[8]
真実に起きた出来事がどんどん真子の頭に流れ込んでいく。
それは、重く、暗く、地獄のような光景
ーーざわつく教室の空気、笑いと沈黙が混ざる。
ーー消えた筆箱、増える落書き。
ーー冷たい水が落ちる、濡れる制服の重さ。
ーー俯く背中が遠ざかる、誰も、追わない。
ーー屋上の風は強い、伸ばした手は届かない。
ーー「ありがとう」 落ちていく影。
ーー白い花が置かれる、誰も座らない席。
ーー『私は悪くない』 声が、重なる。
ーー拳は握られる、立ち上がらない。
ーー椅子が鳴る、背中が去る。
真子は息を止める。
無差別に頭の中を殴られている感覚。
耐えるしかない。
真子は前の世界線で起きた事を正すために足を踏み入れて失敗した真実の心の奥深くを知り、今現在の状況は生半可な立ち入りでは救えない事を理解した。
真子は俯いた状態で、大きく、そして深いため息をつく。
その様子に真実は心配する。
「まこ?・・大丈夫か?」
真子はゆっくりと顔上げる。
「麻耶ちゃんと別れたの?」
唐突な質問に真実は顔色を変える。
そして鍵のかかった机の引き出しを開けて小さな機械を取り出す。
その機械を真子にポイっと投げた。
ボイスレコーダー
真子は何も言わずに再生する。
そこには真実と麻耶の別れ話をするシーンが録音されていた。
録音を聴き終え、ボイスレコーダーの電源をオフにして、真子は静かに口を開く。
「まこと・・横に座って」
そう言って右手でベッドをポンポンと叩いた。
真実は言われるままに真子の横に座る。
しばらくそのまま沈黙が続く・・・・
痺れを切らした真実が、口を開こうと真子に顔を向けた。
その瞬間
真子の顔が近づき、唇が触れ合う
そして体ごと真実に寄りかかる
あまりにも突然に体を預けられたことで、真実は倒れ込む。
真子は覆い被さり、真実をギュっと抱きしめる。
そして、真子は真実の耳元で囁く
「色々と大変だったね・・・・」
「よく・・・・1人で頑張ったね・・・・」
その言葉に、真実の中で何かが崩れた。
堰を切ったように、涙が溢れる。
(ああ・・・・温かい)
(なんだろう・・・・この包み込まれる感覚)
抱きしめられているだけなのに、
世界が、少しだけ戻ってきた気がしていた。
涙が滝のように、流れ落ちる。
「おれ・・よしだ・・助けたかった」
「うん」
「助けられなかった・・」
「うん」
「せっかく・・やり直したのに・・」
「・・・・」
「おれしか救える人いなかったのに・・」
「・・・・」
「失敗した・・」
「・・・・」
真子は何も言わず、ただ抱きしめていた。
その温もりの中で。
真実の中にあった「責める声」が、少しずつ遠のいていく。
【違う・・・・】
【全部・・俺のせいじゃない・・・・】
【でも・・・・】
【それでも・・・・】
喉の奥が震える。
声にならない声が漏れる。
「・・・・こわかった」
小さな、本音だった。
真子の腕が、少しだけ強くなる。
「うん」
それだけだった。
でも、その一言で。
真実の中で、何かがほどけた。
しかし、胸の奥に残る重さは、
まだ消えていなかった。
どこか危ういままだということを、
真子だけは、分かっていた。




