空っぽの器
保谷むつみシリーズ・第三弾
6月のまだ少し涼しげな朝に俺の死刑が執行された。
案外、大きな痛みを感じず、首の骨が一瞬で折ったことが自分でもわかった。
意識が消えると思ったが、俺は意識を保っていた。
これが恐らく、俺が一人じゃなかったからだと思う。
ユウコは俺と一心同体だ・・・
俺たちがすぐに肉体からほり出された。
布を被った俺の体が振り子のように吊るされていた。
「これが死なのか・・・」
「そうみたいだワ・・・」
ユウコがすぐに同意してくれた。
大きな喚きな部屋全体に響いた。
「にげるワヨ」
「あああ・・・地獄の番犬が俺たちを探しに来ているみたい」
「ここからうえにいこう・・ハトがいるワ」
「鳩?」
「どうぶつのたましいがよわいワ」
「そうか・・ユウコが話した乗っ取りか・・・」
「いそごう・・もうくるワ」
俺たちが留置場の上にいた鳩に乗り移った。
動物の霊魂が非力であり、魂になった俺たちにとって簡単なごちそうだった。
地獄の番犬に捕まる直前に逃げることができた。
しばらく鳩の体を使って、都内を飛んでいき、大きなに市立病院の上を通った。
「ここがいいワ」
「どうしたユウコ?」
「からっぽのうつわがあるワ」
「空っぽの器??」
「たましいがしょうめつして、からだだけがのこったワ」
「俺たちが再び生身の人間の体を手に入れられるのか?」
「そうよ・・まだこどもだワ」
「急がないとな・・・いずれ動物の体だと番犬に嗅ぎ付けられるかも知れないな」
「そうよ・・・それといそがないと、こどもがしぬワ」
「わかった・・・行こう!!そして再び玩具を見つけて、壊そう!!」
「うん、うん・・・またおもちゃこわしたいワ」
俺たちが意識不明の重体の子どもの体に入った。
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俺たちが乗っ取った体が8歳の子どものものだった。
本来なら脳死したはずだが、俺たちが入ったことにより、意識を取り戻したように見えた。
俺たちは体の持ち主のことについて、何も知らなかった。
そしてこの数か月、記憶障害を装った。
まだ小学生の体なのですぐに玩具探しができないことが悔しかった・・・
でも焦る必要がなかったし、地獄の番犬たちから見えない存在になった。
成長すれば、また玩具と遊べるし、好きなだけ壊せるから。
「あと10ねん、またなきゃワ」
「そうだね、ユウコ・・・でもまた好きなだけ遊べる・・・留置場で過ごしたつまらない日々に比べたら、たった10年我慢すればいいなだけ・・・」
「はやく・・・やわらかいにくのおもちゃをこわしたいワ」
「ユウコは悪い子だな・・・」
リハビリをして、この体になれてきた時、集中治療室から一般病棟へ移された。
前の体の記憶と感覚があったため、新しい体でも以前の手のひらを真上に向けることができず、肘を曲げて指を動かすことが厳しかった。
40数年の感覚が中々消えない。
一般病棟の大部屋だったが、子どもの体を乗っ取った俺たちだけしかいなかった・・・あの長い黒髪の幼女が来るまで。
幼女は車イズに乗っていた。それを押していたのは上品なスーツを着ている年配の男だった。
幼女は4~5歳だと思った。
「ねえ・・じいや、松元じい・・・あたし眠いの・・・」
「わかりましたお嬢様、寝かせて、外で用事を済ませますよ」
「お願いね・・じいや」
年配の男は幼女をベッドで寝かせた後、大部屋からゆっくりと出ていった。
幼女は寝たと思ったものの、男が視界から消えると俺たちを見た。
「ねえ・・名前・・・お兄ちゃんの名前を教えてくれる?」
「ごめんね・・・覚えてないや・・・僕は大きな事故にあって、記憶を失ったよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
「あたしはむつみだよ・・・5歳になるの」
「5歳?・・可愛いね」
「お兄ちゃんは何歳なの?」
「8歳だと思うよ」
「あたしよりちょっと上ね・・・」
「うん・・・むつみちゃんが可愛いね・・・サラサラな髪も綺麗だな」
「お兄ちゃんは大人みたいにしゃべるのね」
「そうかもね・・・むちみちゃんはかわいいワ・・・」
「女の子みたいにもしゃべるのね」
「そうかもね」
「お兄ちゃんは本当は何歳なの?」
「8歳だよ・・多分」
「45歳じゃないの?」
俺たちの警戒本能が刺激された。
「むつみちゃんはおかしいなことを言うね・・・僕は8歳だよ」
「名前を覚えてないなら、むつみは名前をつけてもいい?」
「カルテに書いてあるよ・・今読むよ・・」
「いいよ・・アタシが名前を付けてあげる・・」
「いいから・・俺の名前は・・・」
「ツトムだよね・・・間違いなくツトムお兄ちゃんだよね・・」
俺たちは得体の知れない恐怖に襲われた。
「なぜ知っている?答えろ!!」
「やはりね・・・ツトムだったのですね」
「ころしますワ」
「あなたはユウコですね」
「何者だ?!ッ答えろ!!もうガキの外見に騙されんぞ!!」
「お前を探しに来た者だよ・・・運命から逃げられないよ・・・ツトムお兄ちゃん」
「このあま・・・ころすワ!!」
「芝居を止めたら・・・ユウコは存在しないよ・・・お前は作った偽りの人格だよ」
「違うよ・・・ユウコがいる・・・ここにいるワ」
「いや・・・お前しかいないよ・・・ツトム」
「くそがき!!!殺すぞ!!」
「やってみればいいよ・・・動けたらね」
俺たち・・・俺・・・初めて気づいた・・・見えない力によって、動けなくなったことを・・
「てめー・・・何をしやがった!!」
「拘束の結界だよ・・・逃がさないよ」
「てめー・・・地獄は嫌だ!!絶対に行かねえからなあ!!」
「お前が行くのは地獄じゃないよ・・・」
「煉獄ならいい・・・天国でもいいぞ・・・地獄の番犬め・・・」
「何か勘違いしてない?」
「じゃ・・なんなんだよ・・・教えろ!!」
「やってはいけないことをしたな・・ツトム・・・お前の四十九日も過ぎているの・・・極楽浄土だの、天国だのもってのほか・・そして地獄でもお前を受け入れない・・・」
「ふざけんな!!!」
「お前は冥途へ行くよ・・・」
「冥途?地獄だろうが・・・」
「救いようのない悪党が赴く迷いの世界だよ・・・永久に彷徨い・・・二度と転生できないように悪党が封印される・・・暗闇に覆われた・・・完全なる【無】だ!!」
「やめろおおお!!!!」
「発狂しても、考えることをやめても、悔いても・・・永遠に出られない・・・お前のようなどうしょうもない最低最悪なクズに相応しい末路だよ・・・ツトム」
視界が急に暗闇に覆われはじめた・・・逃げたいと思っても体が動かなかった・・・
せっかく乗っ取った体から俺たち・・・俺が引っ張り出された。
あのむつみのいう通りだった・・・ユウコ存在しなかった・・・ユウコは俺だった。
「嫌だあああ!!!!助けてくれえええ!!!!」
俺の零体が大きく喚いたが・・・間もなく終わることのない闇に飲み込まれた。
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8歳の男の子の体が力なく、生命の光るもなく、ベッドの上に倒れこんでいた。
「終わりましたでしょうか、お嬢様?」
「終わったよ・・・松元じいや」
「ではお嬢様、次の依頼へ向かわないといけませんので・・・」
「ねえ、体がそろそろ限界だよね?」
「はい、お嬢様」
「では空っぽになったこの子の体を使っていいよ・・・1千万人に一人だもの・・・元の魂が成仏しても、消滅しても・・・体が生き続けるのは・・・」
「え?いいんですか?」
「いいよ・・・地獄からの依頼なの・・・正当な報酬以外、特別ボーナスを貰わないと・・やってられない」
「そうなると思って、あの子の着替えを持ってきました」
「流石・・松元じいや・・いや・・これから松元君だね」
年配の男が車椅子に座り、動けなくなった。
男の子が元気よく着替えて、車椅子を押し始めた。
「では次の依頼がお待ちですよ・・・お嬢様・・・幼女の装いは終わりですよ」
「わかった、わかった・・・松元君」
むつみ、保谷むつみは幼女から10歳ぐらいの女の子の姿へと変貌した後、3人は空になった大部屋から出て行った。
日本語未修整。
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