第七話 荒海の影(宮城 前編)
岩手を越え、舞台は宮城へ。
宮城といえば海。松島。港町。
そして――海に棲む異形。
今回は再び水系バトルですが、
青森とは違い“荒ぶる海”がテーマです。
それではどうぞ。
潮の匂いがする。
波の音が、絶え間なく響いている。
「……落ち着くな」
俺は港町を見渡した。
漁船が並び、カモメが鳴いている。
生きている町。
恐山のような死の気配はない。
「だが、海は常に境界だ」
九尾が水平線を見る。
「この地の主級は“沖”にいる」
海面が、不自然に揺れた。
風はないのに、波だけが盛り上がる。
「来るぞ」
ぬらりひょんの影が広がる。
海が裂ける。
白い泡と共に、巨大な影が現れた。
大海獣・鰐鮫
長い胴体。
龍のような鱗。
鮫の牙。
古来より“和邇”と呼ばれた海の怪。
その巨体が港の前に浮上する。
「……でかすぎだろ」
鰐鮫が低く唸る。
声は直接頭に響いた。
『陸に立つ者よ。なぜ海を乱す』
「乱してねぇよ!」
『嘘を言うな』
海面が荒れる。
漁船が揺れる。
町の人間には見えていない。
だが影響は出る。
「このままじゃ被害が出る」
雪女が海水を凍らせようとする。
だが塩水が氷を弾く。
「主よ、海そのものが力場になっている」
海坊主が前に出る。
「ここは我の領分でもある」
黒い水気が広がる。
鰐鮫の目が細まる。
『死の僧か』
「この主は境界を越えた者だ」
海坊主が告げる。
「試すか?」
次の瞬間。
巨大な尾が振るわれる。
津波。
「散開!」
ぬらりひょんの影が町側に壁を作る。
ヒグマの怨霊が前へ出る。
霊体突進で波を割る。
だが完全には止まらない。
水圧が押し寄せる。
「主、沖へ誘導を!」
九尾が叫ぶ。
町を守るなら、沖で戦うしかない。
「海坊主、足場作れるか!」
「短時間なら」
黒い水柱が立ち上がる。
俺は跳ぶ。
水柱から水柱へ。
沖へ向かう。
背後で津波が収まる。
鰐鮫がこちらへ向きを変える。
『愚か』
巨体が突進。
海が割れる。
圧倒的な質量。
「正面は無理だ!」
ヒグマが咆哮で牽制。
だが鰐鮫の鱗は硬い。
雪女の氷も砕ける。
「主、核は頭部内部!」
九尾が叫ぶ。
だが近づけない。
牙が迫る。
海に叩き落とされる。
塩水が肺に入る感覚。
沈む。
だが――
「座敷童子!」
小さな光が水中で弾ける。
因果反転。
流れが逆転する。
俺の体が押し戻される。
「まだ行ける!」
影が伸びる。
ぬらりひょんが鰐鮫の視界を遮る。
雪女が一瞬だけ表皮を凍らせる。
ヒグマが体当たりで軌道を逸らす。
全員の力で、道ができる。
俺は一直線に跳ぶ。
鰐鮫の額へ。
牙の隙間。
その奥に――
蒼い光。
『来るか』
目が合う。
恐れではない。
誇りの目。
海を守る者の目だ。
「お前、何から守ってる」
一瞬、動きが止まる。
『欲深き陸の民』
その言葉に、少しだけ理解する。
鰐鮫は敵ではない。
だが――
「それでも、通してもらう!」
拳を振りかぶる。
蒼い核へ手を伸ばす。
だが完全には届かない。
海流が逆巻く。
体が弾かれる。
沖のど真ん中。
巨大な渦が生まれる。
鰐鮫の本気。
「主、次で決めねば沈むぞ!」
九尾の声。
波が天まで届くほど盛り上がる。
海と陸の境界が崩れ始める。
宮城決戦、後半へ。
宮城前編でした。
今回は完全パワー型。
北海道の陸戦とは違い、
・海上戦
・連携重視
・町を守りながらの戦い
という構成にしています。
鰐鮫(和邇)は、日本神話にも登場する海の怪。
単なる悪ではなく「守護側」に立たせました。
後編では、
・どうやって海の守り手を超えるか
・鰐鮫は仲間になるのか
が焦点になります。
次回、宮城決着。
第一章も終盤に向けて加速します。
読んでくださり、ありがとうございます。




