第二十二話 東の海鳴り(千葉 前編)
神奈川の港を封じ、次は千葉。
東京湾を挟んで向かい側。
ここは「陸と海の境界」が最も揺らぎやすい地。
そして――古い“海神信仰”が残る場所。
地獄の糸も、静かに動いています。
それではどうぞ。
夜明け前の九十九里浜。
波が低く鳴っている。
「……静かだな」
だが、静かすぎる。
海坊主が眉をひそめる。
「海が重い」
空気に、圧がある。
九尾が砂浜に爪を立てる。
「地下霊脈と海流が絡まっている」
俺は目を閉じる。
千葉の霊脈を読む。
東京湾とは違う。
ここは太平洋に直接繋がる。
外洋の圧。
神奈川で弾いた魔脈の流れが、ここに回り込んでいる。
「回り道かよ」
なまはげが鼻を鳴らす。
その瞬間。
沖合いで海面が膨れ上がる。
波ではない。
円を描くように、水が持ち上がる。
「来るぞ」
天狗が上空へ。
海が割れる。
巨大な影が浮上する。
大蛸
山のような体躯。
赤黒い皮膚。
無数の吸盤が砂浜を這う。
目が、異様に濁っている。
「……操られてるな」
ぬらりひょんが低く言う。
確かに。
大蛸の頭部に、黒い線。
地獄の糸。
薄く、だが確実に繋がっている。
「地獄が海経由で干渉している」
九尾が唸る。
「港を閉じたから、自然境界を狙ったか」
大蛸が腕を振るう。
津波が発生。
「雪女!」
瞬間凍結。
波が氷壁となる。
だが次の触腕が地面を叩き割る。
ヒグマが押し返すが、質量が違う。
なまはげが鬼気で触腕を切り裂く。
だが再生する。
「糸を切らなければ終わらない」
海坊主が叫ぶ。
俺は目を細める。
黒い糸は一本じゃない。
海底へ伸びている。
沖のさらに先。
外洋の霊脈と接続している。
「地獄、直接は来ない」
九尾が言う。
「だが媒介を使う」
大蛸が咆哮。
海水が砂浜を飲み込む。
周囲に人はいない。
だが、霊的均衡が崩れる。
「主」
座敷童子が袖を引く。
「海、泣いてる」
俺は《霊脈統合》を展開。
千葉の霊脈。
漁村の信仰。
海神への祈り。
埋め立てられた土地の記憶。
それらが絡み合っている。
大蛸は本来、守り神に近い存在。
それを糸で暴走させている。
「救う」
俺は言う。
「壊さない」
なまはげが笑う。
「らしいな」
天狗が風で触腕を固定。
雪女が海水を部分凍結。
ヒグマが体を押さえ込む。
海坊主が外洋との流れを遮断。
仲間の連携。
俺は触腕を駆け上がる。
黒い糸の根元へ。
大蛸の頭頂部。
濁った目が俺を見る。
その奥に、紫の核。
地獄の気配。
糸を掴む。
冷たい。
底知れない。
遠くから、低い笑い。
聞こえた気がした。
「またお前か」
歯を食いしばる。
《霊脈統合・海域適応》。
糸を、海神信仰の流れへ絡め取る。
逆流させる。
拒絶。
紫の光が弾ける。
大蛸が絶叫する。
海が震える。
だが糸はまだ切れていない。
さらに沖から、新たな圧が迫る。
「……来る」
九尾が空を睨む。
黒雲が広がる。
海鳴りが大きくなる。
千葉決戦、まだ終わらない。
第二十二話でした。
千葉は
・外洋
・海神信仰
・地獄干渉の自然ルート
がテーマ。
大蛸は本来守護寄り存在。
それを黒幕が操っています。
今回、地獄の糸が“増えている”描写を入れました。
黒幕は確実に力を強めています。
次回、
・大蛸救済決着
・地獄側のさらなる介入
に進みます。




