところのだな、吸血鬼になる・・・にはっ!喉にっ!」
「食ってから話せ!」
何なんだ!昔からこんな奴だったが何も変わってないな!コイツは!
「私・・・輝也の血を・・・?」
あ、不味かったかな。ユナは気まずそうに顔を伏せる。
「いやいや!俺はこの通り何ともないし仕方なかったし!」
「うぅ・・・ご、ごちそうさま・・・」
そう言うとそくささと階段を上がり部屋に入ったのだろうか、ドアを開ける音が聞こえた。
「やれやれ、別に気にしてないのに」
「あの娘はねぇ、血を吸うことが嫌いなんだよ」
ユリックはそう言う、俺が頷くと話を続けた。
「私は吸血鬼であることに誇りを持って生きた、でもユナは人間らしく生きたいのさ、ま、私がそれを許さなかったけどね」
「何故ドヤ顔なんだ、それに別に吸血鬼らしく生きる必要なんてあるのか?」
「そりゃ吸血鬼として地位を示さないとね、嘗められるわよ。高貴なのが吸血鬼ってイメージが強いからねー」
「あら、貴女はまだ古い仕来たりに従ってるの?」
「何よ咲也、私はあのブラド三世の血筋のハズよ」
「え・・・・・・そうだったかしら」
「え・・・・・・」
「・・・私は古参の吸血鬼だけど・・・貴女がブラド三世の血筋ではなかったハズよ」
「ごめん、なんか勘違いしてたみたい」
いや、俺に謝られても
「フフ、とんだ勘違いね?妹さんに謝りに行ったら?」
「そうするわ、ごちそうさま」
そう言うとユリックはユナのところへ向かった。
「ま、出鱈目だけどね。彼女がいつ、どこで生まれたか知らないもの」
この吸血鬼恐ろしい。
「さて、私もごちそうさま。ネラプシは私のところへ住まわせるわ」
「よろしくお願いします」
どうでもいいが食うの遅いな。
暫くしてネラプシが食べ終わり、俺が食器を片付けていると。
「あれ?ユナ来てない?」
ユリックが来た、どうやらユナを探しているようだ。
「部屋にいなかったのか?こっちには来てないが」
「いなかったわ。うーん・・・吸血鬼は鼠や蝙蝠や狼、はたまた霧にまで化けれるからなぁ・・・」
「腹減ったらその内出てくるさ」
「今さっき食べたじゃない」
「そうだったな」
洗い物を済ませ、ユリックと共にユナを捜すことにした。おい、なに俺の部屋で勝手にゲームしてる、この二人は。咲也とネラプシも連れ、ユナを捜すが一行に見つからない。これは参ったと困り果てていたときだ、ユリックが何かを見付けたのかこちらへ呼ぶ声がした。
「どうした?何か見付けたか?」
ユリックが指差す先には窓、しかも開いている。
「こっから逃げたのか」
「違うわ、窓の縁を見て」
俺は窓の縁をよく見てみた、そしてギョッとした、窓の縁には血がびっしりと付いているのだ。
「まさか・・・!これは・・・」
真っ先に反応したのは咲也だった。
「何か知っているのか?」
「・・・ええ・・・私は彼女と直々争うことを想定して助っ人としてネラプシを呼んだの。でもまさかユナが誘拐されるなんて・・・」
「ねぇ!あいつは吸血鬼でもお構い無しなの!?」
ネラプシが咲也に問う、咲也は顔を青ざめながらも答えた。
「あいつは可愛ければ誰でも喰う奴よ・・・ユナが危ない!」
咲也は家を飛び出すとどこかへ走り去った。
「どどどどうしよう!」
ユリックはあわめふためいている。落ち着け、あいつって誰だ。それに可愛ければ喰う?どんな化け物だそれは。
「・・・とにかくみんな、ユナを捜しましょ!」
俺とユリックは頷き、それぞれバラバラになりユナを捜し始めた。
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