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充電ケーブルに繋がれたスマホは、静かに画面を灯していた。
真子はソファーに座ったまま、その小さな画面をじっと見つめている。
未読500件。
数字だけで、胸の奥が少し重くなる。
指先を伸ばせばすぐに触れられる距離なのに、なぜか動けなかった。
「・・・・はぁ」
小さく息を吐き、真子は画面を操作する。
LIMOアプリを開き、一覧を表示した。
ずらりと並ぶトーク履歴。
懐かしい名前、見覚えのあるアイコン。
そのほとんどが、中学卒業の頃で止まっている。
真子は無意識に、画面を下へ下へと送っていた。
楽しげなやり取り。
他愛もないスタンプ。
『卒業おめでとう』の文字。
――そして、途中から途切れる。
ふと、ある名前の前で指が止まった。
野元 真実
(・・・・あれ)
トーク画面を開く。
しかし、そこにはメッセージが思ったより少なかった。
最後の表示は、中学を卒業した日のまま。
メッセージは、それ以降は、何も残っていない。
(・・・・入って、ない?)
違和感が胸に残る。
何かが欠けているような、空白だけがそこにあった。
真子は画面を戻し、次のトークを開く。
裕子。
そこには、時間を隔てて送られた、いくつかのメッセージが残っていた。
『元気してる?』
少し間が空き、文面が変わる。
『西岡高校で大きな事件があった』
『テレビ観た?』
『いじめがあって・・・・』
『真実くん、学校辞めたんだよ』
短い文章が、淡々と並んでいる。
感情を抑え込んだような言葉。
真子は、画面を見つめたまま動けなかった。
(・・・・やっぱり)
胸の奥で、野元家のあのモヤが、はっきりと形を持ち始める。
次に開いたのは、麻耶とのトーク。
そこも、中学卒業の日で止まっていた。
最後のやり取りは、他愛もないスタンプ。
――ただ、一通だけ、違う日付があった。
去年の夏、7月下旬。
『まことと別れた』
それだけ。
余計な説明も、感情もない。
一行だけが、画面にぽつんと残されている。
「・・・・そっか」
小さく呟き、真子はスマホを膝の上に置いて天井を見上げる。
点と点が、静かに繋がっていく。
母の話。
野元家で見たモヤ。
空白が続いている真実のトーク画面。
(・・・・連絡、できなかったんだ)
理由は分からない。
けれど、メッセージを送れなかった事情があったことだけは、伝わってくる。
真子は、深く息を吸った。
(文字じゃ・・・・足りない)
スマホ越しでは、何も分からない。
既読か未読か、それだけで測れる話じゃない。
「・・・・行くしか、ないか」
そう呟いて、真子は立ち上がった。
向かう先は、1つしかない。
――野元 真実の家。
胸の奥で、小さな緊張が広がっていく。
それでも、足は止まらなかった。
止まっていた時間を、動かすために。




