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『妖転覇道(ようてんはどう)』  作者: パーカー
第一章 北の霊脈制圧編

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第三話 死者の山(青森 前編)

北海道編を終え、舞台は青森へ。

青森といえば――恐山。

死者の魂が集うとされる霊場です。

今回は直接的な力押しではなく、

“境界”がテーマになります。

静かな不気味さをお楽しみください。

 風の音が違う。

 北海道の荒々しい雪風とは違う。

 乾いた風。

 どこか、生暖かい。

「……ここが青森?」

「恐山」

 九尾が短く答える。

 視界に広がるのは、灰色の大地。

 岩と砂。硫黄の匂い。

 空は曇り、陽の光が薄い。

 生きた気配がない。

「なんか……やばくないか、ここ」

「死者の魂が集う場所だからな」

 雪女が静かに言う。

「主よ。ここは境界が薄い」

 ぬらりひょんの影がわずかに揺らぐ。

「現世と幽世の境が曖昧。足元をすくわれますぞ」

 その瞬間。

 鈴の音が聞こえた。

 ――ちりん。

 振り向くと、小さな子供が立っていた。

 白い服。

 裸足。

 感情のない瞳。

「……誰だ?」

 返事はない。

 子供はゆっくり歩き出す。

 恐山の奥へ。

「待て!」

 反射的に追う。

「主、罠だ」

 九尾が警告する。

 だが俺は止まれなかった。

 なぜか、あの背中を放っておけない。

 岩場を抜け、硫黄の煙を越えた先。

 そこに、黒い水面が広がっていた。

 宇曽利湖。

 風もないのに、水が揺れている。

「……来たな」

 低い声。

 湖面が盛り上がる。

 黒い水柱が立ち上がり、形を成す。

海坊主(青森主級妖怪)

 巨大な黒い僧形の影。

 顔はのっぺりとし、目だけが赤い。

 水と闇でできた身体。

「死者の山に踏み入る生者よ」

 重い声が響く。

「何を求める」

 圧が違う。

 北海道とは質が違う強さ。

「天国への道だ」

 俺は答える。

「……ほう」

 湖面が波打つ。

「ならば問う。貴様は“死”を理解したか」

 言葉が詰まる。

 理解?

 俺は事故で死んだ。

 何も考える暇もなかった。

 未練はある。

 だが――死そのものを理解したか?

「まだだろうな」

 九尾が小さく言う。

「主はまだ、生にしがみついている」

「悪いかよ」

「悪くはない」

 雪女が前へ出る。

「だが、この地では弱みになる」

 海坊主が腕を振るう。

 湖の水が巨大な波となって押し寄せる。

「主!」

 ぬらりひょんの影が防壁を作る。

 だが水が影を溶かす。

「水と死の気配が混ざっている……!」

 雪女が氷壁を張る。

 だが水が氷を侵食する。

「この地では我が優位」

 海坊主の声が響く。

 湖面から無数の手が伸びる。

 冷たい。

 重い。

 足を掴まれる。

「沈め」

 体が引きずられる。

 湖へ。

 冷たい水が膝まで浸かる。

 その瞬間――

 聞こえた。

 母の声。

 友達の声。

 謝れなかった言葉。

 未練が、水の中から囁く。

「主、飲まれるな!」

 九尾の声が遠い。

 俺は歯を食いしばる。

「俺は……まだ終わってない!」

 影を踏み、跳躍。

 水柱へ突っ込む。

 だが海坊主は揺らぐ。

 実体が掴めない。

「ここでは水が本体だ」

 雪女が叫ぶ。

「湖そのものが核!」

 つまり――

 湖に触れなければ勝てない。

 だが触れれば沈む。

 海坊主の目が細まる。

「選べ。沈み、理解するか」

 水位が上がる。

 胸まで浸かる。

 冷たい。

 息が苦しい。

 俺は――

 覚悟を決めた。

「沈むのは嫌だ。でも」

 拳を握る。

「逃げるのも嫌だ」

 湖の中心へ向かって歩き出す。

 水が喉元まで迫る。

 九尾が叫ぶ。

「主!!」

 次の瞬間――

 俺は完全に水へ沈んだ。

 暗闇。

 無音。

 そして、無数の声。

 その奥に――

 黒い核が、脈打っていた。

青森前編でした。

北海道とは違い、

・直接火力勝負

ではなく

・精神・境界戦

を意識しています。

青森後編では、

「死を受け入れるとは何か」

がテーマになります。

海坊主は海の妖怪ですが、

恐山の湖と組み合わせて“境界の主級”にしました。

次回、青森決着。

悠真は沈んだまま終わります。

どう決着させるか、ぜひお楽しみに。

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