加護持ち令嬢の災難~たぶん一番迷惑掛けられたのは私~
「アマーリエ、いや、ヒースロー公爵令嬢、貴様との婚約を破棄させてもらう!」
グラスター王立学園の学期末に開かれる終業パーティー。その華やかな会場にて、場違いな声が響いた。
声の主はグラスター王国の第一王子ロドニエル。
彼の周囲には側近候補とされる宰相の息子ダニエルと騎士団長の息子マイケル、そして、一人の少女が侍っている。
「まぁ。婚約破棄とは穏やかではありませんね。理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
一方、ロドニエルから婚約破棄を告げられた少女、アマーリエ・ヒースロー公爵令嬢は、取り乱すことなく淑女らしい落ち着いた態度で応答した。
「ふん! 相変わらず澄ました表情をして可愛げのない女だ。良いだろう、今から貴様の罪を告発する。貴様は自らの地位の高さを鼻にかけ、マリリン嬢を虐めていた! いくら公爵令嬢とは言え、身分で人を差別し、あまつさえ嫌がらせをするような女は次期王妃として相応しくなく!」
ロドニエルの言葉で彼のすぐ近くにいる少女、マリリン・ピーコック男爵令嬢に注目が集まる。
ふわふわとした金髪につぶらな青い瞳、小柄で幼さの残る大変可愛らしい顔立ちをした少女だ。
元々はピーコック男爵家の当主が若い頃、お忍びで街に出かけた際、酒場の店員とワンナイト・ラブして生まれた子どもだったらしい。
幼い頃は母親と平民として暮らしていたが15歳の時に母親を病で亡くし、父親であるピーコック男爵の元に身を寄せたところ、その容姿が一族の女性とよく似ていたことから娘として引き取られたそうだ。
その出自故に貴族女性としては教養に欠けるところがあるが、貴族女性にはない平民育ち故の天真爛漫な性格と、何より庇護欲をそそる可憐な外見に多くの男子生徒を虜にしている。
「虐め…ですか? 生憎、そのようなことをした記憶はございません。そもそも、何故わたくしがそのようなことをする必要がありまして?」
「とぼけても無駄だ。貴様はマリリン嬢が元平民であることを理由に差別していただろう! そして、俺が悩む彼女の相談に乗っていたところを見てあさましくも嫉妬してさらに虐めるようになった!! すでに貴様が虐めの主犯であるということは調べがついているのだ。それをこの期に及んで言い逃れしようとは、全く恥を知れ!」
一方、糾弾されているアマーリエはというと。
こちらも非常に整った容姿をしているが、燃えるように赤い髪と同じく炎のような赤い瞳を持ち、女性にしては高身長なことも相まってどこか威圧感を与える女性である。
小動物のような愛らしさを持つ小柄なマリリンと、ビシッと背を伸ばし鷹のような目つきをしたアマーリエが並ぶと、確かに彼女がマリリンを虐めているようなに見えなくもない。
そんな状況に話を聞いた何人かの男子生徒は批判的な視線をアマーリエに向ける。
……もっとも、何人もの男性からちやほやされているマリリンに対して不満を持っていた女子生徒達は、そんな彼らに冷めた視線を送っていたが。
「ヒースロー公爵令嬢。貴様は生徒会副会長による指導という名目で人気の無いところにマリリン嬢を呼び出し、貴族になって日の浅い彼女に厳しいしっ責を繰り返して委縮させた」
「はい……とっても怖かったですぅ」
そう言ってロドニエルが不躾にアマーリエを指差す。反対側の腕にはマリリンが縋り付き、目に涙を浮かべ震えている。
「それだけじゃないね。自分に逆らえない下級貴族の子女を脅して教科書や制服を破壊させたり、ありもしない悪口を吹聴して表からも裏からも彼女を追いつめ、孤立させて学園を退学するように仕向けた!」
「それでも健気に頑張るマリリン嬢をあろうことか階段から突き落とし、怪我をさせるという暴挙にまで出た! 赤毛の女が近くを逃げていくのを見たと言う証言は取れている! まったく、見た目通り恐ろしい女だ!!!」
王子に続いて、側近候補2人も次々とアマーリエを糾弾する。
その目には陰湿な犯罪者からか弱い少女を守らんとする強い意志が宿っている。
「厳しいしっ責とおっしゃいますが、わたくしが注意したことはこの学園では常識の範囲内のことですわ。それに、後半のことに関しては全く身に覚えがないのですが」
「ふんっ! あくまで自分の罪を認めぬ気か。良いだろう。元々、公爵家の人間である貴様に正面から罪を追求したとしても、家の権力を振りかざしてもみ消すなど容易に想像ができる。よって、言い逃れできないよう強力な助っ人を用意した」
そう言って一度言葉を切ると、ロドニエルは会場の端、料理が並べられているスペースに居た一人の人物を指さした。
「エイミー嬢! 君の力で」
「……はい?」
呼ばれたのは茶髪の何とも平凡な顔立ちをした少女だった。
物語で言えば、完全な脇役。
何なら本人も急に名前を呼ばれたことに動揺して、持っていたローストビーフの皿を慌てて机に置いている。
「誰だ?」
「確か、留学生の方ですよね」
「この状況でローストビーフ食べようとしてたのかあの子」
「肝が据わってると言うべきなのかしら……?」
何故、こんな人物が呼ばれたのかと生徒達の間に困惑が広がる中、ロドニエルは意気揚々と彼女の正体を語った。
「彼女はザルツ王国からの留学生エイミー・ハワード子爵令嬢だ」
「ザルツ王国のハワードってまさか......あのハワード子爵家の方ですか!?」
「流石に貴様も知っていたようだな! そうだ、天界の神よりどんな悪人にも裁きを与えることができる加護『裁きの雷』を与えられた一族、彼女はその長女だ!」
流石のアマーリエも驚きを隠せない。
この世界には時折、神々より“加護”と呼ばれる人智を超えた特殊な能力を授けられた者が存在する。
ザルツ王国のハワード子爵家もその一つだ。他国のこと故、アマーリエも詳細までは知らないが『裁きの雷』とは文字通り『罪を告発された者が実際にその罪を犯していた場合、どこからともなく雷が降り注ぎ天罰が下される』 という有能だが恐ろしい加護であるということは聞いている。
「エイミー嬢には俺から直々に加護を使用を依頼をしよう。さあ、アマーリエ、自らが無実というのであれば神の裁きを受けるが良い!」
自信満々にロドニエルが宣言する。
その後ろではダニエルとマイケルが「もう言い逃れはできまい」と言いたげに彼女を見つめている。
彼らの視線を臆することなく、凛とした雰囲気を纏ったまま受け止めるアマーリエ。
周囲の生徒達が固唾を呑んで見守る中、緊迫した空気をぶち壊す少女の声が会場に響いた。
「えっと……ご紹介に与りました。ザルツ王国より留学生として参りましたエイミー・ハワードと申します」
そう言って戸惑いながらも頭を下げる。
(この平凡そうな娘が本当にあのハワード家の人間なのか?)
疑問が再度、生徒達の間に浮かぶ。
しかし、そんな空気を一切気にすることなくエイミーは胸の前で手を組み、ゆったりと告げる。
「急なことで話が呑み込めないのですが……この度はロドニエル殿下並びにその御学友の方々からのご依頼で、アマーリエ様に『裁きの雷』を施行する……ということでよろしいでしょうか? その場合、申し訳ありませんがアマーリエ様に『加護』を拒否する権利はございません」
そう言ってアマーリエに視線を向ける。
基本的に、神より与えられた加護の使用を他人が妨げたり拒絶することは出来ない。加護の妨害はそれを与えた神への妨害と見做され、その場で天罰が下るとされているからだ。
それに、ここでアマーリエが裁きの雷を拒否すれば、彼らはその態度こそが何よりの証拠だと言い張りアマーリエを犯人として断罪するだろう。
それがわかっているからこそアマーリエは静かに頷き、了承の意を示した。
エイミーがロドニエル達に視線を戻す。
「ロドニエル殿下、『裁きの雷』は手軽に罪人を裁ける便利な道具という訳ではありません。加護とは偉大なる神々のお力を御借りすること。望むからにはそれ相応の覚悟が必要となります」
「ああ、わかっている。さあエイミー嬢、アマーリエの澄ました顔の奥に隠された恐ろしい本性を、今こそその力で暴いてくれ!!」
ロドニエルの宣言を受け、またゆったりとエイミーは頷く。
もはや神による裁きを止められる者は誰も居ない。
「これより神に祈りを捧げます。アマーリエ様が殿下の告発通りに罪を犯されていたならばアマーリエ様に、そして、アマーリエ様が無実であったならば殿下並びにその御学友の方々に神の裁きが降り、その命を以て償うこととなるでしょう。では……」
「「「「ちょっと待って!!!!!」」」」
止められた。
***
「どうかなさいましたか?」
「いや。エイミー嬢、今なんと?」
「ああ、申し訳ありません殿下。御学友では分かりにくかったですね。アマーリエ様が無実であった場合、殿下並びにお傍にいらっしゃる側近候補のダニエル様とマイケル様、それからマリリン様に裁きの雷が降り注ぎます」
聞き間違いじゃなかった。
さらっと恐ろしいことを言われて、余裕綽々だったロドニエル達があからさまに狼狽えだす。
「先程『望むからにはそれ相応の覚悟が必要となる』と申し上げましたでしょう?」
「覚悟ってそういう意味!?」
もっとこう精神的な話かと思っていたら、物理的な命の危機だった。
「『裁きの雷』とは相手の罪を神様に告発し、罰を与えて頂くよう願う能力。告発された側がその通り、或いはそれに近しい罪を犯していた場合は、神様が相応と判断された威力の雷が降り注ぎます……ですが」
エイミーは笑顔のまま続ける。
「相手が冤罪つまり無実で在った場合、罪無き者を糾弾し、さらには神に対して偽りの告発を行ったとして、告発者側に天罰が下ります。ちなみにこちらは基本的に一律で焼……黒焦げになりますね」
「今、焼死って言いかけたよな!?」
誤魔化しきれていない恐ろしい言葉に思わず突っ込むが、エイミーは何も否定せずただ微笑んでいる。
「それって、訴える方のリスクが高くて不公平なんじゃないの……?」
そう、ロドニエルに縋り付くマリリンが恐る恐る主張するが、
「先ほどアマーリエ様にも申し上げましたが、基本的に加護の使用を他者が妨げることは出来ない、つまり、告発された側には拒否権が無いのです。対して、告発者側は自身の意思で加護の使用を求められるのですから、リスクが高くなるのは当然でしょう?」
子供に言い聞かせるように笑顔で説明するエイミー。
「『裁きの雷』とは罪人を判断する為の加護では無く、罪を犯しておきながら権力や金、その他卑怯な手段によって裁きから逃れようとする者に対して天罰を下して頂く加護です。
例えば、私がこちらに留学するより少し前にも、自身の父親が騙されて殺されたけれど、相手の爵位が高く証拠をもみ消されたと言う方が父親の仇討ちと名誉回復の為にと加護の使用を望まれました」
「おお、やはりその加護は立場の弱い者に救いを与える素晴らしい代物だったのだな。その御仁も命を懸けて父親の仇をとったのか!」
「いえ。その時はただの言いがかりによる冤罪だったので、言い出した側が黒焦げになりました」
(何故、わざわざ駄目だった時の事例を話したんだ……)
公爵家の権力を用いて己の罪を隠蔽した(と勝手に推測している)アマーリエと同じような人物が裁かれたと聞いて、にわかに色めき立ったロドニエル達だが即座に叩き落された。
すっかり青ざめているロドニエル達に対して、エイミーはずっと笑顔のままである。
先ほどからちょくちょく恐ろしいことを言っているのに、表情はずっと笑顔固定なのが逆に怖くなってきた。
「ご安心ください。殿下はしっかりと調査をした上でアマーリエ様が犯人だと断定されたのでしょう?
何しろ一国の王子が犯人だと断言されたのですもの。大した証拠もないのに、マリリン様の話だけを鵜吞みにして思い込みで犯人だと決めつけた……なんてことはありえませんよね?
でしたら、恐れることなど何もありません。という訳で殿下、そろそろ神への祈りを再開してもよろしいでしょうか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!!」
なぜか言葉に棘があるような気がするエイミーに「待った」を掛けつつ、ロドニエル達は必死に思考を巡らせる。
ロドニエル達は決して言いがかりや嫌がらせでアマーリエを犯人呼ばわりした訳ではない。
健気で愛らしいマリリンを救う為、独自に調査をした結果、集まった証言や動機の面から彼女が犯人に違いないと結論づけたのだ。
アマーリエを糾弾した時点では、皆本気で彼女が犯人だと思っていた。
だがしかし、『自分の命を天秤に掛けてでもアマーリエを犯人だと断言できるか?』と言われたら、途端に不安になってきた。
ロドニエルは必死に考える。
予想外のことを言われて動揺したが、エイミーの言う通りしっかり調査をした上で結論を出したのだから恐れることなどないはずだ。
何しろ、自分はマリリンがアマーリエに責められているところを見ているのだから!
アマーリエはマリリンに対して、
「婚約者でも無い男性にそのように密着することはお止めなさい。婚約相手のご令嬢方から苦情が寄せられております。何より、貴方自身もふしだらな女性だと思われてしまいますわ」
だの、
「身分が上の方に自分から気安く話しかけるのはマナー違反です。学園では身分は関係ないと言いますが、万が一学外でも同じような振舞いをすれば不興を買って困るのは貴方でしてよ」
だの、
「ピーコック男爵令嬢。貴方は何かあればすぐに『自分は元平民だから』と言い訳なさいますが、能力が足りないという自覚がおありでしたら、放課後の特別講習の一つでもお受けになってはいかがです?」
だの厳しく……
(……あれ? これ言ってることは常識の範疇なのでは?)
これがアウトなら世の中の教員や家庭教師は軒並み罪人ということになる。
流石にそれは無いだろう、ということくらいロドニエルにもわかった。
(いやっ! 叱責の内容だけでなく、アマーリエにはマリリンを虐める確かな動機がある! そうっ!)
婚約者である自分とマリリンが親しくしているのを見て嫉妬したという動機が!
そう思い、改めてアマーリエを見たロドニエルの視界に飛び込んできたのは……
炎のような赤い瞳に、しかし、身体の芯まで凍り付くほど冷たい視線を宿したアマーリエの無表情だった。
空調が完璧に整えられたパーティー会場にいるはずなのに、彼女の背後には凍てつくブリザードが見える。
どんなナルシストでも、あんな視線で見てくる相手に『自分は嫉妬するほど好かれている!』と自惚れることは不可能だろう。
***
ロドニエルがアマーリエの視線に凍り付いていた頃。
王子と一緒になってアマーリエを糾弾していた宰相の息子ダニエルもまた、必死に記憶を思い返していた。
マリリンの教科書や制服、その他私物が壊されていた件。
これに関しては、放課後に教室やロッカーを見張り、犯人をすでに捕まえている。
実行犯は複数人おり、全員下級貴族の子女だった。
その中には普段マリリンと仲良くしていた者もおり『何故こんなことを?』と疑問に思ったのだが、理由を聞けば、皆一様に涙を流して
『本当はやりたくなかったが、身分を盾に脅された』
と証言した。
もしやと思い詳しく問い詰めた結果、脅してきたのがこの国の筆頭公爵家の娘であるアマーリエだと証言が取れた。
さらに、アマーリエの筆跡と思われる嫌がらせを指示するメモも見つかった。だから、犯人は彼女で間違いないと皆で結論付けたのだが……
「いいか、ダニエル。人間とはどうしても自分にとって都合の良いように物事を捉えてしまう。だからこそ広い視野を持たなければならない。一方の意見だけを聞いて判断するのではなく、たとえ気に入らない相手だとしても意見を聞き、先入観を捨てて公平に判断できるようになりなさい」
昔、父親である宰相から言われた言葉が頭の中を駆け巡る。
そして、今更ながら『しっかり調査した』と言いつつアマーリエ側の話を一切聞いていないことに気づいてしまった。
確かに『アマーリエに脅された』という証言はとれた。
しかし、実際にアマーリエが彼女達を脅している場面を見た訳では無い。
指示したというメモに関しても、学園内であればアマーリエの筆跡がわかるものを手に入れられなくもない。短い文章であればそれを元に偽装できなくもないだろう……
この『できなくはない』が重なった状態で、それでも彼女が犯人だ! と言える胆力はダニエルには無かった。
***
ダニエルが冷や汗塗れで頭を抱えていた頃。
騎士団団長の息子マイケルもまた、命の危機を前に頭をフル回転させていた。
マリリンが階段から突き落とされた件。
『赤い髪の女生徒が逃げるところを見た』と言う証言を聞いた時は、とうとうあの女がボロを出したのだと思った。
しかし、自分と同じ王子の側近候補で、自分よりよっぽど頭の良いダニエル曰く、マリリンへの嫌がらせはアマーリエが下級貴族を脅して行っていたとの事だ……
だとしたら何故 “階段から突き落とす” と言うより悪質な行為だけ、わざわざアマーリエ本人が行ったのか。
下手をすれば相手が命を落とすかもしれない傷害事件。バレたら公爵令嬢と言えど、ただではすまない。例え罰を逃れても、陰で傷害犯として一生後ろ指を指されて過ごすことになるだろう。体面を重んじる貴族としては致命的だ。
それに……
赤い髪の女子生徒は確かに少ないが、アマーリエ以外に全く居ない訳では無い……
何なら、アマーリエが疑われていることを察した者が、彼女に罪を擦り付ける為に赤毛のかつらを身につけて偽装した可能性も十分考えられる。
これまで散々脳筋と揶揄されてきたマイケルが覚醒した瞬間である。
この成長が別のところで発揮されていたならば、彼の短慮さを憂いていた騎士団長の父親も泣いて喜んだだろう。
こんな騒動を起こした後なので、今後別の意味で泣くことになるのだが。
***
三者三様に今更ながら焦りだしたロドニエル達が出した結論は……
「その……なんだ。他国の出身であるエイミー嬢の手を煩わせるのは最終手段にしたい。ヒースロー公爵令嬢よ、最後にもう一度弁明のチャンスをやろう!言い分があるのであれば聞いてやらんことも無いし、内容次第ではもう一度調査してやらんことも無い……!」
上から目線でアマーリエに譲歩する、と言うなかなか器用なものだった。
(手を煩わせるも、何もあんたが呼んだんだろう……)
と言う生徒達からの生暖かい視線が突き刺さるが、今は気にしていられない。
『裁きの雷』を止めることが出来るのは、言い出しっぺであるロドニエル達しか居ない。
しかし、自分から言い出したにも関わらず、
『自分の命も懸けるなんて知らなかったので、やっぱり止めます』
などと情けない事を言うのは彼らのプライドが許さなかったのだ。
何、アマーリエだって表面上は澄ましていても、内心では神の裁きを受けることに怯えているに違いない。
弁明のチャンスがあるなら、喜んで飛びつくだろう。
そう踏んでいたロドニエル達だったが……
「いいえ。これ以上わたくしから申し上げる事などありません。どうぞ、殿下のお望み通り『裁きの雷』お使いください」
まさかの被告人本人からGOサインが出された。
「わたくしはヒースロー公爵家の人間として、決して偉大なる神々に顔向けできない様な生き方はしておりません」
「そ、そうか! ならば、やはりもう一度仕切り直して……」
「ですが、殿下はわたくしが虐めの犯人だと断定されました。それに対して、わたくしは違うと否定しました」
アマーリエが真っ直ぐと射抜く様な視線を向ける。
「王族である殿下と筆頭公爵家の娘であるわたくし。互いに国内でも高い地位を持つ我々が正反対の主張をしているとなれば、もはや公平な判断を下せる存在は、殿下がおっしゃる通り天上の神々より他に無いでしょう。さあ、殿下のお望み通り加護を使用して頂きましょう!」
「はい! 殿下が望まれた『裁きの雷』を用いれば、身分などにも左右されず、正しく審判が下されることでしょう!」
何故、2人共もわざわざ“殿下が望んだ”を強調してくるのか。
「ロドニエル殿下、先程からエイミー嬢がアマーリエの肩を持っている気がするのですが……もしやあの2人、事前に通じて我々を脅そうと口裏を合わせているのでは……!」
「いや。加護持ちと偽ったり、加護の内容を偽証すればその場で天罰が下る。それに、アマーリエが横槍を入れぬよう、エイミー嬢にはあえて何も説明していない。エイミー嬢が加護持ちと言う件は、本人の希望で秘匿されているからアマーリエが事前に手を打つことは不可能だろう……」
そう言って顔をしかめるロドニエルに、ダニエルと先程覚醒したばかりのマイケルは「えっ……」と困惑した声を上げた。
二人ともロドニエルからエイミーの加護について割とあっさり聞かされていた為、まさか公爵家にすら秘匿されているような重要事項とは思っていなかったのだ。
「殿下。エイミー嬢が加護持ちだと言うことは本人の希望で秘匿されていたんですか?」
「そうだ! 他国からの留学生という事で王家の人間にのみ知らされてたが、その他は例え公爵家の人間であろうと秘密にされている。だから、アマーリエが事前に何かすることなど……」
「その、殿下は先程その秘密を全校生徒の前でばらされましたが、エイミー嬢に事前に話しても良いと許可は取ったんですよね?」
「……ッ」
「……取ってないんですか!?」
「…………王族として、今回の事件を解決する為に、エイミー嬢の加護を明かす必要があると、判断したんだ」
「………………百歩譲って国内の貴族相手であれば、王族の判断と言われれば納得したかもしれません。ですが、エイミー嬢は他国からの留学生です。重要な個人情報を大勢の前で無許可でばらされたとなれば……我が国に不信感や不快感を抱くのでは無いでしょうか」
そう語るダニエルに、マイケルも言いづらそうに続ける。
「俺は父上から常々、『人に物事を依頼する時は、相手の都合も考えて余裕を持って頼むように』と言われました。加護という重大なものの使用を事前説明もなく、それこそ余興のように急に『やれ』というのは流石にどうかと……エイミー嬢、そのあたりの事めちゃくちゃ怒ってませんか?」
信頼する側近候補2人にそう指摘されて、ロドニエルは恐る恐るエイミーを見る。
その顔は相も変わらず笑顔のまま。
しかし、よく見ると謎の圧力が滲み出していた。
万事休す。
完全に自業自得でしかないのだが、ロドニエル達はこれ以上ないくらい追いつめられていた。
彼らも薄々気づいていた。
自分達の調査が穴だらけだったことを差し引いても、アマーリエがあそこまで堂々と『裁きの雷』を受けると宣言している時点で、彼女が犯人という可能性は低いということを。
そして、堂々としているアマーリエに対して、言い出しっぺでありながら加護の詳細を聞いた途端ゴネ出した自分達の評価など既に地に落ち切っている事も。
それでも……
どれだけ劣勢であろうと……
グラスター王国第一王子として、宰相子息として、騎士団長子息として、これまで培ったプライドが、彼らに『否』と言わせることを邪魔していた。
約1名を除いて。
***
「……ごめんなさぁい!!!」
完全に停滞していた空気をかき消す大声が響いた。
そのまま、大声の主――ずっと王子に縋り付いていたはずのマリリン――は、滂沱の涙と共に勢いよくその場で土下座した。
元々、貴族としての責任感もプライドもそこまで持ち合わせていなかった彼女は、この緊迫した状況に耐えきれなかったのだ。
「ごめんなさいアマーリエさまぁ、ちゃんと調べたなんて嘘なんです!! お願いですエイミーさま、加護使わないでください!!! 黒焦げなんて絶対嫌っ!!!!」
「なっ! 何を言い出すんだマリリン! 嘘だなんて……」
「だって! 私、アマーリエ様が虐めてるところを直接見たわけじゃないもん! そりゃあ、ロドニエル様たちが犯人だって言うから信じたけど…… みんなとお話できるのが嬉しくてちょっと話盛っちゃったのに貴方達、全然気づかないし!!!」
さり気なくとんでもない告白をされた気がするが、周囲が追求するより前にマリリンが声を張り上げる。
「だいたい、ロドニエル様たちだってあーだこーだゴネてる時点で本当はアマーリエ様が犯人じゃないって思ってるんでしょ!」
嗚呼、無情。
護るべき対象だったはずの少女に必死に取り繕ってきた内情をあっさりとばらされてしまった。
憤慨しかけるロドニエル達であったが、しかし、事実故に反論も出来ず顔を真っ赤にして黙り込むしかなかった。
そして、そんな彼らには目もくれずマリリンはわあわあと泣きながらアマーリエとエイミーに向かって懇願していた。
「反省します! もう絶対犯人なんて適当なこと言わないからぁ……黒焦げだけは絶対嫌ぁ」
泣きわめくマリリンにそっとエイミーが近寄る。
「顔を上げてくださいマリリン様。よく正直に話してくださいましたね」
エイミーは今までのわざとらしい笑顔とは違う、慈悲に溢れた穏やかな笑みを携えながら、土下座するマリリンを優しく起こした。
「神様は大変慈悲深い方です。例え間違いを犯しても、マリリン様のように正直に告白し、心から反省をすればきっと挽回の機会を与えてくださることでしょう!」
「エイミーさまぁ……」
あらゆる汁でぐちゃぐちゃになった顔を拭うことも忘れ、マリリンが縋るようにエイミーを見つめる。
ともすれば、神を愚弄しているともとれる行動をとっていたマリリンを責めるどころか、反対に励ますような優しい言葉をかけるエイミーの懐の広さに、『これが加護持ちなのか』と他の生徒達からも感嘆の声が上がる。
「それじゃあ、私のことも許してくれますか……?」
「はい。神は何時でも何処でもマリリン様を見ておられます! マリリン様が心から反省し、態度で示せばいつかきっとその気持ちは届きます!」
「神様が私を見ている……何時でも何処でも……?」
「はい! これから先もずっと、マリリン様が反省するまで見届けてくださるでしょう!」
「こ、これから先も……ずっと……?」
「はい、ずっと!!!」
何か雲行きが怪しくなってきた。
真摯に反省しているように見せかけて内心『この場で加護の使用を回避すれば何とかなるだろう』と若干舐めたことを考えていたマリリンだったが、今回の件で神に目をつけられたのだと認識して、戻りかけていた顔色を先ほど以上に悪くしていく。
エイミーの名誉の為に言っておくと、彼女は脅すつもりなどなく「ちゃんと反省したら、その気持ちは神様に届きますよ〜」という励ましのつもりで発言したのだが、残念ながらマリリンには伝わらなかったようだ。
ロドニエルと側近たちは顔を真っ赤に、マリリンは真っ青にした状態で黙り込んでしまい華やかなパーティー会場を気まずい沈黙が支配した。
永遠とも思われた静寂は、息子も参加しているパーティーだからとサプライズで登場して祝辞を述べる予定のはずだった現グラスター国王(ロドニエルの父)が現れたことでようやく終わりを迎えた。
待機中に臣下から一連の出来事について聞かされてた国王は、会場に到着してそのあまりに馬鹿げた報告が残念ながら真実だったと知ると、深い深い溜息と共にすぐにロドニエル達を下がらせるように指示を飛ばした。
そうして、アマーリエと自国の茶番に巻き込んでしまったエイミーに謝罪をすると、詳しい話し合いは時と場所を変えて行う。今は折角のパーティーを楽しむように。そう宣言して、滞りまくっていた終業パーティーを再開させたのだった。
***
その後どうなったかといえば。
まず、騒動の発端となった『マリリン・ピーコック男爵令嬢いじめ事件』に関してだが、一日と経たずに王家から『いじめは実際に起きていたが、アマーリエ・ヒースロー公爵令嬢は一切関与していない』と正式に公表された。
それもしっかりとした証拠と共に、である。
実は最初にマリリンを虐めていたのは彼女と同じクラスの下級貴族の令嬢達であった。
マリリンは入学当初から学年問わず、見た目の良い男子学生達にすり寄っており、女子生徒達から反感を買っていたのだ。
彼女達の対応は大きく二つに別れていた。
一つは学園や場合によっては自身の両親に相談してマリリンや男爵家に注意して貰うという正攻法。
そして、もう一つが手っ取り早く陰でいじめて憂さ晴らししつつ、彼女を追い出すという短絡的なものである。
前者の生徒達から膨大な数のクレームが寄せられたことで教師は勿論、学内の風紀を取り締まる役割を持つ生徒会も動かざるをえなくなった。
そこで、同じ女性である副会長のアマーリエがマリリンに指導を行うことになったのだ。
ロドニエル達が目撃した光景はこれである。
アマーリエに詰め寄られて怯えている(ように見える)マリリンに同情した彼等は、こっそり彼女に確認した。
『アマーリエにいじめられているのでないか?』と。
それに対して、ちょうど後者の生徒からいじめを受けていたマリリンは『誰が犯人かはわからないが、最近いじめにあっている』と答えた。
元々、自分達より優秀で生徒会なんてものにも入ってるアマーリエ――ロドニエル達は成績が足りず、生徒会に入れなかった。グラスター王立学園は王族だからといって贔屓はしてくれない――が気に入らなかったロドニエル達は、可愛いマリリンへの下心半分、アマーリエをやり込めたい気持ち半分から無意識のうちにアマーリエをいじめの犯人だと思い込むようになってしまった。
そして、表向きは『いじめを放置する訳には行かない』という至極真っ当な理由で調査に乗り出した。
これに焦ったのが本物の虐めの犯人達である。
いつものようにマリリンの私物にアレコレ細工していたところを現行犯逮捕されてしまった。
元平民の男爵令嬢へのいじめなんてバレても大した問題にはならないだろうとタカをくくっていたのに、まさかの王子ご登場である。
大事になってしまった。
焦りまくった結果、咄嗟に出た言い訳が……
「本当はやりたく無かったんです!でも、ある方に命令されて……やらないと家を潰すって脅されて!!」
通称“名前は言えないあの人に脅されました作戦”であった。
正直、自分でも話していてキツいと思った。
だがしかし、アマーリエが犯人だと思い込んでいたロドニエル達は、 “他人を脅せる身分の人間=公爵令嬢アマーリエ” に違い無い! 点と点が繋がった! と勝手に納得してしまった。
いじめ犯達が(窮地は逃れたけど大丈夫かしらこの国……)と別の意味で不安になっていた頃、この状況にさらに目をつけたのがヒースロー公爵家とライバル関係にある家の者達だった。
彼等はこれを機にアマーリエとヒースロー公爵の評判を落としてやろうと、彼女が犯人に見える証拠を捏造していった。
ロドニエル達はそれにまんまと引っ掛かってしまったのだ。
ちなみにその間、公爵家がどうしていたかと言うと……ライバルの家が手に入れられるような情報などしっかり把握しており、対策に動いていた。
まず他でもない王子がアマーリエを犯人だと思い込んでいる時点で下手に噂を消そうとしても、公爵家の権力を云々と騒ぎたてるのは目に見えている。
ならばいっそ、公爵令嬢への冤罪捏造という罪を重ねさせ、それを告発することで相手の勢力を削ごうということになった。
勿論、悪評が残らない様、王子の父親である国王をはじめとした国の重鎮達には根回し済みである。
あの終業パーティーの時点で既に公爵家が丁寧に調べたアマーリエへの冤罪の証拠と、ついでにマリリンをいじめていた真犯人達に関する証拠は国王に提出済みであったのだ。
後は勘違いしている王子への説明兼説教とライバル家への断罪を……と言うタイミングでロドニエル達はやらかしてしまった。
そこまでの馬鹿だとは思わなかった。
糾弾するにしても普通はまず両親なり教師なりに話を通すものだろうと思っていた。
万が一やらかすとしても卒業パーティーとかの大きな行事の時だろうと思っていた。
まさかただの学期末の終業パーティーなどという中途半端なタイミングでやらかすなんて思わなかった。
流石にこればかりは公爵家にとっても王家にとっても予想外だった。
王家から真相が公表された後、いじめや冤罪の証拠捏造に関わった者達には、それぞれ相応の罰がくだされた。なかには言い逃れしようとする者もいたが、公爵家の用意した証拠が完璧過ぎて悪足掻きすら出来なかったらしい。
さて、断罪劇()をやらかしてしまったロドニエルはというと、廃嫡されて一代限りの爵位と共に僻地へと飛ばされることとなった。
王位継承権は三歳年下の第二王子に移された。
アマーリエとの婚約もロドニエル側の有責で破棄されアマーリエはそのまま第二王子の婚約者となった。
多少の歳の差はあるものの、第二王子は第一王子と違って優秀なアマーリエを素直に評価しているし、アマーリエも相手が歳下だからといって見くびったりせず、常に敬意を持って接している。
おかげでロドニエルと婚約していた時よりも良い関係を築けているようだ。
また、側近候補だった二人も次期宰相候補や騎士団長候補として卒業後はそれなりの地位に就く予定だったが全て白紙となり、一番下っ端からはじめることになった。
三人とも成果を出せば “ある程度の地位” まで登り詰めることは不可能では無いが、物凄い努力と運の良さが必要となるだろう。
いずれにせよ、出世街道からは完全に外れてしまった。
本来、ロドニエル達にはもう少し温情が与えられるはずだった。
かなり私情が入っていたとは言え、学内のいじめに対処するという真っ当な理由で動いていた事は事実だ。
マリリンともだいぶ距離感が近かったが浮気と言い切れるほどのことはしていない。
何より彼らはまだ若い。
たった一度のミスで挽回の余地すら与えられず、完全に将来の道が絶たれてしまうのはいかがなものか、というのが大人達の考えであった。
また、アマーリエもこれで殿下達が反省して心を入れ替え良き国王となるのであれば、臣下の務めとして今回のことは水に流し彼等を受け入れようと考えていた。
だがしかし、そんな周囲の心遣いもロドニエル達が深く考えず加護の使用を求めたことで水の泡となってしまった。
事件後、ロドニエルが中途半端に加護の存在を明かしてしまった為、下手に間違った噂が流れないようにと改めて『裁きの雷』に関する詳細な情報がザルツ王国から取り寄せられた資料と共に主要貴族や学園の関係者に伝えられた。
『裁きの雷』の実態を知った関係者達はその恐ろしさに震え上がった。
そして、『加護』の扱いの難しさを改めて認識すると共に、そんな恐ろしい加護を気軽に使用しようとしたロドニエル達に想定以上の批判が集まってしまったのだ。
何より、自身の処遇に不満を漏らしていたロドニエル達本人が『裁きの雷』により命を落とした者達の詳細な描写と写真を見せられたことで態度を一変させた。
エイミーは『黒焦げ』とオブラートに百枚くらい包んだ言い回しをしていたが、実際はそんな可愛らしい表現ではすまないくらい悲惨な状態だった。
もしあのまま『加護』を使用していれば自分達もこんなことに……と怯えるロドニエル達だったが国王から、
「お前達はアマーリエがこのような姿になって命を落としても良いと考え、加護の使用を求めたのだろうな?」
と問い掛けられ、頭を殴られたような衝撃を受けたのだ。
『こんな姿』どころか、そもそも加護を使用すればアマーリエが亡くなるということすら全く意識していなかったことに、言われて初めて気が付いた。
冷静に考えれば『雷が降り注ぐ』という説明の時点で、裁きを受けた側が無事で済まないことくらいわかる。
しかし、マリリンに良いところを見せつつアマーリエに一泡吹かせられるという状況に酔っていた彼等はそんな簡単なことにも気づかなかった。
……そう。
ロドニエル達はただカッコつけてアマーリエに一泡吹かせたかっただけなのだ。
アマーリエを殺すつもりなど欠片もなかった。
それなのに、人の生死にかかわるような恐ろしい加護をあんなにも考え無しで使用するよう指示してしまった。それどころか『裁きの雷』に関する詳細を説明された後でさえも、国王に指摘されるまで自分達が実質『アマーリエを殺せ』と指示していたようなものだということに気づけなかった。
その結果、起こるであろう事態を想定し責任を背負う覚悟すらしていなかった。
ここにきて漸く自身の浅はかさを理解したロドニエル達は、自分達が後継者として相応しくない人間だということを認め、処罰を甘んじて受け入れたのだ。
さて今回の騒動の重要人物であるマリリンについてだが、彼女への対応が一番難航した。
性格や態度に非常に問題があったとはいえ、彼女は正真正銘いじめの被害者である。そこを無視して下手に重い処分を下せば学園側の対応を非難するものも出てくるだろう。
また、アマーリエのことをいじめの犯人だと糾弾していたのも、王子とその側近という権力者が調査した上でそうだと断定していたから信じてしまっただけだと言われると責めにくい。
ならば無罪放免となるかと言えばそうでもない。
本人がぽろっと漏らしてしまっていたが、マリリンは美形の王子やその側近達が自分に構ってくれることが嬉しくて、途中からアマーリエの言動をさも悪意があるかのように大げさに表現してロドニエル達に伝えていたのだ。
彼女の証言によると、結局いじめの犯人であることは変わりないのだからちょっとくらい内容を盛っても問題ないだろうと考えていたらしい。
公爵令嬢を貶めるようなことをしている以上、何らかの罰は与えなければならない。
しかし一方で、学園側が彼女に関する一連の問題を早急に対処できなかった為に事が大きくなってしまったことも事実だ。
被害者でもあり加害者でもある彼女への対応をどうすべきか、と皆が頭を悩ませていたのだが……
この問題は、意外なことにマリリンが自分から『戒律の厳しい修道院に入ります』と言い出したことで解決した。
実はマリリンは断罪劇終盤でエイミーから神様に目をつけられたよ的なことを言われてすっかり怯えてしまったのだ。
神様がずっと見ているということは、普通に日常生活を送っていても何かの拍子に怒りをかってしまうということではないだろうか?
だったらいっそ戒律がきっちり決まっている修道院に入って、それに従って生きる方がうっかりやらかしてしまう可能性が減って安全だろうと考えたらしい。
何はともあれ自主的に修道院入りを言い出してくれた為、彼女への処遇を非難する声は上がらなかった。
アマーリエへの態度に関しても、本人の態度から反省の余地が見られるとして大目に見て貰えた……ということにした。
こうして第一王子婚約破棄宣言事件は無事……とは言えないものの幕を下ろしたのだった。
尚、ある意味今回の騒動の最大の被害者であるエイミー・ハワードはと言えば、『こういう騒動に巻き込まれるのには慣れていますから』と悟りを開いたような諦めたような目で言いつつ、王家から多額の慰謝料を貰うと早々に留学を打ち切って母国へ帰っていった。
そうして貰った慰謝料でローストビーフとスイーツビュッフェをやけ食いしながら、いつも通り『やっぱり人間が加護になんて頼るもんじゃないわ』と同じ加護持ち仲間に愚痴っていたのだった。




