『十一章 人間と安堵』
「さあ全て、燃えてしまえ、邪な心も、吸血鬼も、妖怪も全て!この八咫烏様の太陽で!!」
圭也は拳を床に叩き付ける、そこから熱風が吹き荒れる。しかし黒い影が盾となりそれを防ぐ。
何としてでもユナたちを守らなければ。俺は圭也に向かって突っ込み、拳を叩き付けた、しかしそこに圭也はいない。
「『八咫烏キック』!」
上から圭也が蹴りを入れてくる、輝也はそれをガードするが、まるで三回蹴られたかのような衝撃にガードを崩してしまう。
「三本足の烏、それが八咫烏。知らないのか?」
「知らねえな!ったく!何処までも俺たちは仲がいい!」
今度は黒い影が輝也を包む。
「見せてやる、俺にユナを守る力をくれた神、《大禍津日神》の力!」
黒い影に包まれた輝也はもはや人ではなく、鬼のような姿をしていた。
「皆を守る力、八咫烏様に敵うと思うてか!」
圭也の背中から烏の羽根が現れ、空を飛ぶ。
「さあ、輝也。諦めてくれ、俺はお前を救うんだ!」
右腕に光が集まっていき、その光は徐々に大きくなる。
「太陽を泳ぐ龍!」
その球体を叩きつけようとしたときだ。一筋縄の黒い影が圭也を貫く。
「なっ・・・」
光は消滅し、圭也は床に落ちる。その一筋縄の黒い影はユナだった、しかし様子がおかしい。
「不味いわね、彼女、そうとう怒ってるわよ」
いつの間にか起きていた咲也が言う。
「怒ってる?」
黒い影は霧散し、右腕に入っていく。
「恐らくユリックが倒れているのは圭也の仕業と思っているようね」
「このままだとどうなる?」
「前にも言ったでしょ?彼女は力の使い方を知らない。このままじゃあ手に負えなくなるわ」
「・・・いつつ・・・何が・・・」
清香が目を覚まし、辺りを見る。
「よう、久しぶりだな」
「輝也・・・!」
ドオォン!!
激しい衝撃と共に圭也が壁に叩き付けられる。輝也は何があったのかを説明した。
「なるほど、なら私の御札で力を封じることが出来ればあるいは・・・!」
「急いで、精神状態には《Furor》《Insane》《Wahnsinn》がある、一番危険なのは────」
言いかけたとき、ユナと圭也がこちらに飛んできた。
「とにかく!まだユナはFuror!間に合うわ!」
「行くぞ清香!」
黒い影は剣のように鋭くなる。清香は御札を投げる、その御札は圭也に貼り付き動きを止める。
「こ、これは!」
「急いで!神様の力を止めるほどの力はないわ!」
「清香ぁ!貴様ぁ!」
ドッ、輝也の剣が圭也の胸を貫く。
「・・・俺は死なない、悪を・・・滅ぼすまで・・・は・・・」
ドサッと倒れる、悲しむ暇はない!次はユナだ!御札は既にユナに貼り付き動きを止めていた。
何をすればいいか分からない、とにかく───
・・・俺はユナを抱き締めた、ユナは腕のなかで暴れる、その気になれば俺を殺してでも脱け出すことは可能だ。
「───驚いたわ、あの状態に陥った吸血鬼を大人しくさせるなんて」
咲也が感心していたときだ、ユナは輝也の肩に噛み付いた。
注射針を刺したようなチクリとした痛みが走り、次は血が吸われていくのが分かった。
ああ・・・吸血鬼に血を吸われると・・・どうなるんだっけな・・・
薄れゆく意識のなか、輝也は考えた。
─────────
あれから何日経ったか、ようやく輝也は目を覚ました。
「グッモーニーン輝也」
「・・・・・・咲也?なんで・・・・・・ユナは?」
「ふふ、自分よりもユナだなんて、貴方は優しいね。大丈夫、あなたの隣で寝ているわ」
隣を見るとユナが幸せそうに眠っている。ああ、あれは夢なのか?いや違う、俺はあのとき圭也を・・・
「すまない・・・圭也・・・」
涙が溢れる、あの時は敵とはいえ、友人を殺すなんて・・・
「・・・今は泣きなさい、友人の為に、けど、貴方のしたことは間違ってないわ」
そう言うと咲也は部屋を出た。
「よかったの?一緒に泣かなくて?」
部屋を出た咲也にユリックが声をかける。
「泣かないわよ・・・」
「吸血鬼と人間でも仮には友達、悲しいはずよ」
「友人のまえで泣き顔は見せれないわよ」
咲也は目をゴシゴシと拭いた。
「ところで貴女は思い出したの?」
「ええ、思い出したわ。私は《シヴァ》に記憶を壊されたってことね」
「許すの?」
「ええ、彼反省してるみたいだし」
「そう。ところで貴女たちを襲ったヴァンパイアハンターはシェリダンではないのね?」
「ええ、違うわ。もっと危ないやつよ」
「・・・へぇ、これは他の吸血鬼たちにも注意するように言っておかないと」
「あと吸血鬼事件はどうなったの?」
「さぁね、ただ私の知り合いに犯人はいないってことが確かよ」
「そうかしらねぇ、ま、あんた見た感じ古参の吸血鬼だから変に動けないか」
「それもそうね、ふあぁ、寝ましょ、疲れたわ」
「そうね、そうしますか」
二人は適当な部屋に布団を持っていくとそこに敷き、眠りに就いた。
泣き止んだ、もう嘆かない。気持ちはスッキリした。
輝也は部屋を出る、隣の部屋が開いているので覗いてみればユリックと咲也が寝ていた、ユリックはどうするのだろう、行く当てはあるのか。そう言えば海はどうなったのか、あの山に言ってみるか。
外に出れば朝日が昇り始めていた。輝也は真っ直ぐあの山へ進む。―――暫くしてあの山に到着する、そこには覚も海も誰もいなかった。誰が勝ったのか分からなかった。
瓦礫の山を見ると一羽の烏が止まっていた、その烏を見てギョッとした、その烏の足は三本あるのだ。それは圭也が言っていた八咫烏そのものだった。
暫く八咫烏と見つめあっていると八咫烏はフイとそっぽを向き、何処かへ飛び去った。何だったのか、海のことは今日学校に行けば分かるだろう。
そうと決まれば輝也は家に戻る、朝食の用意をしなければ、ユナが起きてしまう。
立ち去る輝也の背を見詰める影が一人、その影はニヤリと口元を歪めると森へと消えていった。