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『世界のシナリオにハメられた「黒煙の魔女」の娘、一子相伝の【魔法障壁全貫通】で理不尽な運命もバカ王子もすべてブチ抜く  作者: ルツ


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熱狂の広場と、宣戦布告の幕開け

王立学園の朝は、いつもと変わらぬ穏やかな光に満ちていた。しかし、校門をくぐった生徒たちの表情には、隠しきれない熱狂が渦巻いている。今日から始まる「学園武闘祭」の参加申し込みが開始されたからだ。

 広場の中央には、魔導技術で構築された巨大な受付カウンターが設置され、そこには長蛇の列ができていた。周囲を埋め尽くすのは、高慢な名門貴族の令息たちと、武功を立てて成り上がろうとする野心的な平民学生たち。彼らの視線は、ただ一つの目的――「ランキング上位入りによる、生徒会への潜り込み」に向けられている。

 レオナは、その喧騒をどこか他人事のように眺めながら列の最後尾に並んだ。いつもの冷徹な無表情。しかし、彼女の内に秘めた「ノア」としての視界は、常に周囲の魔力回路を観察していた。

(この中に、市民代表の手先は紛れているのかしら。あるいは、議長、神殿長、獄長と繋がっている者は……)

 彼女の視線が、人混みの中にいる一人の少年に止まる。教会の神殿長に仕える下級生だ。彼は周囲の学生たちとは明らかに異なる、静寂な魔力波動を纏っていた。

(……あの子、昨夜酒場で聞いた、神殿長の護衛候補の一人に似ているわね)

 レオナは気付かれないように観察を続けた。だが、レオナの注目は一人だけに留まらなかった。

「……おや、レオナ嬢。珍しいな、君がこのような場所に並んでいるとは」

 背後から穏やかでありながら、どこか鋭い声が聞こえた。ルシアンだ。彼は手元にある魔導端末で、常に周囲の情報を解析している。彼の視線は、レオナの背中――というよりも、彼女が今夜「ノア」として纏うはずの気配を、本能的に追いかけているようだった。

「ルシアン。貴方も出るの?」

「ああ。君がもし出るのであれば、僕もデータ収集のために参加しなければならないからね」

 ルシアンはそう言って微笑むが、その瞳は笑っていない。彼は何でも屋「ノア」の技術に、学園の最高峰であるはずの自分の研究以上の「理論」を見出していた。

 列が進み、レオナは受付のカウンターに立った。職員が困惑したように書類を差し出す。

「……レオナ・フォン・ロゼリア様ですね。部門の選択をお願いします。今回は五つの部門が用意されていますが」

 提示されたリストには、以下の名称が並んでいた。

純戦闘部門:純粋な身体能力と武技の競い合い。

純魔法部門:魔力純度と魔法構成力を問う、最も権威ある競技。

無制限部門:魔法・武技・道具使用、何でもありの実戦形式。

サバイバル部門:魔獣の生息域で、指定されたアイテムを奪い合う過酷な長丁場。

破壊力部門:特製魔力障壁をどれだけ遠くへ、深く貫通できるかを測る、伝説の『魔法のホームラン競争』。

 レオナはリストを一瞥し、迷いなくペンを手に取った。

「全部よ」

 職員の手が止まり、周囲の空気が一瞬にして凍りついた。

「ぜ、全部ですか!? 特に『破壊力部門』は、かつて【黒煙】様が樹立した記録が未だに破られていない伝説の競技です。お嬢様、もし失敗すれば、公衆の面前で辱めを受けることになりますが……」

「冗談じゃないわ。私のタスクは、先人が積み上げた『壁』を、その全てをブチ抜いて塗り替えることだから」

 レオナは冷淡にそう言い捨てると、サラリと署名を済ませた。

 その瞬間、広場の二階バルコニーから、鋭い視線が降り注いだ。生徒会長のオスカーだ。彼は伝説の【黒煙】の記録に挑もうとするレオナの背中を見下ろし、何を思うのか。

 さらに、広場の角から駆け寄ってきたのはエリオットだった。

「レオナ、本当に全部出るつもりか!? 獄長派の家系の生徒たちが、君を『危険分子』として失格させようと動いているんだぞ!」

 エリオットの警告に対し、レオナはふっと小さく笑った。それは母親の影に怯える者のものではなく、母親という巨大な壁を越えようとする狩人の輝きだった。

「エリオット、忠告は感謝するわ。でも、失敗したときの汚名を気にするような臆病者は、最初から頂点なんて目指さないの」

 レオナが歩き出すと、彼女の足跡の周りに、誰にも見えない黒い花びらが舞った気がした。

(【黒煙】の記録……。ええ、全部貫いてあげるわ。お母さんが残した魔法の軌跡さえも、私が越えるべき『タスク』の一つに過ぎない)

 レオナの瞳に、議長、神殿長、獄長の顔が脳裏で重なる。誰が黒幕であろうと、誰が市民代表であろうと、この学園の武闘祭で全ての部門を制覇し、この国の中枢に座る者たちを、物理的にも権力的にもひれ伏させる。

 ――武闘祭、開始まであと三日。

 【黒華】の伝説が、今、幕を開ける。

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