第67話 売られた喧嘩は買うぞ
魔力の増量により、以前よりも長く「隠遁」スキルを使用できる。それを利用し、光一はこの村の中を見て回る。
端的に言えば、随分と貧しい村だ。複数の井戸はあるが水量は少なく、遠くの川から水を汲んで来ている。そのためか、畑の作物の生育具合は芳しく無く、村人たちは痩せ細っている。
そんな中でも、ナキウにだけは定期的に餌を与えており、痩せながらもナキウが生きていられるのはそのためだ。ナキウに与える餌も、雑草や落ち葉の類ではあるが、わざわざ何処かから集めてきているようだ。
そのナキウを収容しているエリアの奥には小屋が建ててある。村人の家と同じくらいの大きさであり、そこにだけは雑穀のような物を持ち込んでいる。
(村人が食えばいいのに、何故、あんな所に?)
気になった光一が小屋へと近づき、そっと中を確認する。
「っ!?」
思わず出そうになった声を押し殺し、窓の下に隠れる。「隠遁」スキルが発動しているから隠れる必要は無いのだが。
そっと立ち上がり、再度、小屋の中を覗く。
そこには、
「プコプコ。プユユ」
「ピキピキ、ププユ」
「プミー、プュー」
と、鳴き声を出している「人型のナキウ」がいた。大きさは幼体くらいだろうか。外見は、海の藻屑となった変異幼体と瓜二つだ。顔と体色はナキウで、体型は人間のよう。
(生きていた? 増殖した? いや、まさか)
そもそも、アレは人の言葉を話していたし、コレらは別個体だろう。
窓にはガラスが無く、木の板が支え棒で開けられているだけだ。その支え棒に触れないように気を付けながら、光一は小屋の中に侵入する。
人型のナキウは五匹。村人が持ち込んだ雑穀を手掴みで食いながら、鳴き声を上げている。
殺したい衝動を抑えながら、小屋の奥へと視線を移すと、そこにはメスの成体がいた。こちらも五匹。このメスたちも雑穀を食べている。
幼体の様子を見ながら、微笑みを浮かべ、メス同士で談笑(?)している。
(そういや、何時ぞやのナキウに汚染された町で人型のナキウを捕らえた時も、母にあたる個体は五匹だったな。一匹の人型につき、母個体は一匹だった。人型のナキウは一匹しか産めないのか?)
光一がそんなことを考えていると、雑穀を食べ終わったらしい幼体たちが、小屋の中を走り回り始めた。幼体同士で追いかけ合っている。
(付き纏っていたアレもだが、人型な分、他の奴よりも速いな)
それでも、目を見張る程ではない。同じ大きさなら、人間の子供の方が速い。
追いかけて、捕まえたらじゃれ合う幼体。それを見守るメス。
(そういや、マルキヤ劇団の団長が人型のナキウを欲しがっていたな。コレは金になるぞ)
光一は小屋から抜け出ると、万が一にでもこの親子が逃げないように、小屋を結界で覆う。
その後、村人たちは小屋には近寄らず、太陽は地平線へと沈んでいった。
「さて、やるか」
光一の行動は早い。
タカラベ村にちょっかいをかけていた村人への制裁は村長に投げるとして、その村長に頼まれたナキウの駆除を開始する。
ナキウが収容されているエリア一帯を結界で覆い、ナキウは逃げられず、異変に気付いた村人が乱入できないようにする。
準備を終わらせた光一は、「隠遁」スキルを解除して、その姿をナキウの前に現した。
「フゴフゴ!?」
「ビキィ! ビコビコ!」
光一の姿を見て、一部のナキウが騒ぎ出す。道中で、光一の襲撃を受けた生き残りかもしれない。
そんな事に構わず、光一が駆除を開始しようとした時、ズボンを何かが引っ張られた。
「あ?」
そちらに目をやると、そこには複数のナキウの幼体がいた。一様に痩せており、よく見かける幼体のような丸っこさは無い。一匹の幼体が光一のズボンを引っ張っている。
「ピ……ピコピコ……ピキィ……」
「プクプク……ペケェ……」
「ポンポコ……ポォン……」
それぞれが弱々しい声で鳴き、腹の辺りを擦っている。空腹を訴えているように見える。
「腹が減っているのか……」
「ポコ……ポコ……」
「憐れだな」
そう言って、光一は幼体を蹴り倒した。
「ピキィ!?」
「空腹は辛いだろ?」
そう言って、倒れた幼体の腹部を踏みつける。いきなり腹部を踏み潰され、幼体の口からは胃袋が、尻の穴からは腸がはみ出る。
「…………ッ!」
幼体は、手足をピンと伸ばした姿勢で、体を痙攣させながら死に至った。
その一部始終を見ていた他の幼体たちは悲鳴を上げながら、光一に背中を向けて逃げ出す。
しかし、ただでさえ遅い足が、空腹のせいで余計に遅くなる。
「フゴォォォ!」
「フギッ! フギィィィ!」
周囲の成体立ちが幼体を助けようと走り出すが、間に合うわけが無い。
一瞬の内に幼体を殺戮した光一は、向かってくる成体も余裕を持って迎え討ち、家族単位で囲んでいる柵を破壊しながら、ナキウの討伐を進める。
ナキウの群れの中には、卵袋を抱えたメスもいる。そのメスは、卵袋を潰れないように抱き締めながら、精一杯の威嚇をする。
「煩いな」
光一は向かってきた成体の腕を掴むと、勢いよく振り回し、威嚇してくるメスに向かって放り投げた。
「ブギュ!」
投げられたオスはメスに命中し、見事に卵袋を破裂させた。オスによって卵袋は破裂し、中の卵もグチャグチャに潰れる。立ち上がろうとする成体の手や足で卵も胎児も潰され、見るも無惨な状況になる。
「ビッ、ビーーーーーー」
卵袋を失ったメスは精神崩壊し、目は左右別々の方向を向き、口からは涎を垂らす。
「他に金蔓の当てはあるから、もう、コイツらは要らねぇ」
そう言って、光一はオスとメスを差別せずに駆除を続ける。泣いて逃げる幼体も、怯えて縮こまる少年体や青年体も、幼少体を守ろうと必死になる成体も関係なく殺していく。
「ほらー、お前らー、晩飯だぞー……って、何じゃこりゃあ!?」
雑草や落ち葉が詰まった籠を背負った青年が訪れる頃には、小屋の中の親子を除き、ナキウは全滅している。
そこに立っているのは、障壁のおかげでナキウの返り血を浴びずに済んだ光一だけ。
その光一に向かって青年が何かを叫ぼうとしたが、それよりも早く、光一は青年との距離を詰める。
「どうも、夜分遅くにすみません」
「だ、誰だテメエ!」
「誰だ? 寝惚けてんじゃねーぞ」
「は、はぁ?」
「先に喧嘩売ったのはそっちだろうが。どうも、タカラベ村の者です」
「な!? た、タカラベ村……!」
「村長んとこに案内しろ。喧嘩、買ってやる」
魔獣との戦いや、「山の獣」の子猫との修行を通して強くなった光一の殺気に勝てず、青年は半ベソかきながら、村長の元へと案内するのだった。
(しまった! ノリと勢いでこんなことに! どこを落とし所にすればいいんだ?)
後先を考えないのは、ルビエラに似た光一である。




