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第68話 貧しいのは努力してないからだ

 光一は村の中では一際大きい屋敷へ案内される。




「こちらでお待ちください」




 そう言われて、大人しく待つような光一ではない。聞いた限りではこの村が、タカラベ村に向けてナキウの群れを放っている。つまり、この村が加害者で、タカラベ村が被害者だ。


 何故、被害者が加害者の都合に合わせないといけないだろうか。そんな理不尽があるわけ無いのだ。


 村人が部屋から出て行くと、光一は「隠遁」スキルを使って姿を消し、適当な置物を「幻術」スキルで光一に見えるように誤魔化す。


 鍵もかけられていない部屋から抜け出し、ヒソヒソと声のする部屋へ進む。ソロソロと部屋へ侵入すると、十数人の村人が青い顔して話し合っている。




「ヤバいぞ。タカラベ村から人が来るなんて」


「だから言ったんだ。変なことはしない方がいいって」


「だって村長が」


「儂らの村の作物が売れないのは、市場をタカラベ村の作物が占めているからだ! 少しくらいは嫌な思いをさせたいだろう!」


「そのせいでこうなっているんだろ!」


「俺は言ったぞ! もっと水資源の多い所へ移住すべきだって! そしたら、女も子供を連れて、村から出ていかなかったのに!」


「今、それを言っても仕方ないだろ! まずは、タカラベ村への謝罪だろ!」




 やんややんやと大騒ぎ。




「あの小屋にいる変なナキウを、何とかって劇団に売り払えば多少は金になるだろ。それで」




 一人の若者が謝罪案を話していると、一際大きな声が部屋に入ってくる。




「らめー! あれは おでの おくさんー! それと おでの こどもたち! もってってちゃ らめー!」




 発音がおかしく、本人の視線もどこを見ているのか分からない。それでも、本人の言葉を訳すと、小屋の中にいたのはこいつの家族らしい。


 光一は、昔に一時的に住んでいた町にあった教会の神父を思い出す。あの神父も、ナキウを「家族」と称する変な人だった。


 すると、「隠遁」スキルで姿を消している光一の近くにいる若者たちが苦々しく言う。




「ちっ。面倒な。村長の息子だからってあんな障害者が」


「いくら欲情したからって、ナキウを抱くか? しかも、ガキまで作って家族ごっこ……。バカの考えは分かんねーな」




 光一は驚愕する。思わず声が出そうになるが、寸前で我慢する。




(抱いた!? ナキウを!? え、それで子供がって……じゃ、あの人型のチビは……)




 吐き気を催し、光一は部屋から出て行く。


 屋敷を抜け出し、ナキウが押し込められていた柵を通り過ぎ、小屋へ向かう。ドアを押し開き、中へ入ると、五匹のメスと五匹の人型ナキウの幼体が視線を向けてくる。




「フゴ? ビコビコ?」




 一匹のメスが首を傾げつつ、鳴き声を発する。幼体たちは初めて見る光一を珍しがり、ナキウ幼体らしく、好奇心に満ちた様子で光一に駆け寄ってくる。


 五匹の人型幼体が光一を取り囲み、光一を触ろうと手を伸ばしてくる。




「ピキー?」


「ピコー?」


「プクー?」


「プユユ?」


「ポコー?」




 光一は、その中の一匹の首を掴んで持ち上げる。首が締まって、その幼体は息苦しそうに藻掻く。




「ビ! ビィィィィ」




 他の四匹は、その一匹を助けようと懸命に跳ぶが、その手は届かない。


 その四匹を無視して、光一は掴んでいる一匹を睨見つける。


 コレの中に人間の血が混ざっている。


 そう思うだけで、あまりにも悍ましい。


 いっそのこと、このまま絞め殺そうか。


 そう思っていると、いつの間にか、掴んでいる幼体の母と思わしきメスが近くまで来ていた。光一の腕を掴もうと、メスは手を伸ばしてくる。


 光一はそれをヒラリと躱し、距離を取る。




「ィィィ……ピ……ィィィ……」




 窒息している幼体は、限界が近いのか、糞尿を漏らしだした。




「うわっ、汚え!」




 光一は、思わず、幼体を投げ捨てる。糞尿が放物線を描き、偶然にも、メスの腕の中に収まる。


 光一は、自分の体のどこにも糞尿がついていないことを確認している横で、メスが幼体を揺さぶっている。




「プユ! プユユ! ププユ!」


「……ッ!」


「ビキビキ! ビコビコ!」


「……ピ! ピコー!」




 ギリギリで一線を越えていなかったようで、幼体は息を吹き返す。メスは笑顔を浮かべて、幼体を抱き締める。




「ビコビコ!」


「ピコピコ!」




 抱き合う二匹。


 それを見下すように見ている光一は、「回廊」を開き、「風の檻」を発動する。


 光一から距離を取ろうとするメスから幼体を奪い取り、幼体とメスは別々の檻に閉じ込める。全ての幼体とメスを「風の檻」に閉じ込めると、「回廊」へと入る。




 泣き叫ぶ幼体と、怒り狂うメスを無視して、光一が着いたのは王都にあるマルキヤ劇団の本拠地。どうやら、本日の最後の公演を終えたばかりのようだ。


 帰路に着く観客から身を隠すように、光一は劇場の裏側へ向かった。そこには、劇団のスタッフと思わしき青年たちが、公演で使った道具を洗っている。青い血が付いているから、今日も盛大にナキウに使われたのだろう。




「あれ? 光一さんじゃないですか」




 すっかり顔馴染みになったこともあり、光一はあっさりと受け入れられる。




「何か、また、卵袋持ちでも持ってきたんですか?」


「飼育場の連中が喜びますよ。ナキウの生産と育成がギチギチなんで」




 増やすのも育てるのも簡単なナキウでも、数日で使えるようになるわけではない。それなりの期間がかかる。


 だから、ナキウの売り込みは喜ばれるし、普通なら不可能な卵袋持ちのメスを運搬できる光一は上客でもある。


 光一は苦笑を浮かべつつ、首を横に振る。




「期待には応えられないかもしれないけど、珍しいヤツを見つけたんで。コレらを買ってもらおうかなって」




 そう言って、光一は「風の檻」の中にいる、人型ナキウの幼体を見せる。


 取り囲む青年たちは興味深く観察し、手を伸ばす。光一はそれに合わせて檻を解き、幼体は青年たちに持ち上げられた。




「団長が言っていたな。人型のナキウが欲しいって。見せ物にするだけで金になるってさ」


「まさか、本当にいたとは」


「この感触、もしかして、筋肉か? ナキウのゲル状のとは違うな」


「何にせよ、コレは団長に朗報だな」




 そう言いながら、幼体を左右や上下に回しながら観察し、一旦、光一に返す。


 洗い物よりも優先度が高いと判断してもらえたのか、青年の一人が光一を中へと案内してくれた。


 以前、ナキウのメスや幼少体などを売りつける際に使われた応接間に通され、十分もしない内に団長が現れる。




「ほお! コレが人型の! あの町以降、発見できませんでしたが、他にもいたとは!」




 来るなり、団長は興奮気味に幼体を持ち上げ、青年たちがしていたように観察する。


 幼体は泣き続け、メスは狂ったように威嚇している。返却を求めるように手を伸ばすが、それに応える者はいない。




「光一くん、コレは人の言葉は?」


「喋れません。前に見つけた連中は喋れたし、教えれば話せるとは思いますけど」


「なるほど。教育次第ですな。それで、こっちのメスは?」


「コレらの母です。教育に使えるかなって。あと、小耳に挟んだことですが」


「ほお? 何をですかな?」


「人間の男とナキウのメスが交わると、人型の幼体が産まれるみたいなんですよ」


「……………………っ!」




 団長は、光一が今までに見たこともない表情を浮かべる。生理的に受け付けない何かを見たかのような表情だ。光一だって吐き気を覚えたのだし、仕方のない反応だろう。




「それは……一体、どのような状況で?」


「どうも、ある村の男は他とは違う趣味嗜好を持っているようでして。ナキウのメスに欲情したらしいんですよ。その結果として、ナキウと家族になったとか」


「そんなのを持ってきて大丈夫なので?」


「その村は、俺の村にナキウを送りつけるような嫌がらせをしてきた村でして、コレらはその慰謝料みたいなもんです。売れば金になるでしょうし、よもや、ナキウなんて返してほしくもないでしょ」


「なるほど、それは確かに」




 実際には盗んだのだが、問題にはなるまい。むしろ、それを問題にしようとすると、「ナキウに執着する異常な村」という印象を持たれ、今でも貧しい村が余計に貧しくなるだけだ。


 団長は、興味津々だった表情が、一転して悍ましい汚物を見るような表情になって人型ナキウの幼体を見る。床に下ろし、光一の「風の檻」に囚われるのを見つつ、ソファに座る。




「まあ、生理的に受け入れ難いところはありますが、珍しいことに変わりはありませんからな。買い取りましょう。少々お待ちを」




 すぐに人を呼び、待ち構えていた秘書さんが現れる。その手には買い取りに関する書類があり、すでに用意していたようだ。


 団長は書類を確認すると、「買い取り主」にサインする。


 書類を受け取った光一は金額を確認し、その額に驚きを隠せない。




「こんなにいいんですか? 予想より三割くらい多い」


「見せ物にし、客引きに使えば取り戻せますからな。言葉を覚えれば、更に使い道も増える」


「なるほど」




 一般的な年収くらいの金額に納得し、光一は「売り主」の欄にサインする。




「また、珍しいナキウを見つけたら、是非、お持ちください。いつでも買い取りますよ。勿論、卵袋持ちも歓迎です」


「了解です。では」




 そう言って、光一は「回廊」を開いてマルキヤ劇団を後にした。


 光一を見送った団長は、ナキウの調教係を呼ぶと、「風の檻」から解放されて、親子で抱き合って怯えているナキウを引き渡す。




「ピキィィィィィィィ!」


「ビコォォォォォォォ!」




 引き離されるナキウは泣き叫ぶが、人間の力に敵うわけがない。


 こうして、鞭による制裁を交えた調教により、幼体の言葉を覚える日々が始まった。覚えが悪いと鞭で打たれ、目の前で母が打たれる。


 眠ることも許されず、餓死寸前まで食事は抜かれ、拷問のような日々に幼体の心は壊れ、劇団員の言葉に忠実な傀儡に成り果てるのは別のお話。








 思いもしなかった臨時収入で懐が温かい光一は、少しばかり上機嫌でタカラベ村へと帰ってきた。村長に会うためだ。


 寝る準備をしていた村長だったが、後回しにすることはなく、光一を家の中の応接間に通してくれた。


 そこで、光一があの村で知り得た情報を伝え、人型ナキウの売上金を渡す。元々、金に執着せず、卵袋持ちの運搬方法の利用料で金に困ってもいないため、惜しがる様子もない。




「そんな理由で、ガキ臭い嫌がらせを……?」




 呆れた様子で村長は呟く。


 確かに、この村は財政的に潤っているし、この村の産物は市場でかなりの好評を得ている。多少は妬まれていると分かってはいたが、ここまで地味な嫌がらせをされたこともない。




「分かった。明日、何人か連れて儂も行こう。光一、スマンが案内してくれ。折角、帰ってきたんだし、自分の家で休め」


「急にいなくなって、怪しまれないかな?」


「することがガキ臭いんじゃ。怪しむ頭も無いじゃろ。構わん。グチグチ言ったら村ごと潰すまでじゃ」




 普段は温厚な村長でも、元は武闘派。多少の話し合いには応じるが、面倒臭くなると、他の村人たちと同様に、拳での会話に切り替える。


 あの貧しい村が喧嘩を売った相手は、根っからの武闘派村人たちなのだ。

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